第49話 不器用なルーク

 合同合宿も5日目が終了する頃には、私も医務室から出て自室へと戻って来ていた。

 5日目のカリキュラムが終わり、トウマが自室に戻って来ると、私がいた事に驚き、色々と心配された。

 心配してくれるのは嬉しんだけど、同じ事を何度も繰り返し聞いてきたり、何故か恥ずかしそうに聞いてきたりと、対応が面倒臭くなり後半は、適当に流して答えていた。

 その後の夕飯からは、私も同席し初日以来の美味な食事にありついた。


 食後は、皆が談笑していたりするので、その目を盗んでシャワーにを浴びてしまおうと、そそくさと移動したがルークに呼び止められてしまう。

 私は何で今呼び止めるんだ! という視線をルークに向けると、ルークには伝わらず首を傾げている。


「今少しいいか?」

「あんまり、よくないんだが」

「そうか。なら、用が終わったら声を掛けてくれ、リビングで待ってる」

「えっ」


 ルークは、そう言うとあっさりと私から離れて行った。

 まさかの事に、私は驚いてしまった。

 あの面倒なほどいつも絡んでくるルークが、こうもあっさりと引いて行って、何事かと思っていたのだ。

 私は、何か周囲に仕掛けているんじゃないかと思い、きょろきょろと周りを見回したが、特に何もなく本当にルークは、ただ私に話し掛けて来ただけだと実感した。

 その事実に数分信じられずに、じっとルークを見ていると、ノルマに何をしているんだと声を掛けられてビクッとなる。

 すぐに、慌てながら何でもないと言って、急ぎ足でシャワー室へ向かった。

 私の用事も終わり、少し何の用か疑いつつもルークの元へと向かった。


「やっぱり、いるよね」


 私は柱の陰に隠れつつ、覗く様に見ているとトウマに後ろから声を掛けられる。


「おいクリス。何覗いてるんだ?」

「へっ!? いや、えっと、その……ルークに呼ばれて」

「なら、普通に行けばいいだろ。てか、クリスも呼ばれてたのか」

「何て言うか、いつもみたいにからかわれてるのかなって……ん? トウマも呼ばれたの?」


 そこで私は、トウマも同じくルークに呼び出されている事を知った。

 トウマと一緒に、リビングで本を読んでいるルークの元に行くと、来たかと言って立ち上がった。


「てっきり、俺だけ呼び出されたと思っていて、クリスもいて驚いたぞ。それで、呼び出した理由はなんだよ、ルーク」


 トウマの言葉に私も頷いて、理由を聞こうとした。

 だが、ルークはここではなく、少し移動してからでいいかと言われたので、私とトウマは顔を見合わせて軽く頷て分かったと答えた。

 そして移動した場所は、宿泊施設の外にあるウッドデッキであった。


「それで、外にまで出ないと出来ない話って何だよ?」

「ここ最近、独自でお前の事件の件を調べていたんだよ」


 私の問いかけに、ルークから思っていない答えが返って来て、私は驚いた。

 その後、ルークは独自に調べた事を、私とトウマに対して報告した。

 何故ルークが、その事について調べていたのか聞くと、気になる事があったからとだけ言われ、それ以上の事は言わなかった。


「で、それを言う為に俺たちを呼び出したのか、ルーク?」

「いや、これはついでだ。本題は、別件だ」

「俺の事件は、ついでなんだ……」


 小さく私が呟くと、トウマが別件とは何だよと聞くと真剣な表情で口を開いた。


「シンについてだ」

「シン?」

「何で急に、シンの名前が出てくるんだよ?」

「そうか、トウマは知らなかったな。クリスには前に伝えた事があるが、シンはクレイス魔法学院から生徒交換で来ているんだよ」

「えっ、そうなのか? 初めて知ったな、初等部では全く関わりが無かったから知らなかったわ」

「それが、何か関係があるのか?」


 私の言葉にルークは、頷いて答えた。

 その反応で、何となく私は察することが出来た。

 そしてルークが、本題について話しだすが、内容は私の想像した通りであった。


 シンは、元いたクレイス魔法学院にて、いじめにあっていたらしい。

 正確に言うと、シンの成績や珍しい魔法に嫉妬した他生徒たちがグループとなって、仲間外れにされていたのだ。

 そしてこっちに生徒交換で来る前に、いじめていた主犯格の生徒と運悪く合同合宿で再開してしまい、また合同合宿期間も見えないところでいじられ、黙ってるのをいい事におもちゃの様に扱われていたらしい。

 この事は、シンの態度や怪我の仕方がおかしいと気付いたルークが、直接シンに問い詰めて聞いたことで判明した事だ。

 ルークはシンの話を聞き、シンに直接反抗するか無視するようにように伝えるが、シンは怖がってしまい何もしなくていいと言われたそうだ。


 その事にルークは、そのまま一生相手の言いなり続けるのかと大声で訴えるが、シンは大事になって今の事がエスカレートされる方が困ると言って、そのまま籠る様に布団に入り込んだそうだ。

 ルークはシンの事情を知ってしまった以上、このまま首を突っ込むのはシンからすれば、お節介だと分かっていたが、このままシンを放って置く訳にもいかないと思い、せめて犯人を捜し出すことして、どんな奴か知らないと気が収まらなくなっていたのだ。

 つまり、今私たちが呼ばれた理由は、その犯人探しに付き合えという事であったのだ。


「なるほどね。シンの事は、このまま放っておく訳にもいかないな。でも、本人に黙ったまま、犯人探しをするのはどうなんだ?」

「そうだな。犯人にシンが誰かに報告したと思われ、捜されていると知られたら、シンの言う通りエスカレートするんじゃないのか?」


 私とトウマの意見に、ルークは頷いてそうだなと、分かっていたかのように答える。

 すると、それをどうにかして犯人を探したいから知恵を借りたいんだと、とてつもなく悪い顔をして言われた。


「また難しいこと言うな、ルーク。素直にシンの事が心配だし、何とかしてやりたいから手伝ってくれって言えよ」

「えっ」

「まぁ、ルークの友を気遣う気持ちは、今でも変わってなくて安心したよ。それをもっと、皆に分かる様に表にだしたらどうだ? 少しは皆も接しやすくなるだろ」


 私にはどう見えても、私的に痛い目に遭わせてやろうとしている、悪い奴にしかみえなんだけど。

 だが、トウマの言葉にルークは図星を付かれたのか、恥ずかしそうに視線をずらしていた。

 ははぁーん、さてはこいつ、手伝ってくれとか助けてくれとか言う事を口に出すのが恥ずかしいタイプだな。

 いつもすかしたような顔をしやがってよ、意外と子供っぽい所があるんだな。


 でも、仲間の事はしっかりと思いやれると分かって、少し見る目が変わったよ。

 にしても、面白い事を知れたな。

 今後こいつから一方的にからかわれた時は、この事を使っていじり返してやるとするか。

 その時私は心の中で、今後ルークに対しての武器を手に入れたと少し喜んだ。


 まぁ、それはさておき、うちの仲間をいじめる奴を放って置けないのは、同感だな。

 嫉妬からくる仲間外れからのエスカレートとは、嫌な話だ。

 誰しも思う感情にそれをするなとは言えないが、それを直接相手に被害が出る形でぶつけるのは、良くはないよな……さて、どうしたもんかな……。

 

 そして、私たちはどうやってその犯人を見つけるかを話し合い始めた。

 そんな会話を壁越しに聞いている人物がいたのだ。


 「なるほど。そういう事だったか……これまた、厄介な事だな全くよ」


 そうボヤキながらタツミ先生が小さくためいきをついた。

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