第45話 命の判断

「どいう事だ……」


 ガードルが目を丸くして、シンたちがいつからいなかったかを思い出そうとしていると、ガイルの方から岩を砕く音が聞こえそっちに意識を向けた。

 すると巨大な狼の魔物たちが、ガイルの放った『バースト』で視界が煙に覆われており、その辺の岩を攻撃していた。

 ガイルは、ガードルのいる壁側へ辿り着き、背を壁につけて座り込んでいた。

 それを見て、ガードルはひとまずシンたちの事を考えるのは止め、目の前の魔物から、どう2人と逃げられるかを考えると、ガードルはバックに両手を突っ込み何かを探し当てる。

 手につかみ取り出したものは、臭いで撃退と書かれている2つの筒であった。


 ガードルは、それを1つずつ巨大な狼の魔物に向けて投げ込むと、薄緑色の煙が巨大な狼の魔物を覆うと、煙の中から苦しそうなうめき声が聞こえ出す。

 それを聞くとガードルは、直ぐに重症のクリスの元に駆け寄り、状態を確認した。

 クリスの状態に戸惑う事なく、ガードルは失った血の量を目測で確認し、先に頭部の箇所を持ってきていた止血剤を使ってから、応急処置を行った。

 その後すぐに、魔物に切り裂かれた箇所を確認するため、腹部の服をハサミで切り裂き、状態を確認すると顔から血の気が引いた。


「こ、これは……」


 クリスの腹部の傷は、思っていたより深く膿み始めており、魔物の爪に何かが付着していたとしか思えない様な、むごい傷跡になっていた。

 ひとまずガードルは、バックから綺麗なゴム手袋を取り出し、自身の手に取り付けクリスの傷跡を正確に確認すると、そこで微力ではあるが最近使えるようになった魔力治療を使用して応急処置を行った。

 だが、本当に応急処置であるため、時間が経つと再び傷が開くため、急いで洞窟から出て教員に連絡しなければと判断していた。

 ガードルは、クリスの応急処置を行いながら、ガイルを大声を呼び出した。


「ガイル! こっちに来てクリスの応急処置を手伝ってくれ!」

「なっ、俺だって怪我してるんだぞ!」

「分かってる! だけど、このままだと、クリスの命が危ないんだ! お前もクラスメイトを殺したくないだろ!」

「っ!!」


 その言葉でガイルも、傷を負いながらもガードルの元にやって来た。

 ガードルは巨大な狼の魔物の方をチラッと確認し、まだ時間は稼げると思い、ガイルのセンスを信じ魔力治療のやり方を教え、指示をだすと何とか使えたので、そのまま指示通りに応急処置を行い、クリスが負っていた傷の応急処置が全て完了する。


「よし、取りあえずここから出るぞ! 俺がクリスを背負う。お前は、これを使って先頭を行ってくれ」

「わ、分かった」


 ガイルは、ガードルから小さな瓶を受けて取ると、魔力を流すように言われ、その通りにすると煙が出始め、洞窟内へと流れだした。

 それは洞窟内から、一番近い出口に案内してくれる魔道具であり、それを使いガイルとクリスを背負ったガードルは、煙が流れる方に走り出した。

 途中でガードルは息切れをして立ち止まるも、クリスの命がかかっていると言い聞かせ、体に鞭を打って、ガイルの後を追った。

 ガイルはそんな姿を見て、代わるぞと言うが、ガードルはいいや代わる時間も惜しいんだと言って、洞窟を走り続けると遂に出口に辿り着く。


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

「…はぁ…おい、ガードル…はぁ…はぁ…これから、どうするん…だ……」


 ガイルの言葉を聞き、ガードルはゆっくりとクリスを下ろし、バックから支給された信号弾を上空に向かって放った。

 放った信号弾は、赤色で緊急事態を伝える物であった。

 直後、ガードルはその場に膝から崩れ落ち、ガイルも大の字で寝転がっていた。

 数分後、それに気付いた担当教員がやって来て、驚愕の表情を見せた。


「な、何があったんだ?」

「…んアぁ…詳しい事は…後にしますが、クリスが重症です…一刻も早くタツミ先生を…」


 ガードルは、息切れしながらもクリスの事を報告すると、タイミングよくタツミ先生も到着する。

 そして、クリスの状態を見て担当教員を突き飛ばして、近付き状況を確認し出した。

 それを見て、ガードルもバックを持ち、応急処置した内容を後ろから伝えると、タツミ先生は小さく、これじゃ不十分だと呟いた。

 ガードルはそれを聞き、自分の力不足だと自分を責めていると、タツミ先生は振り返った。


「だが、いい判断だ。さすがは、医師の卵と呼ばれているだけある。ガードル、軟膏剤の材料は持っているか?」

「は、はい。あります!」


 タツミ先生は、ガードルの持っていた材料から膿みを取れる、軟膏剤を作りだし膿みを取り、傷の程度を手で触りながら確認した。

 持ち合わせている物では、ガードルの行った応急処置を引き延ばす事しか出来ないと判断したが、タツミ先生は直ぐに処置を開始した。

 処置を行いながら、立ち尽くしている担当教員に、キャンプ地に連絡して緊急治療を行う準備をするように怒鳴って伝える。

 それを聞き、教員が連絡し終えると続々と教員たちが集まって来て、タツミ先生の指示の下、クリスを安全にキャンプ地に輸送し始めた。

 残ったガードルとガイルは、担当教員に事情を説明していると、洞窟内から行方不明と伝えていたシンたちが現れた。


「シン! それに、ベンとマイクも無事だったか」


 ベンとマイクは、付いて行った途中でシンがつまずき手を貸している間に、見失ってはぐれてしまったと聞き、ガードルは突然いなくなったのではないかったのかと思っていた。

 そして後ろからシンが現れると、顔にあざや体にも傷が目立っていた。

 確かにベンとマイクからの発言から、シンがつまずいて怪我したのではと思えたが、ただつまずいただけで出来る傷やあざではないと、ガードルは直ぐに分かった。

 直ぐにシンの元に駆け寄り、大丈夫かと声を掛けて、応急処置を行いつつ小声で話し掛けた。


「彼らは、あぁ言ってるが、本当は何があったんだシン?」


 するとシンは、ガードルの言葉に驚き一瞬目を見開くが、直ぐに目線をずらし首を横に振った。

 それからも、何度か本当につまずいただけなのかとか、何もなかったのかと訊ねたが、シンからの反応は全て同じであった。

 そして、担当教員たちに呼び出され、チームメンバーが揃った所で、再び今に至った経緯を全て話し始めた。

 担当教員たちはその話を聞き、一度教員たちで話し合うと、1日目の合同合宿カリキュラムは一旦中止する事を決定したのだった。

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