第9話 ゴーレム勝負

 ルークは私の発言を聞き、理解が出来ていないのか、その場で固まって立ち尽くしていた。

 するとルークは、片手で頭をかきながら口を開いた。


「お前、何言ってんだ?」

「へぇ?」

「いや、待てよ。お前が本当に女だとするなら、今までの事に説明がつくな…」


 私が戸惑っていると、ルークは片手を口元に当てて何かを考え始める。

 そして私は、何か勘違いをしていたんではないかと思い始めた。

 もしかしてルークは、初めから私の正体を知って暴きに来たんではなくて、ただ私の魔力の扱い方だけに興味を持って、その真相を知りたかっただけなのではと。


 仮にそうだとしても、辿り着く真実は変わらないか。

 だけど、私の勝手な思い込みのせいで自分から正体をバラすなんて、何やってんだ私!

 もう少し冷静に判断していれば、ここで正面からルークの相手をしなくてもよかったし、もう少し適当な嘘で乗り切っていればルークも諦めていたかもしれなかったのではと後悔する。


 しかし、今たらればという過去の選択に後悔していても仕方ない。

 私にはまだ希望はある。

 ルークにこの事を黙っていてもらうようにする事だ。

 その為に今、思い付く行動は1つだ。


「そうかお前、女だったのか。まさかの秘密で驚いたが、面白い事を知れたよ。まぁ、俺的には残念な結果だったが」


 そう言って訓練場から立ち去ろうとするルークを、私は引き留めた。


「待ってルーク。わた…俺と真剣勝負をして欲しい! 今知った秘密を賭けた、真剣勝負をだ!」

「真剣勝負?」


 ルークは私の言葉に足を止め、振り返る。

 これは、目的でもあるルークの鼻を折る事も出来る、一石二鳥のチャンスだと私は考えた。

 それにルークに私の目的や本当の名前も知られていないなら、まだやりようはある


「俺はまだ、秘密を知られて退学するわけには行かないんだ。だから、お前にはその秘密をバラさないで欲しいが、そんなの口約束だけじゃ都合が良すぎるだろ」

「なるほど、それで俺に実力で勝つ代わり、女子である事を黙ってろと?」

「そうだ」

「まぁ、別に言いふらすつもりとかはなかったが、久しぶりに売られた勝負、面白そうだし受けてやるよ」


 あれ、もしかして私いらない事した?

 いやいや、いつかは勝負をするんだから、今やっても問題ないだろ。

 でもさっき、言いふらすつもりはないって言ってた気がするんだが…


「おい、勝負内容はどうするんだ?」

「え? えっと……技量勝負はどうだ?」

「それじゃ、お前の方が有利だろ。だったら、魔力の3つの分類全てを使う、ゴーレム勝負でどうだ」

「ゴーレム勝負か……分かった、それでいい」


 私の同意を聞くと、ルークはゴーレム勝負の準備を始めた。

 ゴーレム勝負と言うのは、魔力の力・技量・質量の全てを使った勝負だ。

 物質の塊から技量でゴーレムを創りだし、質量でゴーレムに魔力を貯める。

 そしてゴーレムを動かし、相手を力を使い倒すのが、ゴーレム勝負。


 魔力の3分類全てをある程度使いこなせないと、ゴーレムを創りだし動かすことは出来ないと言われている。

 私の能力でも、人型程度なら創り動かしすことは出来るが、勝負になるかはルークのゴーレム次第だ。

 流石に人以上のゴーレムを創る事はないと思うが、攻撃力が高いのは間違いないと踏んでいる。


「よし、今回は砂での生成とするぞ。準備ができ次第、勝負開始だ」

「分かった」


 私とルークは、同時に砂の塊からゴーレム生成を開始した。

 予想していた通り、ルークのゴーレムは私と同じくらいの大きさであった。

 それを見て、これなら勝機はまだあると思い、自分のゴーレムに武装をさせる。


 ゴーレム勝負では、ゴーレム生成時に武装させてもよいとされている。

 だが、勝負でそれを活かせるかどうかは、力や質量の問題であり、相手より弱いとすぐに破壊されたり、制御できないで崩れたりする。

 そして、ゴーレムに魔力を貯め準備が完了する。


「準備完了の様だな。それじゃ、勝負を始めようか」

「あぁ、いつでもどうぞ」


 直後、同時に生成したゴーレムを相手に向かって走り出させる。

 そして両者のゴーレムが、顔目掛けて拳を同時に叩き込む。

 両者のゴーレムがのけ反ると、私のゴーレムの顔が崩れ始める。

 すぐさま私は、ゴーレムに魔力補充を行い技量で補強する。

 しかし、ルークのゴーレムは隙を与えず、殴り掛かって来る。


「バースト」


 ルークの掛け声に応じて、ゴーレムの突き出した拳に炎が纏わり、私のゴーレムに直撃すると同時に爆発した。

 私が爆風に耐えていると、ルークが次の魔法を唱えていた。


「サクション」

「サクションだって!?」


 するとルークのゴーレムは爆発で破損した箇所を、私のゴーレムを破壊した一部や周囲の物質を吸収し始めた。

 そして、ルークのゴーレムが完全に補強が完了すると、両腕を合わせ頭の上へと振り上げた。

 私はゴレームをすぐさま動かし、片腕に武装した腕をルークのゴーレムに胸に付き刺した。


「ブレイクオフ」


 すぐさま私が魔法を唱え、付き刺した武装を破裂させ、ルークのゴーレムを破壊しようとした。

 だが、力の威力が弱く、多少しか破壊する事が出来なかった。

 それにルークのゴーレムは、未だにサクションが機能しており、直ぐに破壊された箇所が補強されてしまう。


「ロック……アイス」


 ルークの魔法にて、ゴーレムは頭の上に振り上げた両手が、一つに合わさり巨大な岩石の様になる。

 そして、その岩石に氷が纏わると、巨大なハンマーへと造形される。

 そのまま私のゴーレム目掛けて、氷のハンマーが振り下ろされ、私のゴーレムは粉々に破壊されてしまう。


「勝負あったな」

「いいや、まだだ! 私の魔力はまだ流れている!」

「っ!?」


 私は、両腕を突き出し崩れ去るゴーレムを4分の1程のサイズで、2体生成する。

 そのままルークのゴーレム目掛け、左右から突っ込ませる。


「エクスプローション」

「っ!」


 ルークのゴーレムに突っ込んだと同時に、私は爆発の魔法を唱えた。

 直後、2度の爆発が起こり、周囲は煙に覆われた。

 煙が晴れると、両腕を失ったルークのゴーレムのみ残っていた。

 それを見て私は、作戦が失敗したのだと理解した。


「両方向からの爆撃なら、力の威力が弱くてても、相打ちを狙えるんではないかと思ったが駄目だったか…」


 ルークのゴーレムは、私が爆撃した場所よりかなりルークの方へと、寄っていた。

 地面に残っている痕跡から、寄ったと言うより引き寄せられたのだと理解した。


「なるほど、さっき爆発音が2回したのは、同時にゴーレムの腕の付け根を爆破して、軽くした本体部分を引き寄せたのか」

「その通りだ、俺のプルでは引き寄せられる重さにも限りがあるからな。咄嗟に、重い箇所を切り離して対応したんだよ。にしても、まさかあそこから、2体も生成するとは」


 ルークは、私の行動に興味を示していた。

 だが、私は勝負に負けてしまった事に少し落ち込んでいると同時に、何が原因で負けたのかを考え始めていた。

 それは、途中から私が秘密を賭けた勝負だという事を忘れ、本気でルークに勝つつもりで臨んでいたからだ。

 私は昔マリアに、勝負事には負けず嫌いですねと言われたことを、そこで思い出してもいた。


「何にしろ、俺の勝ちだな」

「……」

「? おい、聞いてるのか?」

「……」


 ルークからの呼びかけは、私には全く聞こえていなかった。

 どうすればあのゴーレムに勝てるのかのみを、考えていたからだ。

 するとルークが近付いて来て、肩を揺らされて、そこでルークに気付く。


「ん。もうちょっと待ってくれ。今、負けた分析をして、お前に勝てる算段を考えている所なんだ」

「はぁ?」

「あっ、勝ち逃げとか許さないからな。絶対に勝ってやるから、もう一戦だ」

「いやいや、何度やっても結果は変わらないよ。そう言って今まで何人とも対戦したが、結果が変わった事はなかったんだよ」


 その言葉を聞いた私は、ルークに指を突き出した。


「はぁ? うぬぼれんな。これから先もそうあるという確証なんて、あるわけないだろ。どこまで鼻伸びてんだよ」

「なっ、なんだと。お前、今誰に何を言っているのか分かっているのか?」

「クリバンス王国第二王子こと、ルーク・クリバンスにだぞってか。そんな立場、今は関係ないね。ここじゃ、どんな地位や立場だろうが、一介の学院の生徒として扱われるんだよ!」


 私の言葉にルークは、たじろいで目を丸くして立ち尽くしていた。

 そこまで言って、私も我に返って自分の立場を思い出した。


 やっばい、私また勢いで変なこと言ってしまった。

 勝負にも負けて、秘密をバラさないとは言ってたとしても、さっきの暴言で気持ちが変わったかもしれない。


 どうにか機嫌を損ねずに、秘密を言わせないためにはどうするべきかと、頭をフル回転させる。

 その時の顔は、眉をひそめ、各パーツが顔の中心に寄っている感じで、とても女子とは言えない顔をしていたと思う。


「ぷっ、あははははは! 何だよその顔、お前本当に女かよ!」


 あれ、何か雰囲気が和んだのか?

 特に何かをした覚えはないけど、この雰囲気なら秘密を黙ってくれるように頼めるかも。

 私はこのチャンスを逃すまいと、すぐさまルークに秘密を黙っていてくれないと提案した。


「秘密のことか? まぁ、元々言いふらすつもりはなかったし、黙っててやってもいいぞ」

「ほ、ほんと!?」


 嬉しさのあまり、ルークに近寄ると、ルークが顔を近付けて来た。

 ルークの行動に私は、驚いて少しだけのけ反った。

 そしてルークは、私にいたずらっ子の様な悪い顔を見せた。

 その顔を見て私は、これはよからぬことを言うに違いないと直感で理解した。


「だが、勝負に勝ったのは俺だから、条件を付けさせてもらう」

「その条件って?」

「なんだ、条件を出して驚かないのか?」

「アンタのさっきの悪い顔を見たら、そんな事を言うんじゃないかと、想像できたよ」


 私は少し呆れた表情で答えた。

 するとルークは、その答えを聞いても少し笑った表情をした。


「で、条件って? あっ、奴隷みたいにこき使わすとかは、なしだからな」

「なに簡単なことだよ。今学期中に、正式に俺に1回でも勝ってみろ。そうだな…期末試験が3回あるから、その3回中に一度でも勝ったら黙り続けてやるよ」

「まじか…もし、それが出来なかったら?」


 率直な疑問をぶつけると、ルークは少し考えて答えた。


「期末試験で負ける事に、俺と街中をデートしてもらおうか。それで、3回全部負けたら、俺と婚約でもしてもらう」

「……はぁーーーーー!?」

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