第8話 ルークに正体を疑われ絶体絶命

 まさかの人物の来訪で、私は驚いて二、三歩後退してしまった。

 ルークはそのまま部屋に入って来て、電気もつけず机の明りだけで何をしてたんだと尋ねられる。

 咄嗟に私は、机に置きっぱなしの紙を両手でくちゃくちゃにまとめ、ポケットにしまった。


「べ、別に、ちょっと考え事してただけさ。それより、ルークは何の用? トウマなら、多分食堂にいたと思うけど」

「今日はトウマじゃなくて、お前に用かがあって来た。今時間あるか?」


 ルークが私に用があって来たのは、想像もしてない展開であった。

 これは、この前の事を謝るいい機会であったが、今は優先順位が違った。

 真っ先に今はタツミ先生の疑惑を晴らすことが、最優先事項だったので、断腸の思いでルークの申し出を断った。


 だが、ルークは引き下がらなかった。

 まさかの強引さに戸惑う私だったが、今は今後の人生が関わる問題があるので、勢いよくルークを抜いて行こうとすると、片腕を掴まれた。


「ちょ、ちょっと」

「この前の事を気にしているのか?」

「え?」

「確かにこの前、急に言われたことには驚いたよ。だが、お前の言っていたことも、あながち間違いじゃないと思ったんだ」

「ル、ルーク。ちょっと待って、俺今から行かなきゃい」

「少しでいいんだ、お前と少し話がしたんだ。だめか?」

「っ!」


 真っすぐに目を見つめられ、男子にここまで言い寄らせたのは初めてだったので、私は急に恥ずかしくなった。

 だけど、今までと何かが違うルークの言い草に、少し違和感を感じた。

 それにどこか弱っているような気もしてしまい、無下に断ることが出来ずに私は、少しだけならと答えてしまった。

 するとルークはここではなく、訓練場に場所を移して欲しいと言われ、そのまま後を付いて行った。


 訓練場に到着すると、ルークは先日の寮対抗魔力腕比べで出場した、私の魔力技量を褒め出した。

 その理由は、自分も私見たいな繊細な魔力技量を身に付けたいから、その極意を教えて欲しいというものだった。

 ルークは魔力技量が、思っていたより成長できずに悩んでいたらしい。

 だが、プライドの高さから誰かに教えを乞う事が出来ずにいたが、転入生の私ならまだ素直になれると思い、今日勇気を出して訪ねたのだと教えてくれた。


 以前アルジュに聞いた際には、ルークには苦手分野などないとか聞いていたが、これまでの生活や立場から誰にも言えずに困っていたんだと、少し共感してしまった。

 私も今は誰にも言えない秘密を抱えつつ、不安の中で生活していたので、似たようなものだと勝手に解釈していた。


 しかし、魔力技量の極意など私に教えられる訳もなく、ただこれは小さなころからやって来たものなので、どう伝えるか悩んでいた。


「言葉ではやっぱり、伝えづらかったりすると思う。だから実際にお前の、魔力技量をここで見せてくれないか」

「実際に見せる?」

「あぁ、俺は言葉ではなく他人を見て、学習もして来たタイプなんだ。だから、お前の魔力技量を直接見れば、何か掴むことが出来るかもしれないと思うんだ」


 ルークの言葉を聞いて、私は他人を見て学習する方法なんて聞いたことないと思いながらも、ルークぐらい優秀だと、そんなことも出来るもんだと勝手に思い込んだ。


「分かった。でも今日は1回だけだ。この後、行かなきゃ行けない所があるからな」

「あぁ、1十分だ」


 そう言うとルークは、訓練場に寮対抗魔力腕比べの競技時と同じくらいの、砂の塊を出現させた。

 私は出現した砂の塊に、片手を突き出し瞳を閉じた。

 そして、造形するイメージと魔力をその通り動かずイメージを同時行った。

 魔力を流し始め、造形を始めた時だった。


 ルークの方から、一瞬だけ強い光が私に当てられる。

 私は気になり、魔力を流すのを中断しルークの方に視線を向けた。

 するとルークは、先程の私が造形時に魔力を流す姿を宙に映しだし、一冊の本を開くと何かを見比べていた。


「ルーク? 何をしているんだ?」


 しかし、ルークは私の問いかけには答えず、何かを一生懸命探していた。

 そして目的のページを見つけると、私の方に視線を向けた。


「やっぱりか。お前、その魔力の流し方、クレイス魔法学院の女生徒のやり方だろ。男のなのに何故そのやり方で、あんな緻密に魔力を扱える?」

「っ!!」


 ルークからのまさかの追求に、私は突き出していた手をもう片方の手で隠すような動作をしてしまう。

 そして息を呑んだ。


「お前、何か隠している事があるな?」

「もしかして、クレイス魔法学院にいたことかな? 確かに言ってはなかったけど、転入する前はそこの学院で学んでいたんだ」


 黙ってしまうと、それを必然的に認めている事になると思い、私は直ぐに反応した。

 ルークに指摘されたものは、知らず知らずのうちに出ていた癖だった。

 いや、そんな指摘はされないと思い、見落としていた癖であった。


 まさか、魔力の流し方という小さな事に気が付く人などいないと、思い込んでいたのが間違いであった。

 仮に分かったとしても、クレイス魔法学院の女子生徒特有のものと言うことまで辿り着き、分かるはずがないと、うぬぼれていた。


「いいや、それじゃ理由になっていない。俺は、クレイス魔法学院女生徒特有の魔力の流し方を、何故男のお前が、出来るのかと聞いているんだ。流石に男と女では魔力の流れ方、扱い方が異なるのは基本的な知識だ。それなのに、お前はどうして女生徒のやり方で、魔力を物凄い緻密に扱えるんだ?」

「っ……」

「おい、黙ってないで、答えたらどうなんだ?」


 先程までの少し弱気なルークとは違い、先日見た感じの気に食わないルークに戻っていた。

 私は話を変えようと、ルーク自身が言っていた事は嘘だったのかと問いただす。

 するとルークは、あっさりとそうだと認めた。

 それを証明するかの様に、ルークは目の前で砂の塊に片手を突き出すと、ゲイネスが寮対抗戦で造った薔薇の花束を創りだした。


「お前程の緻密さの技量はないが、少し訓練すれば、これくらいは俺にも出来る。嘘までついて、お前を呼び出したのは、そのやり方でどうして魔力を扱えるのかに興味を持ったからだよ」

「っう……」

「適当な嘘を言っても、俺には分かるぞ。今日1日、魔力について調べ直し、クレイス魔法学院の魔力に関する本も見つけて、頭に叩き込んでいるんだからな」


 どうする、どうする、どうすればこの局面を乗り切れる。

 いや、もう乗り切るとかじゃなくて、詰んでいるんじゃないのか。


 ルークは学内でも成績は優秀、更には魔力についての知識も今じゃあいつの方が上。

 というか、今日1日で魔力の知識の最新化して、クレイス魔法学院の魔力知識も頭に入れるとか、普通にバケモノでしょ。

 この時私は、もう既に正体を隠しきれないと思いつつも、悪あがきを始めた。


「お、俺はクレイス魔法学院で魔力測定時に特殊だって言われて、女性よりの魔力特性があるから、女子学生が教わるやり方でやってみたら、物凄く繊細に使えるようになったんだよ」

「嘘だな。仮にそうだとしたら、クレイス魔法学院がお前を手放すはずがない。それに、今までそんな特例があれば国中に知れ渡っている。だが、そんな噂が広まっているわけでもないから、嘘だと分かる」

「いや、これは秘密にしている事なんだが、特例でクレイス魔法学院から、より学習が充実している王都メルト魔法学院で学ぶようにと、生徒交換と言う交流の一環なんだ」

「ほーう、確かにうちはクレイス魔法学院との生徒交換という面などで交流はあるが、それはお前じゃない。生徒交換できているのは、うちの寮にもいる、シン・コーウェンだ」

「えっ!」


 シンとは、転入初日に先生に変身していた男子生徒のことだ。

 トウマが言うには、彼は無口で皆からはカメレオンと呼ばれている。

 基本的には話す事はなく、頷くか首を振るかで対話が成立している、珍しい生徒だ。

 だが、トウマから彼が生徒交換で在学しているなんて聞いていない。


「シンは、3年間うちの学院で学ぶために、初等部の第3学年の時に来ているんだ。生徒交換で在学していると知っているのは、数人くらいだ。それで、次はどんな嘘をついてくれるんだ?」


 悪あがきも完全に見破られ、私は完全に追い詰められていた。

 もう、ルークの追求から逃れる事が出来ないと諦め、一か八か私は正体を明かして黙っていてもらえるかの交渉に、打って出ることにした。


「ふー…分かった。ルーク、貴方に俺の秘密を教えるよ」

「やっと観念したか」


 私は大きく深呼吸してから、自分が性別を偽っている事を口に出した。


「俺は、本当は男じゃなくて、女なんだ」

「……はぁ?」

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