縁を切ってしまった幼馴染みが配信者としての僕のファンらしい

白音(しらおと)

第1話 配信者は質問に答える

 マスクよし、カメラよし、マイクよし。後ろも壁しか見えないから大丈夫。


「よし、じゃあ画面映しますか」


 BGMだけが流れている待機画面。集まってくれた視聴者さんの数は既に七千人。ほんとに感謝しかない。


「あー、あー、聞こえてますかー? 見えてますかー?」


『見えてるよー!』

『こんはくー!』

『一周年記念顔出しと聞いて』


「よーしおっけー。じゃあ改めまして……どもども皆様、こんはくー、ハクです。今日もくつろいでってくださいね?」


 よし、あいさつも完璧にできた。久々にこんなしっかりしたあいさつやったなぁ……。


 それにしても、棒読み切っておいて良かった。コメント流れすぎてやばい。配信終わっても一生喋ってそうな感じ。


「はい。じゃー今日は。一周年ということで、半年ぶりに質問コーナー、やっていきたいと思います」



 ──────────



 やばい。こんな長い時間やることになると思わなかった。もう三時間半ぐらいやってる。


 質問箱先に開けて見ておくべきだったなぁ……。


 同じ質問まとまってても二百近くあるとか予想外。


 まともな質問優先して読んでたのがせめてもの救いか……まぁまだまともな質問が埋もれてる可能性もあるけど。


「えー、質問返しているだけで三時間以上時間かかってるんで、スピードあげて読んでいきます。『彼女いた事ありますよね?』いたことありませんし、今現在もいません。『好きです付き合ってください』こんな画面の奥のよく分からないやつに告白しないで自分の近くにいるいい人を探してください。『魔法使い予備軍(童貞)ですか?』はい。『使ってるデバイスは何ですか?』概要欄に記載してます。『上手くなるにはどうしたらいいですか?』僕の場合は上手い人の手元配信をめちゃくちゃ見て、その動きを真似ることでした。『プロにはならないんですか?』僕が出している条件を呑んでいただける場所なら加入してもいいと思っています」


『マジか!』

『プロ行ってもめちゃくちゃ強いんだろうな』

『流石にプロでも無双、なんてのは無理だと思うけどね……』


「まぁ今流れてったコメントの通り、プロシーンでも無双なんてできないと思うよ。僕は別ゲーもやるので練習量も違いますしね」


 それに、今のところは僕の条件を呑んでくれるプロチームはいないし。


 あんまりこの話を長引かせたら荒れそうだしさっさと次の質問行きますか。


「えーと、それじゃあプロの話はここで終わり。まだ加入の予定はありません。次とその次の質問で今日の配信終わりにするから、切り替えてこ?」


『はーい』

『りょ』

『わかりました!!』


 おー、結構みんな切り替え早いな。あんまりこんな風な雑談配信みたいなことすることないからまとまってくれててすごい助かる。


「はい、じゃあこれ! 『配信を始めてから一番感謝している人は?』」


『『『『『分かった』』』』』


 そんなみんなして同じタイミングで「分かった」なんて言わなくても……。最近見始めてくれた人達は困惑してるよきっと。


「うんまぁ、わかる人はわかるよね……。一番感謝してるのは、『お琴』さん、だね」


『やっぱりw』

『まぁ大体予想通りだな笑』

『お琴さんって?』

『全然わからんのだけど誰‪w』


「じゃあ分からない人のために説明すると、僕の最初の視聴者さんで、今日まで一回も見逃すことなく見続けてくれている人です。スパチャしてくれる訳でもないし、コメントだって最初にこんはくって挨拶してくれるだけ。でもそれだけで嬉しいんですよ」


 それこそ、最初の一週間ぐらいは僕対お琴さんだけの配信だったし、そのたった一人だった視聴者さんが今も見てくれている事実は超がつくほど嬉しい。


『はぇー』

『そんな人が……なんかエモい‪w』

『恥ずかしいので私の話はやめてください』

『噂をすれば‪w‪w』

『お琴さーん!』


「あ、お琴さんこんはくー。実はこの挨拶もお琴さんが考えてくれたものだったりするんですよねぇ」


『マジか』

『あーそういえばそう』

『懐かしいなそれ』

『こんばんは派とこんはく派でちょっとした対立あったよな笑』


 懐かしい……! 結局は僕が「こんはくの方が僕のオリジナル感があってよくない?」って言って決定したやつ。


 ……と、ここで回顧してたら終わるものも終わらなくなる。切り替えて次!


「はい、思い出話を話す配信はまた近いうちにやるから、質問に戻りますよー! これでラスト! ……あー、これラストに来るのか。質問って言えるかどうかも微妙だけど……まぁいっか、お琴さんからの質問だし! 『好きな人との距離を縮めたいです。どうしたらいいですか?因みに、その人は、よくハクさんが配信しているゲームの話をしています』」


 うーん……色々驚きはあるんだけど、どうしたものか……。お琴さんって確か見る専でゲームやった事ないって言ってたし……。


 あ、それを使えばいいのか。


「僕を話題に出して、その人にゲーム教えて貰うってのはどうかな? 私、ハクさんとゲームがしたくて〜って感じで。自分で言うのはアレかもしれないけど、一応僕有名な方だと思うし。……はい、じゃあ今日はここまでにしようか。顔出ししてるからアーカイブは残しません。音声だけの切り抜きとかは自分で作るし、作りたい人は連絡いただければと思います」


『おつはく』

『お疲れ様でしたー』

『切り抜き楽しみ!』

『明日の配信は?』


「明日は……多分ランク回すと思います! それでは皆さん、おつはくー、ばいばーい」


『『『『『おつはくー!』』』』』


 配信終了っと。ちゃんと切れてるね。顔出し枠で終了忘れてると致命的だから気をつけないと。


「あー、楽しかった」


 マスクをとって顔を全部出せば、ただの一般高校生、七海ななみ白兎はくとの出来上がり。


「ふぅ……」


 昔からの癖で、窓を見る。でも昔のように窓が叩かれる音はしない。


「……風呂入って寝よ」


 この配信をした事を次の日の放課後に死ぬほど後悔することを、僕はまだ知らない






───────────────────────

リメイク版初投稿!

ガッツリ序盤からストーリー変更する予定なので、リメイク前の方を読んでいた方も楽しめると思います!いればですが!



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