終わりと始まり

朝影あさかげ諒太りょうた


 陽平さんの自殺を発見した日の翌日、僕は理愛のアパートを訪れた。

 さっき「もうすぐ着く」ってRINEを送ったら「鍵開けとく」と飾り気の無い文章が返ってきた。だから鍵は開いてるはず。


 玄関のドアノブを捻ると抵抗無く扉が開く。お邪魔します。


「来たよ」


「んー」


 理愛は部屋着でゴロゴロしてた。時刻は16時過ぎ。きっと朝からこんな感じだったんだろうね。


「アイス買ってきたよ。食べる?」


「……チョコミント?」


「勿論。理愛、それしか食べないじゃん」


 理愛にはチョコミント、僕には抹茶だ。

 理愛が起き上がり、スプーンを取りに行く。狭いアパートだからすぐにミッション達成。スプーンが渡される。


「ありがと」


「うん」


 蓋を開けた理愛がボソッと言う。


「……ちょっと溶けてる」


「あちゃー。今日暑いから」


 すぐそこのコンビニだから大丈夫だと思ったんだけどなぁ。

 僕も蓋を剥がし、食べ始める。理愛もなんだかんだで普通に食べてる。


 黙々とアイスを胃に送り、残り僅かになったところで理愛が唸り出した。


「うーーー、くやじぃ! 犯人にどや顔で推理を披露ひろうしたかったー」


 結構、引きずってる。僕は切り替えが早い方だからそんなでもないけど、理愛は違うみたいだ。


「仕方ないよ。そういうこともあるよ」


「そうだけどー」


 幼い見た目で口を尖らせる姿は完全に子どものそれである。これでタメなんだから信じられない。普段の偉そうな感じも崩れてるし。


「うー、うー」


「……ふふ」


 面白いね。


「次の事件はもっと頑張るってことで切り替えよう」


「うー、う……次?」


「うん。僕と居ればすぐに次の事件に巻き込まれるからね」


 僅かな沈黙の後、理愛がハッとする。


「……もしかして、正式に私の探偵事務所で働く決心がついたのか!?」


「普通に友だちとして一緒に居ればって意味」


「なんだ。そっちか」


 しょんぼりしてる。なんていうか素直だよね。

 ……うん、満足。


「……大学優先でもいい?」


「!? いいぞ!」


「じゃあ働く」


「うわぁーい! これで殺人事件がやって来る!」

 

 なんてね。

 本当はアパートに来る前からこの話をするつもりだった。理愛のことは嫌いじゃない。今回の事件で余計そう思わせられた。


 理愛は無邪気に喜んでる。


「ところでちょっと思ったんだけどさ」


「うん? なんだ?」


 すっかり偉そうな感じが復活してるよ。


「理愛ってどや顔で下ネタ言ってるけどさ」


「うん?」


 なんとなーく。


「多分、処女だよね」


「!? ななな何を言うか! しょしょ処女じゃねぇし!」


「ふーん」


「……ぅぅ」


 自然と頬が緩む。


「ふふ」


 楽しいな。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【お巡りさん】自称名探偵の変態妄想処女(20)に目をつけられた件【こいつです】 虫野律(むしのりつ) @picosukemaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ