第二章 妊婦惨殺事件

犯行は完遂される

【犯人】


 綺麗な人だな。


 たまには映画でも観ようとレンタルビデオ店を訪れたら、この美しい人と目的の品が重なっていたようだ。陳腐ちんぷな恋愛映画のように、一つだけ残されたDVDに手を伸ばし、ぶつかってしまった。ただし、借りようとしたのはラブストーリーではなく、『ワールド・スピード』というアクション映画だ。

 それはそれとして謝罪しなければ。内心、舞い上がっているのを隠しながら。


「すみません」


 表情や声音こわねは上手く取り繕えていると思う。昔、劇団に居たことに感謝だ。


「いえ、大丈夫です……」


 彼女の声はどこか影があるが、むしろそれが魅力的に思える。可能であれば──この美しい人の心が欲しい。












 事は予想よりも順調に進んでいる。

 最初の殺害対象ターゲットに突き刺した中型ナイフを引き抜く。またすぐに突き刺す。


「──」


 殺害対象ターゲットは無言。すでに死んでいる。

 また引き抜き、また刺す。引き抜き、刺す。引き抜き、刺す。


「──」


 私が相手にしている存在が、人間なのか人肉で出来た人形なのか分からなくなってきた。

 だけどまだ終わらない。子宮のある辺りに何度も何度もナイフを刺す。殺害対象ターゲットの衣服が返り血を抑えてくれる。

 

「はぁはぁはぁ……」


 いい加減疲れを覚えたころにナイフを止める。素早くショルダーバッグへ仕舞い込み、現場から離れる。大丈夫だ。誰にも見られてはいない。


「ははは……」


 私は知らず知らずのうちに笑っていた。次は──。



 










 夜の住宅街。


「あなt──!?」


 ナイフを2人目の殺害対象ターゲットの腹部に突き刺す。


「っ!?!? ど、うし──」


 何か言われる前に再度突き刺し、すぐに引き抜く。殺害対象ターゲットが倒れ、硬いアスファルトに頭部を強かに打ち付ける。


 わずかに動いている。まだ生きているようだ。ほっといてもすぐに死にそうではある。

 だが──ナイフを心臓に突き入れる。


「──!?」


 一瞬だけ目を大きく開け、ゆっくりと閉じる。絶命したのだろう。


「……」

 

 次いで、子宮を狙い、徹底的に滅多刺しにする。ただ殺すだけでは駄目。

 死んでいるのも構わず、ナイフを刺す。刺す。刺す……。

 おそらく20回以上は刺したはずだ。もういいか。


「ふー」


 疲れた……。
















 廃墟になっている取り壊し予定らしき工場。

 子宮を滅多刺しにする。頭の中に様々な感情が錯綜するが、手を止めはしない。


 10回は刺したか? では仕上げだ。


 ナイフの切っ先を心臓へ向ける。そして、突き入れる。


 これでいい。3人目だ。














 

 時計の秒針が耳障りだ。

 ナイフを心臓へ押し込む。


「……」


 

 

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