【お巡りさん】自称名探偵の変態妄想処女(20)に目をつけられた件【こいつです】

虫野律(むしのりつ)

第一章 全ての始まり

変態との出会いは“開放された密室”で

朝影あさかげ諒太りょうた


──今朝、またしても猫の銃殺体が発見されました。場所は……。


 ビルの大型ディスプレイにニュースが流れている。特に興味のあるものではない。なぜなら殺人事件ではないからだ。

 というのも、僕の特殊な体質が関係している。簡単に言うと「事件巻き込まれ体質」。今まで何度も何度も危ない事件に遭遇してきた。その中でも殺人事件に巻き込まれることが圧倒的に多い。猫の銃殺には関わったことがない。

 だからさっきの事件は僕にとっては関係の無い対岸の火事なんだ。


 5月の気温は丁度いい。もうちょっとで午前11時。これからもう少し暑くなるんだろう。

 アスファルトを歩く。

 駅前にある、個人経営の本屋さんが目的地だ。今日は木曜日だからきっと空いてる。いい感じのはずだ。


 目的地のCrazier booksクレイジアブックスが見えてきた。基本的にはややマニアックな品揃えなだけの中規模個人書店なんだけど、1つ珍しい特徴がある。

 ガラス越しに休憩スペースを確認する。

 

 よしよし、誰も居ない。


 ここのユニークな所は休憩スペースがあることだ。イメージとしてはコンビニの飲食スペースの大きいバージョンかな。本を購入した客は、そこでのんびりと読書ができる。

 長時間居ても微妙な顔をされることもないし、飲み物は飲んでもオッケーだから、なんとなく家に居たくないときによく利用している。 

 今日も大学の授業が終わって微妙に暇だから来たわけだ。


 自動ドアを潜る。真新しい本の匂いが心地好い。

 店内には中年の店主さんと3人のお客さんが居る。お客さんの内訳は、20代くらいのお姉さん、サラリーマン風のおじさん、50歳前後アラフィフのおばさんの3人だ。絶妙に少なくていい感じ。

 

 お気に入りレーベルの新刊があればいいな。


 そう思い、小説コーナーに向かおうとした時だ、1人の少女が入店してきた。

 

 中学生かな?


 随分と整った目鼻立ちをしている。艶のある黒髪は肩口まで真っ直ぐに伸びていて、前髪は横に切り揃えられている。所謂いわゆる、前髪パッツンというやつだ。

 背も低いし、発育もまぁあれだし、やっぱり中学生っぽい。平日なのに学校はどうしたんだろ?


「……ふっ」


 自分がおかしくて笑ってしまった。彼女の学校がどうとかは僕が気にすべきことじゃないのに、僕は何を考えてるんだか。

 それより小説だ。

 しかし僕の横でマンガを物色し出した彼女の不穏な呟きをキャッチしてしまった。


「殺人事件起きないかなぁ……」


「え……」


 少女から発せられる旋律は見た目にたがわぬもので、ありきたりな言い方をすれば「鈴を転がしたような」って感じだ。深窓しんそうの令嬢を思わせる容姿にマッチしているんだけど……。

 しかし、聞き間違いを願う僕を嘲笑あざわらうかのように少女が追撃を放つ。


「エロい殺人事件を起こしてくれる人、居ないかなぁ……。はぁ」


 聞き間違いじゃなかった。それどころかさらに混迷を極めている。エロい殺人事件とは一体なんなのか?


──ガガガガガガ……。


 突然、硬く重い音がし始めた。向かいの工事現場からだ。結構うるさい。今日、ここに来たのは失敗だったかも。


 少女も微妙な顔をしている。でもマンガの物色はやめないようだ。そんなに読みたいのがあるのかな。

 なんとなく気になって、かがむ少女の指先にあるマンガを見る。


 ……変なの。


 棚に入っているマンガ──『君のヒロインアカウント』、通称『ヒロアカ』が上下逆さまになっている。なかなか見ない光景だ。まぁ別にいいんだけど。


──ガガガパァンガガガガガ……。


 店の奥から変な音──クラッカーみたいな音が聞こえた気がする。嫌な予感が……。ホント嫌だなぁ。


「はぁ……」


 念のため、入口を背にしつつ、レジ裏のドアと店内に居る人間をなるべく視界に収めておこう。

 この店の出入口はこの2つだけだ。つまりこれらを見張っておけば、犯人を捕まえられなかったとしても、最悪、目撃することはできるはず。

 それに、危なくなったときに逃げやすい位置でもある。

 

 少女が片眉を上げている。

 

「なんだ今の?」


 少女が、さっと店内を確認する。

 店内に居る人物は僕、少女、店主さん、サラリーマンのおじさん、50歳くらいのおばさん……あれ? 1人足りない。奥の背の高い棚の裏側に居るんだろうか。いや、居なきゃおかしいんだけどさ。


 唐突に少女が話し掛けてきた。


「なぁ、どう思う?」


 ナチュラルにタメ口である。凄く馴れ馴れしい感じだ。


「……分からない。でも嫌な予感がする」


 少女が頷く。僕と同意見なのかな。


「ちょっとあの棚の裏を見てくる。そのまま出入口を見張っておけ」


 僕の返事を待たずに、店の奥にある棚の方へトテトテと小走りで行ってしまった。というか、彼女は僕の思惑に気づいていたのか。


 少しして少女が戻ってきた。そこはかとなく嬉しそうである。

 そして少女が堂々と言い放つ。


「美女が殺されていた! 銃創じゅうそうがあったから銃殺事件で間違いない! しかも被害者は巨乳! 美人で巨乳! ついでに犯人は見当たらない! 最高じゃないか!」


 少女の衝撃発言に店内の皆さんがギョっとする。当然、僕もギョっとする。

 少女は「たのしくなってきたー!」などと供述している。早く警察に通報すべきである。いろんな意味で。

 

 冗談はさておき、最も聞き捨てならない点は犯人が見当たらないということだ。

 店内に居た人間は、僕、少女、店主、サラリーマン男性、おばさん、被害者の女性の6人。不審な音がした時、僕の視界内の人間は奥の棚には近づいていないし、棚の裏から誰かが出てきたりもしていないし、出入口を通ってもいない。つまり、銃声らしき音がした時には、被害者以外は誰も奥の棚の裏に居なかったはずなのに、棚の裏で殺されたってことだ。

 

 なんだこれ。

 

 この本屋さんにはよく来るけど、奥の棚の裏には出入口や人が隠れられる場所は無かったはずだ。何が起きたんだろう?

  

 雑誌を見ていたおばさんが、怪訝けげんな顔のまま、奥の棚の方に移動する。確認に向かったのだろう。そして──。


「きゃあ!?」


 悲鳴が上がる。あらら。


「私たちも行くぞ!」


 少女が皆さんに呼び掛ける。皆で行く意味はあるのだろうか? 様式美というやつかな。

 まぁ、それは置いといて、こうなってしまったら皆さんも気にならないわけがない。不審そうな顔をしつつも、少女に従う。

 一応、僕も行く。出入口に気をつけながらね。












「また殺人事件か……」


 つい、呟いてしまった。

 奥の棚の裏へ行くと、先ほど見た20代の女性が倒れていた。衣服が乱れている。

 少女がはっきりと宣言する。


「これは殺人事件だ! それも変則的な密室殺人、わば『開放された密室』! うへへへへへ」


 はりきってるけどさ。


「殺人事件なら警察を呼んでおとなしくしてるしかないんじゃない?」


 常識的に考えるとそうなるよね。店主さんも追従する。


「そうですよ。幸い、休憩スペースには人数分の椅子があります。座って警察を待ちましょう」


「それしかないわね」


「俺が通報するよ」


 皆さんが一致団結する。しかし──。


「ばかぁ! せっかく名探偵として活躍できるチャンスなのにじっとしてられるわけないだろ!?」


 少女が一刀両断。強い意志を感じる。何がこの子をこんなに駆り立てるのか。

 皆さんが唖然あぜんとしてらっしゃる。そりゃあそうなる。大体、一般人が殺人事件の捜査(?)をするなんておかしい……と思うのだけど、少女は構わず情報収集らしきことを始める。メンタル強いね。


「巨乳美人がここに来てから銃声が聞こえるまで、誰もここに近づいていないな?」


 皆さんが頷く。

 僕も思い返してみる。うん。誰も近づいていなかったはず。少女の目を見て頷いてやる。


「銃声が聞こえた直後から現時点までに、店から出たり、レジ裏のドアへ行った者も居ないな?」


「居ないよ。一応、視界に収めていたし」


 少女が顎に手をやる。見た目は良いから様になってる。中身がアレだからちょっとアレがアレだけど。


「パッと見た感じ、他のドアや抜け道は無いし、凶器も落ちてはいない。さらに、棚や壁にカラクリや覗き穴も無い」


「あ」


 そういえば……。

 僕の漏らした母音をしっかりと拾った少女が反応する。


「ワトソン君! 何か気づいたのか?」


 ワトソンではない。いや、そんなことよりも……。

 足下の引出しの取っ手を探す。棚の下の方に備え付けられているやつだ。見つかった。引出しを開ける。滑らかだ。


 店主さんがここから本を出してるとこを何回か見たことがある。それで「もしかしたら人が隠れられるスペースがあるかも」って思ったんだけど……。


「狭いね」


 引出しの中には本がそこそこ入っている。仮に本が一切無かったとしても、人が隠れることは不可能そうだ。


「ここは本を一時的に保管するための場所ですから」 


 店主さんが説明してくれた。それはそうだよなぁって感じ。本棚の引出しなんだから、そういう用途で設計されているのが当たり前だよね。

 ……うん。推理とか無理じゃないかな。ちょっと言ってみよう。


「名探偵さん。ここに居る皆さんが犯人ではなくて、他の犯人も居ない。さらに凶器も抜け道も隠れる場所も無いなら、名探偵でも解決しようがないと思うよ。やっぱり休憩スペースで警察を待ってようよ」

 

 疲れたしね。


「ばかぁ! めるなよ! 名探偵十七夜月かのう理愛りあの名推理を見せたるわぁ!」


 少女──理愛が啖呵たんかを切る。凄い自信だ。どっから来るんだろ。実績があるのかな。

 店主さんがド正論で反論する。


「しかし現場は保存した方がいいと聞きますが……」


 全くだ。

 しかし理愛には通用しないようだ。店主さんには目もくれずに考え込んでいる。

 理愛がやけに扇情的せんじょうてきに唇を舐める。そして「ハッ」と目を見開く。

 

 お? 何か分かったのかな? そうだとしたら心の中で謝らないといけない。頭の可哀想な残念美少女だと思ってた。ごめ──。


「ワトソン君。君の名前は?」


 だからワトソンではない。しかし理愛の真っ直ぐな瞳に射貫いぬかれると、無粋なことを言う気はどこかに行ってしまう。


諒太りょうた朝影あさかげ諒太りょうただよ。ホームズ君」


 理愛がニヤリと口角を上げる。なんか分かんないけど、妙な色気がある。痩せっぽっちのチビッ子なのに不思議。


「では諒太。被害者をよく見てみろ」


「? 普通の死体にしか見えないけど……」


 理愛があからさまに馬鹿にした顔で、やれやれと肩をすくめる。これはイラッと来るね。うん。


「一体、何なのさ……」


「ばかぁ! エッロい身体をしてるとは思わないのか!? 傷痕きずあとの確認にかこつけて、パイおつをガン見して揉んでおいたがFは堅いぞ! 柔らかさもグッドだ!」


 呆気あっけにとられる。

 変態……。

 というか遺体に対してそれをやるのか? 可愛い見た目から繰り出される奇行に頭が痛い。

 皆さんを見ると神妙な顔で首を横に振っている。「駄目だこいつ」と全員が言外に語っている。僕も「明らかに手遅れです」と首を横に振る。

 そんな僕たちのやり取りを察したのか、理愛がプンプンし始めた。


「おい! 何か失礼なことを考えてないか?」


「いや、全く(その通り)」


 理愛がじとーっとした目を向けてくる。自業自得のくせにその目はおかしいと思うんだけど、このままジト目で見られ続けるのもアレなんで、話を逸らしてやる。


「……被害者の巨乳が柔らかいからなんだっていうのさ?」

 

「ばかぁ! あの身体、完全に子作り特化のドスケベボディじゃないか! 顔も良いし、きっと男を取っ替えひっかえして、ヤりまくってたに違いない!」


 僕のわざとらしい話題逸らしに、理愛は強く確信した口調で微妙に失礼なことを言い出した。


「……要するに、痴情ちじょうのもつれからの怨恨えんこんが動機だと言いたいの?」


 理愛がデッカイデッカイため息。

 そして、僕の問いには答えず、別のことを訊いてきた。


「時に諒太よ。ドスケベ巨乳美人の悲鳴は聞いていないな?」


「うん。工事の音で聞こえなかっただけかもだけど」

 

「……ふむ」


 僕の答えを聞いた理愛が、今度は皆さんを見回しながら「では、悲鳴を聞いた者は居るか?」と確認する。


「聞いてないわ」


「俺もだ」


「……私も聞こえませんでした」


 何か得られるものがあったのか、理愛が、ふにゃっ、とした顔になり。


「そうだろう、そうだろう。うへへへへへへへ」


 アレな笑い方をする。次いで、言い放つ。


「やはり思った通り! 真相は素っ裸だ!」


「……」


 微妙に分かりにくい。意訳すると「謎は全て解けた!」っとことだよね、多分。

 でも、理愛を見てるとまるで信用できない。周りで珍獣を見るかのように理愛を観察していた皆さんも、疑わしそうな顔をしている。皆さんの気持ちを代弁しよう。それは勿論、僕の気持ちでもある。


「ふーん。じゃあ、その真相とやらを教えてよ」


「いいだろう。私の名推理を聞かせてやる」


 どや顔が鬱陶うっとうしいな。


「あ、やっぱいいです。警察に任せよう」


 理愛が、コンビニで買ったサンドイッチの具が、文句を言うほどではないけど、満足はできない程度の量しか入ってなかったときのような顔をする。面白い顔だ。


「ごめんごめん、迷推理を聞かせてよ」


 僕の言葉に、すぐに覇気を取り戻す。


「被害者は子作り特化女……つまり子ども好きなんだ!」


「「「……」」」


 場が、シン、と静まり返る。今日何回目だろう。理愛に付き合ってると不可避の悲劇(喜劇)である。この短時間でも確信できる。

 しかしメンタルの強い理愛は場の空気なんて気にしないようだ。ハキハキと続ける。


「そして、銃弾が貫通していることと銃創から判断すると、おそらくは正面至近距離から銃殺されている。それなのに悲鳴をあげたり、背を向けて逃げようとしたりしていない。なぜだと思う?」


「いきなり撃たれたからじゃないの?」


 そんな暇無く撃たれたからじゃないのかな。


「ばかぁ! 私の名推理では子ども好きのエロ女が危機感を抱かない相手が犯人だったからだ!」


「……つまり子どもが犯人だと言いたいの?」


「やっと分かったか、ワトソ……諒太! 銃を向けられた被害者は、子どもがおもちゃの銃で遊んでいると思ったんだ! そして幼い子どもならば──」

 

 理愛が足下の引出しを近くのものからサクサク開けていく。


「あ、ちょっと」


 現場の保存を主張している店主さんが待ったを掛けるも、目的を達成するまで止まる気は無いみたいだ。

 どんどん引出しを開けていき、すぐにその時は訪れる。遺体から4メートルくらい離れた位置にある引出しをガバッと開けた瞬間、理愛が止まったんだ。


「やぁ、こんにちは。隠れんぼは私の勝ちだな!」


 勝利宣言。すると小さな少年が引出しからむくっと身体を出す。その腕にはサイレンサー付きの銃が抱えられている。


 幼稚園児? 少1? 多分それくらいだと思う。そんな子どもが銃って……。


「「「……」」」


 非現実的な光景に皆さんの心がまた一致す……いや店主さんは違うね。苦虫を噛み潰したような顔だ。黒幕なのかな。


 少年が店主さんを見ながら言う。


「ごめんなさい、お父さん。見つかっちゃった」


「これは店主の指示か?」


 理愛も僕と同じ疑問をいだいていたようだ。

 問い掛けられたのは店主さんだけど、先に少年が答える。


「ちがうよ。ビックリさせようと思ったんだ」


 本当かな。

 店主さんが引き継ぐ。


「指示はしていない。息子はよく引出しに隠れて遊んでいるから察していただけだ」


 店主さんの口調が変わるも、理愛は気にしないようだ。


「そうか。確かにそれを否定する証拠は今のところ無いな。情況じょうきょう的にも矛盾していない」


 まぁ、それはそうだね。次いで事件の流れを解説。


「まず少年が身体の小ささを利用して引出しに隠れる。1人の足音が聞こえたら引出しを出て、射殺。その後、すぐに足下の引出しに隠れ直す。おそらくこの時点で店主は察したんだろう」


 店主さんが肯首こうしゅする。


「店内の全員が互いにアリバイを証明する状態かつ他に犯人が居ない情況と思わせてから、店内がほとんど見えない休憩スペースに全員を移動させ、子どもをレジ裏のドアから別の場所に移動させる。これで犯人が不在かつ店内の全員に完全なアリバイがある状態が確定する。また、『幼い少年が銃で人を殺すわけがない』という常識的な思い込みから、目撃情報の無い息子も当然疑われないと考えた。察した後はこういう意図だった。違うか?」


「……その通りだ」


 ほへー。なかなか珍しい事件だね。ただ、ちょっと気になるんだけどさ。


「銃って店主さんのですか?」


「……」


 あ、もしかして。


「店主さんが猫銃殺犯……?」


「……」


 沈黙は肯定……かは分からないけど、明確な否定が無いのも事実。まぁ僕には関係の無いことだけど。











 通報後、ものの10分程度で警察が到着した。少年は連れていかれるようだ。警官に手を引かれる少年を理愛が呼び止める。 


「待て」


 少年が振り返る、


「ほら、やるよ」


 そう言って『君のヒロインアカウント』を差し出す。


「マンガを逆さまにしたのは君だろう?」


「うん」


 なるほど。だから低い位置のマンガだったのか。


「ありがと」


 受け取った少年がパトカーに乗り込む。眺めながら理愛が言う。


「私の名推理はどうだった?」


「あまり認めたくはないかな」


「なんだそれ」


 いやいやいや、自覚が無いのか。


「ところで諒太。君は随分と殺人事件に慣れているようだな?」


 きっと僕の言動から判断したんだろう。


「まぁそうだね。なぜかよく巻き込まれるからね」


「そうかそうか、なるほどな。それは良かった。うんうん」


 ニッコニコだ。普通に引いた。


「よし! 諒太を私の探偵事務所で雇ってやろう! 良かったな! 私みたいな美人と働けて幸せだろう?」


「え、やだよ」


「……は?」


「え?」


「「……」」


 美人でも頭のおかしい奴は遠慮したい。というか探偵事務所ってなんだ? 中学生じゃないのかな?


「理愛って中学生だよね?」


 鳩が豆鉄砲をったようなんたらかんたらだ。要するに変な顔。

 しかしすぐにキッとする。


「私は19歳おとなだ! 子どもじゃない!」


 豆鉄砲のカウンターを喰らってしまった。

 まじまじと理愛の全身を見る。なぜかポーズを取り出した。セクシーさは皆無だ。

 うん、絶対嘘だ。せいぜい高校1年生、頑張れば小学生でも通用する。

 つい生温かい目になる。背伸びしたいお年頃なんだろう。そう考えると性への残念な認識も少しは納得できる。思春期特有のアレだ。


「おい。絶対、変なことを考えてるだろ? 考えるのはエロいことだけにしろ」


「理愛じゃあ、ちょっと考えられないかな。ごめんね」


「やめろ! マジな感じに謝るな! いいだろう、大人だって証明してやる!」


 理愛が長財布からカードを取り出す。免許証に見える。ご両親のかな?


「見ろ!」


「……嘘」


 写真は目の前の少女のものだ。生年月日は平成13年6月9日。偽造じゃなければ今年で20才、つまり僕とタメだ。


「分かったか? 分かったら殺人事件ホイホイとして働け」


 酷い言い草だなぁ。当然、答えは決まってる。


「やだよ」


「くっ。私の何が不満なんだ!?」


「いろいろあるけど、そもそも大学あるし」


「えー……サボればよかろう」


 それはちょっと……。留年はしたくない。


 理愛がグダグダと粘るが、それは理愛の身体によって中断される。エロい意味ではない。


「ぐぅ」と、理愛のお腹が鳴ったんだ。赤面してる。


 そういえば僕も朝から何も食べてなかった。そう認識すると一気に空腹を感じる。


「なぁ」


 理愛がおもむろに切り出す。


「ご飯食べに行かないか?」


「……そうだね」


 さてさて、これからどうなることやら。


 空は晴れ渡っている。予想通り、少し暑くなってきた。

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