第16話


 部室に入ると、ちょうど魔法少女・夢子の新作おもちゃのCMが流れていた。


「これー!」


 由香ちゃんが嬉しそうにテレビに飛びつく。

 CMの最後には気になるお値段が発表されており、由香ちゃんが欲しがっているフィギュアは五千円程度のものだった。


「五千円か……」

「だめー?」


 由香ちゃんが物欲しそうな目で僕を見つめてくる。

 買ってあげたいという気持ちはやまやまなのだが、現実的に、一介の高校生にとって五千円というのはポンと出せる金額ではなかった。


「やっぱり、ママに相談するしかないかな」

「えー」


 断られることが目に見えているからか、由香ちゃんがそれを納得することはなかった。

 しかし、僕も鬼ではない。

 理事長がどうすればフィギュアを買ってくれるかを暴き出し、そちらへ由香ちゃんを誘導してやればよいのだ。

 ひとまずは、由香ちゃんからそれを聞き出すことにする。


「でも由香ちゃん、今持ってる夢子ちゃんのフィギュアは何で買ってもらえたの?」

「ごほうびー」

「なんのご褒美?」

「おべんきょー」


 お勉強。

 そういえば、おもちゃ箱のほかに勉強道具もいくつかあったはずだ。

 自分でも驚くほどに、あっさりと解決口をが見つかったのだった。


「それなら、お勉強すれば買ってもらえるんじゃない?」

「やだー!」

「僕がお勉強見てあげるから」


 そう言うと、由香ちゃんの瞳が輝きだした。


「やる!」


 由香ちゃんは大急ぎで勉強道具を取りだす。

 その姿を見て、僕は由香ちゃんがいつもどんな気持ちでこの部屋にいるのかがわかった気がした。

 そりゃあそうだ。こんな小さな子がずっと一人で部屋の中にいるなんて、寂しいに決まっている。

 やはり、由香ちゃんは保育園やら幼稚園やらに通わせるべきなのではないだろうか?

 理事長がなぜ由香ちゃんの面倒をこの学校で見ているのかが、僕にはわからなかった。


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