第13話
「……失礼します」
由香ちゃんと騒がしくご飯を食べていると、秋川さんがやってきた。
秋川さんはその手にビニール袋をぶら下げており、少し疲れたような表情をしている。
「来たんだ」
「呼び出されたのよ。昼休みと放課後は毎日来いって」
秋川さんはため息をつきながら、手を洗う。
そして、席に着いて菓子パンを食べ始めた。
「秋川さんは購買?」
「うん」
「……そっか」
───おかしい。
いや、まったくおかしいところはないのだが、それがおかしい。
昨日までの敵意は何だったのかと思うほど、僕に対する秋川さんの対応が丸くなっているのだ。
どこかで好感度を稼いだとは思えない。
だとすると、理事長に何か言われたのだろうか?
しかし、そんなことを面と向かって聞けるはずもなく、僕にはただただ突然の変化を受け入れることしかできなかった。
それぞれがお昼を食べ終わると、由香ちゃんは何かのゲームをやり始め、秋川さんは編み物をやり始めた。
「秋川さんは、この部活でよかったの?」
僕の口から、ふとそんな質問が飛び出した。
「別に構わないよ」
「そっか……ほら、秋川さん昨日も編み物してたからさ、手芸部に入りたかったんじゃないのかなって」
「……そうだね。手芸部に入るつもりだったけど、別に誰かと一緒にやりたかったわけじゃないし、ここでもできるから」
秋川さんは、僕に目を向けることなくスラスラと答える。
それが何かを隠したかったからなのか、隠す必要すらないものだったからなのかは、僕にはわからなかった。
「西条くんは?」
秋川さんが問う。
「僕は……」
僕は、その質問に即答することはできなかった。
別に、いまさら保育部をやめたいなんて考えているわけではない。もうこれはしょうがないことだと受け入れたし、気に入らないというわけでもない。
ただ、僕が描いていた学校生活とかけ離れているのは確かだったからだ。
「僕も構わないと思ってるけど、誰かと何かを切磋琢磨したりもしたかったかな」
なので、正直にそう答えた。
「ふぅん……じゃあ私と一緒に手芸でもやる?」
それは、唐突な提案だった。
まさか秋川さんにそんな誘いをされるとは思っていなかったし、もしかしたらこれも冗談といって流されてしまうかもしれない。
それはなんだか悲しい気がして、僕はとっさに返事をした。
「やる」
「……え?」
「ああ、いや……やろうかな、手芸。ほら、そのマフラーとかも自分で作ったんでしょ?便利そうだなって」
「……そう」
秋川さんは、この時初めて顔を上げた。
その顔には困ったような表情が浮かんでおり、僕は少し自分の発言を後悔した。
そして、秋川さんはすぐに視線を編み物へと戻した。
「やるなら、今度初心者用の本を持ってきてあげるね」
「……いいの?」
まさかいい返事が返ってくると思っていなかった僕は、思わず聞き返してしまった。
「手芸、やるんでしょ?私たちはもう使わないから」
「ありがとう」
この時は、僕も秋川さんも動揺していたのだろう。
それ以降はお互いに黙り込んでしまい、昼休み終了の鐘が鳴るまでは、ただただ由香ちゃんがやっているゲームの音が響き渡っていた。
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