第24話 脱出と餓鬼状態。
あれからどんだけ時間経ったんだ?
俺、身体固いから。
肩関節外して縄抜けなんてできなかった。
尻の方から両手を抜くのも無理。
猿ぐつわされてるっぽいから、よだれ駄々洩れだし。
手首が何かで擦れて、擦過傷が治ってまた腹が減る。
よだれが駄々洩れで、水分が補充されてるのか。
その繰り返しで腹がまた減る。
ぐぎゅるるるるる……
あれだな。
キングリザードのときみたいに。
カーミリアさんに初めて血を吸われたときみたいに。
ものすぅううううううううううごく、腹が減った。
うん。
この際なんでもいいわ。
この猿ぐつわみたいな布。
食えないか?
ということで思い切り噛み切ってみました。
えぇ。
相変わらず、この状態のときは半端ないですわ。
今まで苦労していたのが嘘みたいに。
あっさり食いちぎっちゃって、咀嚼してます。
はい、俺の涎でぐちゃぐちゃで、味のないガム食ってる気分。
栄養もないみたいだから、空腹も紛れない。
胃袋に物入れて『すーぱーぱわー発動』なんて、ありませんね。
相変わらず、顎の力。
咬合力。
『上下の歯で噛みしめたときに発生する力』のことですね。
はい。
あぁ、段々腹立ってきた。
何説明してんだよ。
腹減った。
腹減った腹減った。
腹減った腹減った腹減った。
腹減った腹減った腹減った腹減った腹減った腹減った腹減った腹減った腹減った……。
あ、これさ。
肩脱臼しても治んじゃね?
俺は無理やり尻の方に手を抜くかたち。
肩がミシミシ音を立ててるけど、構いやしない。
それより腹減ってんだ。
『ぐきっ』って音と共に、手が前に膝の裏に回った。
いやこれじゃ駄目だろう。
もう一回。
今度は正座した状態と同じように。
よし。
抜けた。
手にはまってるのが何だか知らん。
俺はそれに歯を立てた。
ごりっ
うん、噛み砕ける。
ごりごりぐりごぎゃ
まず……。
それでも飲み込む。
木枠みたいだな。
鉄っぽくなく、繊維っぽい。
手が外れた。
今度は無理やり胡坐をかくようにして。
足にはまったそれを噛む。
もうちょい。
もうちょい。
うぁ、腰痛ぇ……。
ぎっくりさんになるぞこれ。
よし、歯が届いた。
人間やればできるもんだ。
ごりごりごり
足も外れた。
肩と股関節、腰が治ってきてる。
同時に空腹が限界まできてるな。
目に巻かれてた布を取る。
なんだここ?
薄暗い座敷牢みたいな。
いや、目の前に鉄格子。
これじゃまるで『なんとか投獄』って前に読んだことがある小説みたいじゃないか。
『俺は無実だっ!』なんて、余裕があればかましてるところだけど。
俺にはそんな余裕はない。
「……ふーっ。……ふーっ」
獣みたいな息遣い。
これ、俺か?
やばいな。
辛うじて理性は保ててるみたいだけど、身体はそうは言ってられないみたいだ。
目の前にある物なら、歯さえたてば、喰える。
なせばなる。
なさねばならぬ。
なにごとも。
鉄格子がなんだ。
ただの鉄分じゃないか。
もう知らねぇ。
喰ってやる。
俺は無意識に鉄格子に歯を立てていた。
ごりごりごりごり
ぼりぼりごり
あぁ、噛み砕いてる。
奥歯ですり潰してる。
飲み込んだ。
まずい。
それでも気づいたら、俺が通れるくらいの本数を喰ってた。
あれ?
ちょっとだけ空腹感が紛れてる。
何でもいいのかよ!
さておき。
それでも腹がくっつくような空腹感はひどく残ってる。
扉がある。
鍵かかってるな。
木製だな。
喰えるな。
よし、喰っちまおう。
ごりごりごり
鍵が開いた。
じゃない。
扉が開いた。
明かりが見える。
夜じゃなかったんだな。
今の俺なら、椅子テーブルだって喰うぞ。
あ。
何やら食い物の匂い。
どっちだ?
うん。
こっちだ。
俺は明るい廊下を、食い物の匂いを頼りに歩いていく。
ここだ。
扉を開けた。
なんだ?
飯時か?
目の前にはテーブルがあって。
そこには皿に乗った食い物があった。
「お、お前、どうやって抜け出した?」
「ぁん? うっせぇよ。俺ぁ、腹減ってんだ。ぐちゃぐちゃ言うと、お前も食っちまうぞ? お前みたいなまずそうなのは、喰わねぇけどな」
俺はそう言いながらも、皿に乗った料理を手掴みで喰う。
うん。
いいもの食ってるじゃないか。
そこそこだ。
でも、デイジナの料理に比べたら、美味くはないな。
「兄さん、こいつ。どうやって出てきたんだ?」
「知らんわ」
うっせぇな。
こっちは空腹を満たしてんだ。
俺はそいつらをじろっと見た。
あれ?
どっかで見覚えがある。
それも、あのちょびひげ。
「あぁ、お前。なんつったっけ? フィルケムとか。あぁ、あの『草刈り銀貨一枚』か」
「誰か、誰かおらぬか? 賊が逃げ出したぞ。捕らえるんだ。最悪、斬っても構わん。殺せっ! こんなやつがいるから……」
ちょびひげじゃない方。
あぁ、あのときのおっさんか。
「あぁ、ダーレンとか言った。部下の手柄を横取りしようとして、デイジナに殺されそうになったあれか。うっさい黙れ。俺は腹減ってんだ」
両手でひたすら肉料理を喰い続けた。
口の周りもソースだらけになってただろう。
まだだ。
まだ空腹は癒えない。
後ろで何やら騒がしくなってきてる。
知らんわ。
俺は給仕の女性が持ってる鍋をとっかえして、それを一気にかっこんだ。
いい出汁でてんな。
まぁまぁだ。
男爵とかいったっけ?
そこそこいい暮らししてんじゃねぇか。
そのときだ。
背中に熱い痛みが走った。
「ぐっ……」
俺は後ろを振り返った。
「ぁん? 何してんだ?」
そいつは誰だ。
俺に剣を向けてる。
背中が痒い。
傷が治ってるのか?
ぐぅ……
また腹が減ったじゃねぇか。
余計な真似すんなよ。
「ば」
「ば?」
「化け物めっ!」
あ、また斬りかかってきた。
いてぇ。
痛みはしっかりあるんだよ。
痛みで目が冴えてきたじゃねぇか。
その衛兵なのか。
それとも騎士なのかは知らんけど。
俺を見て震え上がってる。
そりゃそうだ。
斬っても死なないんだからな。
「何してるんですか? 俺は腹が減って、気がたってるんだ。どけ。お前に用はない」
そいつを睨んだ。
そいつ、ぺたんと後ろに倒れたかと思ったら。
座り込んで腰抜かしたみたいだな。
「舐めるな。俺は流浪の民だ。キングリザード倒したやつ、知らねぇか? あれは俺だ。これくらい何でもないぞ」
事実とはったり。
それでもビビってくれたらラッキーくらいだな。
俺は鼻を鳴らす。
うん。
こっちから食い物の匂いがする。
俺はそこにいた奴らを無視して、匂いを頼りに部屋から出た。
やけに静かだな。
あいつら何も言ってこないぞ?
まぁいいや。
それより食い物だ。
厨房か?
冷蔵庫みたいなのが沢山ある。
それを開けた。
生肉やら野菜やら。
うん。
喰えるな。
俺はまるで餓鬼にでもなったように、ひたすらそれらを貪り喰ってたわけだ。
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