第13話 冥土さんの紹介と、塩漬け依頼の話。

 デュラハンの女性。

 デュラハーヌのデイジナを採用して家へと連れて帰った。


「ただいま」


 俺の声を聞いて、ジェラル君が二階から降りてきた。

 キッチンからはクレーリアちゃんも。


「紹介するよ。こちらが今日からメイドとして住み込みで働いてくれる。デイジナだよ」


 デイジナは俺にしたように、二人に挨拶してくれる。


「デイジナと申しまス。どうゾ。よろしくお願いいたしまス」


 彼女のイントネーションは最期の『ス』だけ少し上がるような感じ。

 『ゾ』もちょっとだけ上がってるね。


「デイジナ。この子はクレーリアちゃん。彼はジェラル君。二人とも従姉弟同士で。俺が家主さん。この子たちは二階の部屋の借り手だよ」

「デイジナさん、クレーリアです。初めまして」

「……ジェラルです。よろしくです」


 こらこら。

 わかってるよ。

 ガン見すんなし。

 クレーリアちゃんが睨んでるぞ。


「俺は一階の奥に住んでる。デイジナの部屋はこの後案内するから」

「はイ。お手数かけまス」


 キッチン、風呂場トイレなど。

 俺の部屋も含めて案内すると、次は二階へ。

 彼女には二階の一番奥の左側を使ってもらおう。

 ベッドなどの調度品は、元々メイドさんを雇うつもりだったから買いそろえてあるんだ。


「デイジナ。ここが君の部屋だから。自由に使ってくれて構わないよ」

「……こんなに綺麗な部屋。よろしいんですカ?」

「あぁ。料理を含めて、この家の管理全てお願いするんだ。よろしく頼むね」

「はイ。かしこまりましタ」


 俺は買ってきた布を彼女のベッドに置いていく。

 これはかなりの量だね。

 ここにあるタンスに入りきるかな……。


「さっき買ったもの、ここに置いておくから。先に、服を作るといいよ。それから家のことをお願いね」

「よろしいのですカ?」

「うん。そのままだと、デイジナも気が引けるだろう?」


 すると後ろから視線を感じる。

 振り向くと、クレーリアちゃんがこそっと覗いてるな。


「クレーリアちゃん。入っておいで。ジェラル君は駄目だよ。ここは女の子の部屋だし。俺も説明が終わったらでていくから、我慢しなさいね」

「はい……」


 とぼとぼと自分の部屋に戻ったのだろう。


「そういえばクレーリアちゃん。その服以外って持ってなかったりする?」

「あの。はい」

「デイジナ、彼女の服もお願いできるかな?」

「はイ。かしこまりましタ」

「じゃ、男の俺は出ていくね。あ、食材とか、必要なものがあったら買っておいてくれるかな?」


 俺はポーチから大銀貨五枚ほど出して、デイジナに手渡す。


「節約しろとは言わない。クレーリアちゃんもジェラル君も。まだまだ育ちざかりだから、栄養のあるものを沢山食べて欲しいからさ。お願いできる?」

「はイ。お任せくださイ」

「あ、そうだ、デイジナ」

「はイ」

「あのさ、コーヒーって聞いたことある?」

「あの、苦い飲み物ですよネ?」

「やっぱりあったか。お茶とかも必要だけど、見つけたら買っておいて欲しいんだ。コーヒーを淹れる茶器なんかも」

「わかりましタ。何かご用がありましたラ、普通の声でお呼びくださイ。わたし、耳がいいのデ」

「うん。じゃ、お願いね。俺ちょっと出てくるから」

「はイ。いってらっしゃいまセ。旦那様」

「いってらっしゃい。ソウジロウおじさま」


 俺はひらひらと手を振って、デイジナの部屋を出ていく。


 ▼▼


 俺はギルドに戻っていた。

 もちろん、募集の仲介手数料を払いにね。


「シルヴェッティさん。今回はありがとうございました。これから手数料引いといてください」

「はい。手数料を気にしてくれる人って少ないんです……。本当に助かります」


 苦笑してるよな。

 ある意味困ってるんだろう。

 シルヴェッティさんは、カウンターから身体を乗り出してくる。

 俺の耳にそっと話してくれる内容が。


「……実は、面接を自分の店舗で行って、すぐに取り下げる人がいるんです。おそらくは手数料を払いたくない店主さんだったりするんですよね……」

「あはは。そりゃ辛いね。仕事頼んどいてそれはないわ」

「私たちはきつく言えないんです。本当にやめて取り下げか、証明することができませんからね」


 さらに呆れたように苦笑してくれる。

 俺にもそんな経験はあったな。

 旅館のお客様にも、取引先にも、困った人っていたからね。

 お客様は総じて神様ではない。

 対価に合ったものより少しだけ上等なサービスを提供して、満足してもらう間柄だと俺は思っていた。


「はい。ありがとうございました。手数料確かにいただきました」

「じゃ、俺。ちょっと依頼を見てるからさ。何かあったら呼んでね」

「依頼を受けられるのですか?」

「うん。塩漬けになってるのを片付けていこうかな。と。そうだね。そういう依頼、あるでしょう?」

「はい。そこそこ、いえ。結構あります」

「ならさ。リストアップしてもらえるかな? クレーリアちゃんとジェラル君にもやるように約束して部屋を貸したんだよ。でもね、報酬的に理不尽なものは、ちょっとやらせられないから。極端に酷いのはさすがに手を付けるつもりはないけど。内容を読んでみて、必要性があったら俺がやろうと思ってるんだ」

「……助かります。今のうちにリストアップしておきますので」

「お願いしますね」


 俺は壁にある依頼掲示板を見てみた。

 なるほど。

 普通のものは上からランクの等級順に並んでるんだな。

 あ、これひでぇ。

 『屋敷の草刈り。銀貨1枚』とか。

 依頼主が『ヘ〇ルト・フィ〇ケム』とか貴族っぽい名前。

 確か、姓を名乗るのって一般の人はないってどこかで読んだような。

 ファンタジー小説だったかな?

 これ、断れなかったんだろうな……。


 『猫探し』も普通にあるんだな。

 『迷い犬』も。

 何かが貼ってあったスペースが空いてるあるね。

 依頼を受けたら剥がすようにしてるんだろう。


 これはいいかも。

 これは俺だろうなと、思ったよりも塩漬けされそうな依頼が多いことに驚いたね。


「ソウジロウ様」

「あ、はいはい」


 シルヴェッティさんに呼ばれた。

 テーブルについて、ピックアップされた依頼の一覧を見せてもらった。


「これ。あぁ、なるほどね。シルヴェッティさんの見解でもそう思うわけだ」

「はい。これ全て。敬遠されて受けてもらえなくなると思います」


 ひとつひとつ、その理由まで書いてあった。

 最期の数個は『これは無視しても構いません』って。

 さっきの『屋敷の草刈り。銀貨1枚』もそこに並んでた。


「これ、放置しても大丈夫なんですか?」

「はい。これ実は、この方の別宅で。誰も住んでないところなんです。私どもは相当酷い内容のもの以外は、受けないという選択はできません。ですが、完遂させる義務はないんです」


 シルヴェッティさん、苦笑をかみ殺してる。

 目は珍しく笑っているように思えない。

 これ、相当腹に据えかねてるんだろうな。

 何かしら嫌味でも言われてる可能性も否定できないだろう。


「これ、なるべく俺が消化していこうと思います。うちの二人には無理のないように言ってありますが、ここまで無理目なものはやらせられないですからね」

「助かります……」


 俺はその一覧を格納して、今日は帰宅することにした。


 帰りしなに美味そうな酒を適当に買う。

 これ、俺の部屋の冷蔵庫に入れておこう。

 晩酌は必要だからねぇ。

 色々な酒を手に入れ、今晩からが楽しみになってきた。


 家に着くとすぐに、俺を見つけたのか。

 クレーリアちゃんが俺の前でくるんと一回りして。

 嬉しそうな顔で声を弾ませていた。


「ソウジロウおじさま。デイジナさん、すごいんですよっ」

「うん。そうみたいだね」

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