呪言

 それは呪い。人の形をした呪いそのもの。その時までは人でしかない。その時がいつ訪れるかわからない。その時が来たらお前の出番だ。


 子供のころからずっと聞かされてきた言葉だ。その時のためにお前はいる。


 悲鳴が響く校舎の中でもかき消されないほど大きな着信音。表示された名前を見てげんなりする。本家からか。状況を知るのが早いんじゃないか?


 通話ボタンを押して耳にあてると


『封印を解除する』


 それだけを言って切られた。


 そうだ。この時のためにオレはここにいる。北条鈴鳴すずなが人の姿を捨てて呪いになって、人々を呪い殺し始めた時のためにオレはいる。すぐに対処できるようこうして進路も一緒になるようにしてきた。


 呪いにならない可能性もあった。あと数年だから我慢してちょうだい。そう言われても来た。20を超えると二度と呪いには変化しないそうだ。


 呪いになってしまった以上関係のない話だ。


 校舎の中の悲鳴はだいぶ小さくなった。一度姿を見せた彼女は姿を消していて再び、オレの前に姿を現した。見ているだけで気を失いそうな姿だ。膨れ上がった体は所々が赤く染まっている。それが彼女自身の血なのかどうかはわかりたくない。


 オレの姿を見つけた彼女はその大きな体を引きずりながら近づいてくる。


 一言。一言だけでいい。


 一言彼女へぶつけることでオレのやるべきことは完遂される。そういう仕組みだ。今まで不定期に生まれてきた呪いたちも皆、オレの一族の殺意が込められた言葉で消えていった。ぶつける言葉は恨みがこもっているモノならなんでもいいらしい。死ね。消えろ。つぶれろ。いなくなれ。


 その時が来た。もうすぐ彼女がオレに触れられる位置までやってくる。


 深呼吸をしてオレは彼女へ言葉を贈る。


「愛してるよ鈴鳴」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る