はやくお金を使い切らなくちゃ!

ちびまるフォイ

終わりのあるもの

国を治める2人の男が会食をしていた。


「いやぁ、うちの国でひとつ問題がありましてね。

 国民がみんなお金を使ってくれないんですよ」


「うちもです。貯金ばかりしてしまうんで、経済が回らないんです」


「そっちもですか。困りましたね、お金使ってくれないかなぁ」


「そうですねぇ。ああ、そろそろ時間だ。失礼しますよ」


国のトップは時間に急かされるように次の場所へと移動していった。

それを見ていたもうひとりの男はふと思いついた。


「お金に期限があったら、みんな使ってくれるんじゃないか」


男は国に戻るとさっそく「有効期限つき」のお金をたくさん作った。

ヘリコプターで空から金をばらまいて、国は一時らんちき騒ぎとなった。


有効期限があればみんな使ってくれるだろうと思っていると、

執務室にお金大臣がやってきた。


「トップ、なにか御用でしょうか」


「おお来たか。それで、有効期限紙幣による経済効果はどうだ?

 みんな慌ててたくさん使ってくれているはずだ」


「そ、それが……」


結果を見たトップは顔面蒼白になった。


「全然変わってないじゃないか!? なんで!?」


「有効期限があるのに気づいてない人が多いみたいです……」


「ええい! だったら期限内に使い切れなかったら、罰金を支払わせてやる!!」


急きょ、有効期限紙幣を期限内に使い切れなかったら罰金という謎の仕組みが導入された。

その罰金が有効期限ありではなく、本物の「有効期限なしのお金」で払わなくちゃいけないとなっている。


ペナルティが追加されたことで有効期限の存在は一気に広まった。

国のトップは安心して自分の部屋で葉巻をふかせていた。


「トップ、よろしいですか」


「お金大臣か。入れ。結果はどうだ?」


「はい、先日のペナルティ告知からみんな慌ててお金を使うようになりました」


「そうだろうそうだろう。これで経済回りまくりで、うちの国は豊かになるぞ!」


「それなんですが……」

「え? まだなんかあるの?」


お金大臣はお金の消費先を見せた。

みんな自分の好きなものにお金を使ってくれると思いきや、消費先は妙に偏っていた。


「なんか……美術品とか、宝石とか、金の延べ棒とかばっかりだな」


「どうやら期限付きのお金を使って、いったん美術品とかを買ってから

 それを再度、期限なしのお金に換金するのが流行っているようです」


「なんだその裏技!?」


これでは国から毎日支給される期限付きのお金から「有効期限」が消えてしまう。

もっと飲食店や製造業にお金を回して経済を豊かにしたかったはずが、質屋ばかりが儲かるという状態になっている。


「トップ、どうしましょう……」


「ああもう面倒だ! すべてのお金に有効期限をつけるのだ! それなら文句あるまい!!」


トップの豪腕でこれまで所持していたお金もすべて有効期限がつくようになった。

使い切らなければペナルティもあるので、誰もが急かされるようにお金を使った。


「ふっふっふ。多少強引ではあったが、これならきっと国が豊かになるぞ」


トップが国のお金の状況も見るとお金は溜め込まれることなく、使われていたので一安心。

お金に対する欲から解放された国民からは祝福されるだろうと町を散策にでかけた。


トップが見たのはこの世の地獄だった。


「おい! お前、いったい何食べているんだ!?」


「なにって……お金ですよ……有効期限が今日までなんです。

 食べるものがないからお金を食べてるんです……」


「その金を使えばいいだろう!?」


「何を言ってるんですか……。お金の使い先があるなら苦労しませんょ……」


トップは町のお店を見て回ったが、どの店も物を売っていなかった。

店主は肩を落としていた。


「作っても作ってもとても品が足りないんですよ。

 みんな物が欲しいんじゃなくて、お金の消費するために買っていくんです……」


ペナルティを恐れた人たちはお金をなんとか手放そうと、いらないものまで買っていく。

そうして品薄が加速していって、どんどん飢餓状態へと陥っていた。


「もうダメだ……」


国のトップは自分の失策を認めて、お金の有効期限を廃止した。

時間はかかったがまた国はもとの状態にまで戻った。



それからしばらくして、また国のトップ二人で食事をする機会があった。

ひとりは、有効期限付きのお金を作った結果に起きた失敗談を話した。


「……というわけで、有効期限つきのお金はもうやらないと決めたよ」


「ははぁ、そんなことをしていたんだな」


「しかし君の国はすごいな。めちゃくちゃお金が回って豊かになっているじゃないか」


「最近、はじめた計画が上手くいっているのかもね」


「その計画、教えてくれないか?

 有効期限つきのお金で大失敗したから、今度は失敗したくない。

 お金が回る方法があるならうちの国でもぜひ知りたいんだ」


「もちろん構わない。ちょっと耳を貸してくれないか」


男が耳を近づけるとささやき声が入ってきた。


「うちの国では自分の寿命を見えるようにしたんだ。君の寿命も教えてあげよう」


寿命が残り3日と知った男は貯め込んでいたお金を慌てて使い切った。

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