最終話

また今日もあのシナリオの男と話に行く。


「こんばんわー。」


と、いつも通り話しかけると様子がいつもと違い

どんよりしているような気がした。


「…どうしたんですか?」


話しかけるが、こちらに反応してくれない。


私は男の作業が終わるまで待っていようと思い

男の背後の机に半身で座る。


多分集中しすぎて気づかないんだろう。

と部屋の周りを見て暇を潰そうとしていると

男がくるっと急にこちらを見た。


手には、刃を出していないカッターをこちらに向けている。


「え…、何?」


私が動こうとすると


「動くなぁ!」


と、男がカチカチとカッターの刃を出そうとする。

30センチもない距離で逃げ道がないとあせり、咄嗟にまだ刃が出切っていないカッターを男から奪い、その部屋から全力で逃げ出す。


「誰か!助けてー!」


と、大声で人に届くように声を出す。


「やめろ!」


と、男は追ってくる。


私は厠を出て人が多い街に出ようとするがまあまあ遠い。

こういう時に焦ってずっこけ、道に出る前の家の背後で男が持っているナイフで刺されそうになる。


「お前の人生、俺がもらう。」


と、言って男がナイフを振り上げ、私を殺そうとする。私は恐怖で体が固まり目を閉じてしまう。


[バコォ…]


と何かが強い力で当たる音がして目を開ける。


すると自分の目の前にロングブーツの脚が伸び、男の腕を私の体からそらしている。

私はその場から立ち上がり少し離れる。


あの黒革の案内人が私の前に来て助けてくれた。


「え!あの…」


「私の後ろから離れないで!」


案内人は剣と足技で男の腕をバコバコ蹴ったり、

男の剣さばきを避ける。


[バカァ…ン!]


と一層大きい音がなり、

案内人のひと蹴りで男を蹴り飛ばした。


男はうぐうぐと泣き崩れる。


「あ…ありがとうございます。」


「あなた、この人のこと知ってる?」


「あまり…」


「この人は、案内人にも、街の住人にもなれなかった存在しないキャラクターなの。これはゲームのバグで生まれてしまったもので、自分の人生と人間の人生を入れ替えようとする輩なのよ。」


だから…、私を殺そうとしたのか。


「…俺の人生あげるからよぉ…、お前の人生くれよぉ…。」


地面に顔を突っ伏したまま、私に話しかける。


「ダメよ。私たちは本物の生き物ではないの。だから現実の人間にはなりきれないわ。」


「なんで人間はこっちの人間になれるんだよ…。ずるい、ずるい、ずるい!」


男の声が背景中に響わたる。


「この世界は、現実の人間が作り上げたものだからよ。私たちは現実の人間が作ったおもちゃでしかないの。」


案内人は男を諭すように話しかける。

男はそのあとずっと地面に顔を突っ伏したままこちらに顔を見せなかった。


「…ごめんなさい。」


私は管理人に謝った。


「ルールを守れないなら、ゲームはやめなさい。」


「はい。」


案内人にお灸を据えられて、自分は現実の世界に帰り、私はゲームアプリを消去した。

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望む世界 環流 虹向 @arasujigram

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