#掌編祭

@Kyata_P

フルーツソースの君

「あれ、また入ってる」


 下駄箱の中に赤いリボンが見える。去年もこの日に入っていた。


「それ、お前の妄想じゃなかったんだな」


 覗き込んできた友人の加藤が言う。


「え、信じてくれてなかったの」

「差出人、わからずじまいだったろ? 一年の時すっぽかされたこと気にして、嘘ついてるのかと思ったぜ」

「そんな嘘つかないってば」


 言いながら、リボンをほどく。去年と同じ、手作りのチョコと手紙が入っている。


「どれどれ……? いつも応援しています。ぜひ召し上がってください? これだけか?」


 ひょいと、手紙を取り上げた加藤が読み上げる。去年と同じ文面だった。


「うーん、名前、やっぱり書いてないんだな……っと」

「チョコはやらないからな」


 チョコへ伸ばされた手を払い、先に行く。

 学校を出たところで追いついてきた加藤に言う。


「今年は見つけて、お礼を言いたいな」

「そんなこと言って、卒業前に彼女が欲しいだけなんだろ?」


 図星だ。図星なのだが、癪なのでチョコを食べて誤魔化す。甘酸っぱいフルーツソース入りのチョコ。やっぱり去年と同じ味。


 街中に出ると、一気に人が増えてくる。いつも通りの風景の中に、見覚えのある色が見えて、足が止まる。

 リボンだ。

 赤いリボンを着けた制服の女の子が、路地へと入っていくのが見える。

 手元の赤と、視界に残る赤が重なった。


「悪い、ちょっと急用ができたわ」

「おい、なんだよ急に」


 しつこく迫る加藤を押しのけ、走り出す。赤いリボンはもう見えない。路地に入る。赤い影が、右へ曲がるのが見える。走る。路地はまだ終わらない。走る。……。

 路地を抜けると、視界が急に開ける。

 耳障りな音を上げながら、車が急停車する。運転手が顔を出して、こちらに怒鳴っている。

 それらを、ひどく遠くに感じていた。

 意識のすべてが吸い込まれる。無造作に置かれた花束。電柱にくくりつけられた赤いリボン。そこに書かれた、二年前のバレンタインの日付。

 甘酸っぱいソースの味が、口の中に広がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

#掌編祭 @Kyata_P

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ