エルフの心臓

@sexydynamic

Ep.1 魔女を殺しに旅立とう ①

作られたばかりの獣道を、ジープが走る。

巨大な生物により踏み倒された木々を更に踏みつぶしながら、ジープが走る。

未舗装の不安定な道路のために作られた四輪駆動車とはいえ、倒され、潰れた木の上を走るのはいくらなんでも衝撃が強すぎる。

倒木と地面の生み出す極端な段差の上を通るごとに車体は激しく上下し、乗車する者達の身体も跳ね上がった。


運転手を務めるサムライ・ルディオは、他四人の同乗者達はこの最低の悪路が気にならないのだろうかと疑問で仕方がなかった。

特に、舗装された道を通るべきだと進言したルディオに、この獣道を通るよう命令した一応の主君がどう考えているのか。


その主君である魔女・クローネは、座席に座ることを嫌ってボンネットにふてぶてしく横たわっている。

150cmにも満たない彼女の小柄な身体は一応ボンネットに収まっているが、これだけ何度も何度も揺れて跳ねていればとても快適には思えなかった。

細いメタルフレームの眼鏡ごしに見える彼女の表情は、ルディオには不機嫌に見えた。

それも、今自分が不快な思いをしているのはどこかの他人に責任がある、とでも言いたげな不機嫌さだ。

彼女の長く青紫色の髪と、一番の特徴である尖った耳が、向かい風を受けて揺れていた。


「やっぱり、まともな道を通った方がよかったんじゃないか?」

「なんですって!? 聞こえないわ!!」


木々を踏みつぶす音や、跳ねた車体が着地する音。

雑音と呼ぶには大きすぎる様々な音が、ルディオの声を遮っていた。

彼らのジープは屋根のない、所謂オープンカーだったが、それでも普通の声量ではまともに会話ができなかった。


「まともな道を通った方がよかったんじゃないか!!? これじゃたどり着く前に事故にあうぞ!!」


改めて大きな声で主張するルディオ。しかしクローネは、その声を無下に拒絶した。


「起こさないように気をつけなさい!!」

「事故で一番大怪我するのは!! どう考えてもお前なんだぞ!! ボンネットに寝転がっているお前!!」


彼女と車をつなぎ止める物は何もない。事故が起これば車からから弾き飛ばされるのは、あまりにも明白だった。


「そうならないように気をつけなさい!!」

「そもそも!! どうしてお前は!! 座席に座らないんだ!!」


クローネは日頃から、ボンネットに好んで寝転がっている。わざわざ、ふかふかの毛布を敷いてまで。

それだけ整えていても、ルディオの目にはその環境が快適とはとても思えなかった。


「貴方達の図体が無駄にデカいからよ!!」

「ハーハッハッハ!! 言われておるぞ怪印(けいん)よ!! ダイエットでもしたらどうだ!!」


後部座席にどかっと腰掛けるプロレスラー・マスカラ=ファルサは、200cmを越える身長と太くたくましく鍛え上げられた骨・筋肉・そしてそれを包み込む厚い脂肪を揺らしながら豪快に笑う。


「……」


隣に座る黒い装束に身を包んだ忍者・怪印は、右手を顔の前でピンと立てて彼なりの謝意を表す。口元はマスクで覆われているが、深い褐色の肌に囲まれた二つの眼は少しだけしょんぼりしており、表情をちゃんと見れば申し訳なさが伝わってくるだろう。

190cmを越える身長と、引き締まってはいるが筋肉質な身体を持つ彼は確かにデカい。彼は忍者だが、こんな図体で本当に忍べるのだろうか。

とにもかくにも、本来ならば三人分のスペースが用意されている後部座席は、二人の巨漢によって占拠されていた。


「いや、一番デカいのは貴方ですよ!!?」


助手席のエンジニア・アーミルが思わず指摘した。浅い褐色の肌をした、身長170cm程度で痩せ形の男だ。パーティの全員が彼のような体型であれば、クローネも大人しく後部座席に座ってくれたかもしれない。


「ハーハッハッハ!! 確かに!!」

「ファルサさんの膝にでも座ればいいんじゃないか!!?」


ルディオの発言を受けて、アーミルが食ってかかる。


「ひ、膝!!? 何言ってんだお前!!」


普段から他の面々には敬語を使い、ルディオにだけは多少乱暴な話し方をしているアーミルだったが、特に語気を荒げて抗議した。


「我が輩は構わんぞ!! お嬢の安全を保障しよう!!」

「いやよ!! ゴツゴツブヨブヨしてて気持ち悪そうだわ!!」

「ハーハッハッハ!! フラれてしまったわァ!!」

「とにかく!! 『アレ』がこの先にいるのは間違いないんだから、大人しくこの道を進みなさい!!」


踏みつぶされた木々で作られた最低の悪路は、進む度にガタガタドコドコとお祭り騒ぎの轟音を立てる。


「大人しくゥ!!?」


どう大人しくしろというのか。ルディオは頭が痛くなった。


「スピードを落とせってことか!!?」

「馬鹿をおっしゃい!! 全速力よ!!」

「クソがァ!!! 事故が起こっても知らんからな!!!」


これだけワガママを言われても、サムライであるルディオは主君の命令に逆らえなかった。

黒いスーツに身を包んだルディオの風貌は、サムライのパブリックイメージとは違うかもしれない。

それでも、ルディオは自分をサムライだと判断している。

サムライ・ソードを使いこなせたし、恩義に報いるという生き方もしっくり来たからだ。


ヤケクソでアクセルを踏み続けるルディオの見つめる先に、『アレ』が飛び込んできた。

この獣道を作り、そしてクローネ達の目標となっている巨大なモンスターだ。

モンスターは口から放出される熱線を、村に向かって浴びせている。


本来であれば人も家も何もかもが熱線に吹き飛ばされているところだが、村に張られた結界がそれをくい止めている。

この村に張られた結界は恐らく、一定量以上の魔力(つまり、対処の困難なモンスター)を排除するよう設定されたオーソドックスな防御用魔法だ。


しかし、最近発生しているモンスターには規格外のものが多すぎる。目の前にいるものも含めて。

結界の魔法自体は有効でも、結界を維持するための魔力が尽きないことは保証できない。


「あれは……オリエンタル・ドラゴン!!?」


その姿形をはっきり認識できる距離まで近づいて、ルディオは更に驚愕した。

ドラゴンの中でも、蛇のように細長い身体を持つタイプは総称して『オリエンタル・ドラゴン』と呼ばれている。

そもそもドラゴン自体が人里に出てくるようなモンスターではないのだが、『オリエンタル・ドラゴン』は遙か遠くの地域にしか生息していないはずの生物だった。


なぜ人の住む場所にドラゴンが? それも、オリエンタル・ドラゴンが?

疑問はつきないが、ゆっくり考える猶予はルディオになかった。

自分達が到達するまでの数秒でドラゴンは結界を突き破り、中にいる村の住民は殺されるかもしれない。


果たして、ルディオの考えたとおり舗装された道を遠回りした方が早かったのか、クローネの指示通り不安定な獣道を無理に進んだ方が早かったのか……今となってはどうでもいいことだ。

ジープはようやく森の獣道を抜け、舗装された道に入った。

クローネの指示とは無関係に、村の住民を守るためにルディオはアクセルを踏み込み続け、真っ直ぐドラゴンへと突き進む。


「……いや、このままだとぶつかる!!? 事故るぞ!!」

「事故りなさい!!」


クローネはぴょんっと飛び起きると、高いヒールをガンッとボンネットに突き刺すように力強く立ち上がり、そして掌をまっすぐドラゴンに向けて光の障壁バリアーを展開した。


「クソッ!! わかった!!」

「シートベルトを『外し』なさい!!」


クローネの指示を受け、マスカラ=ファルサが豪快に返事をする。


「おうよォ!!」


ともかく車内の全員がシートベルトをスパァンと勢いよく外す。

その直後、クローネの展開した障壁バリアーがドラゴンに衝突し、衝撃でドラゴンも、ジープも、ルディオもクローネも、マスカラ=ファルサも怪印もアーミルも、何もかもが吹っ飛ばされた。


「無茶させやがって!!」


ルディオは空中で、すっ……と腰のサムライ・ソード《村雨》に手をかける。

余談だが、ルディオ自身はこのサムライ・ソードが本当に《村雨》という名前なのか確信はしていない。

刀身村雨と刻まれているので、これが名称なのだろうと判断しているだけだ。

このサムライ・ソードの持ち主の名前が《村雨》だった……という可能性も否定はできない。


「行ってこォい!!」


ルディオの後方に吹っ飛んでいたマスカラ=ファルサが、ルディオに向かって強烈な蹴りを放つ。

ルディオは蹴りに足を合わせて、その衝撃を踏み台にしてドラゴンに向かって飛んでいく。

衝撃に吹っ飛ばされたドラゴンが、倒れたまま素早くルディオに反応する。頭だけをルディオに向け、熱線を浴びせかける。


「死ねぇッ!!」


熱線を迎え撃つべく、ルディオがサムライ・ソードを抜いて振るいかかる。狙い通り、サムライ・ソードは熱線と衝突する。


「クッ……ソ……ッ」


熱線に対してサムライ・ソードで鍔競り合いするルディオ。そしてとうとうサムライ・ソードを振り抜き、斬撃を放つ。

ルディオの放った斬撃は熱線を切り裂きドラゴンの口まで届いたが、一撃で決着をつけるつもりだったルディオの思いも空しく、勢いを殺されドラゴンの顔面に深く傷をつけるのみであった。

そして、切り結んだ衝撃で吹き飛んだルディオが着地し、体勢を立て直そうとした瞬間、ドラゴンの口腔がルディオを狙って煌々と光り出した。


(避けられない!?)


そう逡巡したルディオに向かって熱線が襲いかかる……その直前、巨大な筋肉の固まりがルディオの前に立ちふさがった。


「ファルサさん!!?」


覆面のプロレスラー・マスカラ=ファルサである。


「お主をここで死なせるわけにはウオオオオぉぉぉぉぉ熱いいいいぃィィィィィ!!!!!!」


ルディオに代わって、仁王立ちのマスカラ=ファルサが熱線を正面から受け止める。

常人であれば消し炭になるほどの威力を持った熱線、『熱い』では済まされないのだが、彼はプロレスラーだ。

『相手の技をあえて受けること』を美学として鍛え上げられた彼の身体に対しては、さしものドラゴンも軽い火傷程度のダメージしか与えられなかった。冷やせばそのうち治る。


そしてドラゴンの熱線がやんだところで、エンジニア・アーミルが構えたバズーカでドラゴンの口を狙う。


「トリモチィッ!!」


その叫び声の通り、バズーカからはトリモチが発射される。正面からドラゴンを打ち破る手段は自分にはないと判断したアーミルは、搦め手に出たのだ。

アーミルの狙い通り、トリモチはドラゴンの口を塞ぐ。

特殊な金属と混合して作られたトリモチは、発射された直後こそ柔らかく、ブヨブヨで粘着質だが、すぐに鋼鉄のように硬くなる。

計算通り、硬くなるタイミングはドラゴンの口を塞いだその瞬間に訪れた。


「!!?」


突然口を塞がれ、混乱するドラゴン。顎の力で引きちぎろうにも、トリモチの剛性故に上手くいかない。

引きちぎろうと力を加え続ける隙に、追撃されるかもしれない。そう判断したドラゴンは、トリモチを焼き切るべく熱線を放つ。


「グゴォッ!!」


熱線は果たして、ドラゴンの口にまとまりつくトリモチを見事に焼き切ったが、それと同時にドラゴンの口腔内で暴発して口と喉を焦がした。

痛みでのたうち回るドラゴンの目の前に、忍者・怪印が現れ、焼けただれたばかりの口腔に腕をたたき込み、長い舌を掴む。


「カトン」


怪印はその手から火遁の術で業火を発し、追い打ちをかけるようにドラゴンを内側から焼き尽くしていく。二度と、熱線を吐こうなどと考えぬように。


「グガァァァァッ!!」


ドラゴンは苦しみにのたうち回り、怪印の業火から逃れようとするが、舌を掴まれている故になかなかそれが叶わない。

何度ものたうち、首を振り、ようやく怪印をふりほどく。


「ちょっと貴方達!! こいつの『内側』はあんまり攻撃しちゃあダメでしょ!!!」

「す、すみません!!」

「……」


アーミルは言葉で、怪印は右手を顔の前でピンと立ててそれぞれ謝意を表す。

ルディオだけはドラゴンの内側を避ける理由が分からなかったが、激しい攻防の中でその真意を確かめる余裕はなかった。

村の人々を守るため、なるべく早くこのドラゴンを始末するべきだ。何を拘っているんだ?

そう問いただす暇があるなら、一つでも多く追撃するべきだ。


口腔を破壊されたドラゴンは、接近戦に切り替える。


「ガァァァァッッ!!!」


蛇のようにうねりながら、その10mはあろうかという巨体に似つかわしくない猛スピードでルディオ達に近づき、右前足の三本の爪を振りかぶる。


「ハァッ!!」


ルディオ達の後方で弓を構えていたクローネが、魔力で生成した矢を飛ばし、一撃で右前足を吹き飛ばす。


「ガァァッ!!」


自身の欠損を気にもとめず……というより、気にとめるだけの余裕がないのか、ドラゴンは間髪入れず残った左前足の爪で襲いかかる。


「ハァッ!!」


しかし、反撃も空しく左前足もクローネの矢により吹き飛ばされる。

最早ドラゴンに有効な攻撃手段は残されていないかに見えるが、10mを越える巨体はただただのたうち回るだけでも十分な脅威だ。

迅速に始末しなければ、どのような被害が発生するかわかったものではない。


ルディオのそんな考えは、すぐに現実のものとなってしまった。

のたうち回るドラゴンの身体が、村を守る結界をとうとう破壊してしまったのだ。

恐らく、立て続けの衝撃による魔力切れが原因だろう。

ドラゴンの身体は更に、村の入り口付近の納屋を破壊する。

村人たちはドラゴンから離れた場所に避難しているはずだが、人的被害が出るのも時間の問題と言えた。

ルディオはサムライ・ソードを構えて、のけぞったドラゴンの腹部めがけて斬りかかる。


「死ねぇぇぇぇッ!!」

「お待ちなさい!!!」


クローネはルディオの足下めがけて矢を放つ。


「なっ!!??」


全く予期せぬフレンドリーファイアに、ルディオは盛大に転倒する。


「何考えてんだテメェ!!?」


ルディオの受けた矢は、ドラゴンの受けたそれに比べれば大分威力の抑えられたものではあったが、ルディオの踵は確かに出血している。


「マスカラ=ファルサ!!!」


ルディオの憤りを無視して、クローネはマスカラ=ファルサに指示を出す。


「承ったァ!!」


ファルサは渾身の力でドラゴンを蹴り上げ、上空に吹き飛ばす。


「グアァァァァァッ!!」

「うぉぉぉぉぉッ!!」


そして超人的な脚力で跳躍し、逆さまにひっくり返って地に頭を向けるドラゴンの首に全身でしがみつく。


「あの技は……まさか!!?」


アーミルが興奮した様子でファルサの動向を見守る。


「フゥンッ!!」


ファルサがドラゴンの首にしがみついたまま、垂直に落下してドラゴンの頭を強かに地面に打ち付ける。


「グアアアァァッ!!?」

「出たぁ!! 竜殺しのパイル・ドラゴンだァッ!!」


アーミルの解説する『竜殺しの槍』という名の通り、ファルサの必殺技フェイバリットを受けてドラゴンは頭蓋骨を砕かれ、脳を激しくかきまわされ、首の骨を折られ、絶命した。


「竜をも殺せるほどの威力を持つ、という由来のこの技だが、まさか本当に竜を殺すところが見られるとは……」


感激にうち震えるアーミルにグッとサムズアップすると、ファルサは村の方に近づき、叫ぶ。


「安心したまえ村の衆!! 悪しきドラゴンは我が輩達が討伐したぞ!!」


ファルサの声を聞き、ドラゴンを恐れて村の奥に身を潜めていた住民達が一人、また一人と姿を現し、絶命したドラゴンの姿を確認すると誰からともなく歓声をあげた。


「ウォォォォォォォッッ!!!!」

「ハーハッハッハ!!!」


高笑いするファルサに、クローネは呆れてため息をもらす。


「まるで一人で討ち取ったみたいね……」

「おい」


ルディオは静かに憤りながら、クローネの肩を掴む。


「痛いわよ?」

「俺の踵の方が痛い。あの矢は一体どういうつもりだ?」

「ああ……あれね。治してあげるわ」


そういうとクローネはしゃがみ、ルディオの踵の傷に回復魔法をかける。みるみるうちに、ルディオの踵の傷は塞がっていく。


「そうじゃねぇだろ」

「あら、もう一度傷を開いた方がお好みかしら? 面倒くさいから自分でやってくれる?」

「理由を話せと言ってるんだ!! 俺を射って攻撃を止めて、何を考えてるんだ!?」

「理由が知りたいなら……そうね、とりあえずあれの腹をかっさばいてくれる?」


クローネは絶命したドラゴンを指さす。


「何の意味があるんだ? ったく……」


クローネはこれでも一応、ルディオにとっては恩人であり、主であった。

命令に逆らう気にはなれない。

それがルディオにとって、大きな損失にならない限りは。


「胃の中身まで傷つけないようにね」


ルディオはクローネの指示に従い、サムライ・ソードでドラゴンの腹を3m程切り開いた。

血や臓物の悪臭が辺りに漂い、クローネは思わず鼻をつまんで後ずさる。


「うっ……。アーミル、さっさと用事を片づけてちょうだい!」

「はい!」


いつの間にかガスマスクと長いゴム手袋で防備したアーミルが、ドラゴンの腹の中をまさぐり、その中から両手で抱えるには余るほど大きな塊を取り出す。


「……魔石?」


魔力を蓄積するための宝石──《魔石》だ。殺害したモンスターから魔力を奪い、機械類(例えば、ルディオ達の乗っていたジープのような)に魔力を供給するのが主な用途だが、魔力を求めて飲み込むモンスターも存在する。

今回の様にモンスターが人里を襲うのは、魔石に蓄積された魔力を狙っているケースがほとんどだ。

この魔石も、ドラゴンが魔力を求めて飲み込んだものと推測できたが……普段ルディオの目にする魔石と比べて、妙に透き通って美しい気がした。

ドラゴンの胃袋から摘出されたこの、無惨な死骸に似つかわしくない、高い透明度と胃液でキラキラと輝く魔石が、ルディオには妙に不気味に感じられた。


アーミルは魔石よりも一回りほど大きなカプセルを用意している。

ルディオは初めて見たが、状況から考えて魔石を収納するためのものだということはすぐに察せた。ご丁寧に、カプセルには持ちやすくするためのハンドルまでついている。

しかし、魔石は普段であれば革の袋にでも乱雑に詰めて持ち運んでいるものだ。

この魔石の何が特別なのだろうか、ルディオは訝しんだ。


「無事にとれましたね」


アーミルがそう言いながら魔石をカプセルに収納するのを、ルディオは聞き逃すことができなかった。


「……お前は、知ってたのか?」

「ん? ああ、まぁな……」


恐らく、アーミルだけではない。ドラゴンの腹から魔石を取り出す作戦について、自分だけが知らされていなかったのでは?

何故だ? 事前に知っていれば、自分だってドラゴンの腹を傷つけないように戦うことができただろう。

いや、そもそも……何のためにこの魔石を摘出した?

何故、このドラゴンが魔石を飲み込んでいたと確信できた?

様々な疑念が、ルディオの頭を駆けめぐる。


「……説明、してもらおうか?」

「……それは場所を変えてから」


クローネはそう答えると、ファルサと握手している高齢の男性に声をかける。


「失礼。この村の長老様はどこかしら?」

「え? ああ、私ですが」

猟友会ギルドに連絡してくださる? 私達じゃこのドラゴンを処分できませんから」

「ああ、そうですね! ただちに!」

「それと、原則としてモンスターの死骸は猟友会ギルドのもので、残った魔力は討伐した我々のものですが……今回はあなた方に譲ってさしあげます」

「えぇ!? いいんですか? 丁度皆様も魔石を持っているようですが……」


長老はアーミルの持つ、透き通った魔石を収納した鉄のカプセルに目をやる。

普通であれば、あの魔石を使ってドラゴンから魔力を奪うところだ。


「かまいません。結界で消費した魔力を補給するといいでしょう。それに……」


クローネは、怪しくふふっと微笑む。


「あの魔石は、こんなつまらない魔力を奪うためのものではありませんから」


ドラゴンの魔力がつまらないなら、価値のある魔力とは何を指しているのか。

ルディオは不気味な予感に身をこわばらせる。

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