第三十話〜女帝〜

—教官ルーム—


生徒会が駆けつけると、教員やGMの姿はなく

暴動どころか辺りは静まりかえっていた


SV「これは—灰…?どうしてこんな所に…?」


SV「確か風紀委員はここにいる筈だが—」


SV📱「副会長、現場には誰も……ん?」


突然、通信不能になった


SV「電波障害…?学園内に限ってそんな筈は—」


——近くで叫び声が聞こえた


SV「まさかF棟か⁉︎急ぐぞ!」


∬F棟∬

魔術ランクFの生徒達が衣食住を共にするエリア

新入生が大半を占める


学生「ぁ…ァ—」


突然侵入してきた女が放つ威圧に、複数の生徒達が動けずにいた


ネージュ「端末で調べたらね、五十嵐って名前の生徒が見当たらないの

もしかして——他の生徒と入れ替えたりしてない?」


女は教壇からFランクの生徒名簿を取り出した


ネージュ「でもね、ほら—ここにはちゃんと書いてるでしょ?

紙だから——捨て忘れちゃったのかな」


学生「ひぃッ⁉︎」


ネージュ「アナタ名前は?」


学生「…りょ良、太です…」


ネージュ「ねぇリョウタくん、目の前で意味も無く死んだ友人の為にも

きちんと答えなきゃ—ね?」


良太「い…五十嵐、さんは…もう—」


アンリ「答える必要はないわ」


ネージュ「あ⁉︎おい配下共ッ‼︎外野に喋らせんなッ‼︎」


——しかし反応がなかった


ネージュ「虫ケラッッ‼︎」


アンリ「貴女が虫ケラ呼ばわりする配下さんは—もう地獄へ逝ったわ」


ネージュ「…?」


周囲を見渡すと、周囲に配置していたはずの配下達の姿がなかった


ネージュ「…有り得ない、この私に気付かれず—」


アンリ「そこにいる良太くんと、夢中になっていたからでしょう?」


ネージュ「…お前」


アンリ「場所を変えないかしら?そしたら、望みの情報を教えてあげてもいい」


ネージュ「この私が応じると思っているのか?」


アンリ「もちろん——大切な人なんでしょう?」


暫しの睨み合いが続いたが、五十嵐という者が余程大切なのだろう

先にほこを収めたのは女の方だった


ネージュ「—いいだろう」


アンリ「隔離障壁に入ってないのは貴方達だけよ、急ぎなさい」


バタバタと慌てて生徒達が逃げていく


良太「…」


アンリ「大切な友達が亡くなって悲しいだろうけど、今は指示に従うように」


良太「…お願いです…アイツを…ッ」


——私はゆっくり頷いた



∬実践闘技場∬


アンリ(ここなら最小限の被害で済むか—)


ネージュ「五十嵐という者は、今どこで何をしている?」


アンリ「—貴女、粛正者ジェネラルね」


ネージュ「質問しているのは私、あまり気は長くないから—次で最後」


アンリ「そうね—副会長の知る限りだと、ジェネラルの五十嵐はくんは

今、地獄で閻魔様に罪でも吐いているんじゃない?」


——女が消失していた


虚を突いた絶対的死角から、迫り来る殺気を感じ取った


女の凶器らしきものが露出して、私の首を掠め取る直前——


ネージュ「なにッ⁉︎」


空間の裂け目から噴き出す、乱反射した無数の摩擦斬撃に阻まれる


——そして、副会長の手には細い刀が握られていた


ネージュ「世の縛りを感じない…それは—まさか沁神ノ戦器かッ」


アンリ「えぇそうよ、便利いいわこれ—その大鎌による闇討ち速度

私の反応じゃあ対処出来なかったし」


ネージュ「何処からともなく溢れ出る斬撃波——黒天裂く九神の抉クェルデフェルンか」


アンリ「よくご存知で—全く、有名すぎるのも困り者だわ」


副会長が一枚の紙を出す


アンリ「断罪執行証—聖煉生徒を本人の許可無しに、

裁くことができるんだけど…貴女、違うものね」


ネージュ「…学園レベルのお子ちゃま風情が、ジェネラルを裁く?

——笑えないよ、虫ケラ」


女の体が見えなくなった刹那、尋常ではない殺気が襲い来る


アンリ「無駄—」


無数の斬撃波が侵入者を切り刻む——しかし、女は避けようともせず突き進む


ネージュ「—獲った」


——鮮血が飛び散った


アンリ「……っ」


首筋を押さえ、出血を止める—どうやら頸動脈切断は避けれたらしい


ネージュ「それが放つ斬撃波の重みを、さっき私が

身をもって体感したでしょう?——だから今、

その重みを上回る力で押し込んでみたら、突破できちゃった」


アンリ「…確かにその理論は正しいわ…けど、正気の沙汰じゃない」


斬撃波の数は一つじゃない、押し込んでる最中にも

他の斬撃波で肉体は切り刻まれる——

現に女の体は、全身が致命傷だらけであり

私とは比較にならない程に、大量出血していたのだった


アンリ(——この女は、自身の体がこんなにも悲惨になろうと

何一つ後悔はしていないという顔をしている

…これも全て、五十嵐という人物を見つける為の覚悟だというの…?)


そこまでして——見つけなくてはならない存在——


ネージュ「私、何で遺体を“灰”にしてたかわかる?」


すると、女が急に変なことを言い始めた


ネージュ「私って、血を見ると—手がつけられなくなるの

だから全ての血を灰に変換して、力を抑制してた…だけど…もう」


女の眼の色が赤く染まり、髪の毛が異様に伸び始める

——そして、口から牙らしき鋭利な歯が突出した


アンリ「ドラ…キュラ…?」


女の着ていた服が突然—蜃気楼のごとく消滅し、体を覆う繭が形成される


ネージュ「—ウフフ」


そして女を包んでいた繭が破裂すると、火花で炎が生み出され

繭を燃やす炎が波紋となって、闘技場の隅々まで行き渡った


【エンシェント-オブ-クイーン-ブラッディ】

“高貴なる吸血鬼一族・ブラッディを統べる女帝”

赤いドレスに身を包み、腰の丈まで伸びた妖美な金髪と妖艶な肉体は

見る者全てを虜にするほどの絶世の美しさである


かつて、世界の三分の一を超える領土を所有し支配していたが

150年前に行われた悪魔狩りによる大規模討伐で

一族の大半が壊滅、生き残った吸血鬼同士で最繁栄を志すも

突如一族を襲った交配病蔓延により、完全に絶滅した



アンリ「そんな……嘘—よね?」


ただ単純に、人外の怖いモノと遭遇してしまった時に生じる恐れ——

目の前にいる敵は紛れもなく化け物——だけども、

美しいのも事実——男はともかく、女である私ですら吸い込まれそうな美貌——最早ここまで来ると、呪われそうな領域に達していると言える


ネージュ「“——這いつくばれ”」


アンリ「がはっッ⁉︎」


自分の意思とは関係なく、気がつくと地に叩きつけられており

頭部がめり込んだ状態で無様に這いつくばっていた


ネージュ「下等な人間風情が、分をわきまえろ」

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