第二十七話〜レイジの死〜

レツィア「わたしが…今行使した魔術は…の移動系列で最速のもの…

これより速く移動できる魔術は無い…でもあんたは…

確かに…わたしより速く移動し…致命的な攻撃を与えた……

ゼロ時間を上回れる速度は…存在しない……マイナス時間を除いて」


シャロン「—」


女が少し反応した気がした


レツィア「時間を遡ることで…わたし、が…魔術を行使する前へと…移動した

…過去に逆行する禁忌の魔術——と言ったところかしら?」


シャロン「——これイヴ・ファクタルの特性を知った者は、お前が最初」


ここにきて初めて女が口を開いた


ケレス「ほほぅ、シャロンに喋らすとはな!流石は聖煉の


シャロン「——総長」


ケレス「そういえばシャロンも総長

果たしてどんな思いを巡らせているのか…おっと、シャロンにはもう

感情が無いのだったな」


レツィア「…総長はわたしが初めてだと…思っていたけど…

どうやら…思い上がりだったみたいね…貴女が……

レイジに認められた…最初の首席総長…

なんだが…今考えると……全て

わたしの勘違いなんじゃないかって思えてくる」


あれ——わたしなに言っているんだろう

…ダメ…これ以上口に出したら——


レツィア「わたしが…ここまで急速に…上まで上り詰めれたのって

…レイジが、貴女シャロンとしてわたしを…

傍に置いておきたかっただけなのかなぁって……」


ケレス「生徒会長は、シャロンの事を本気で愛していたぞ

でなければ、先程の黒の滅却を自ら受け入れるはずなかろう」


——コイツの言うことなんて全て嘘で、本当にどうでもいい—はずなのに


レツィア「——レイジが、わたしへ向けていたものの全ては——

シャロン、あなたへのものだった——それが…」


大粒の涙が、止め処なく溢れ出してくる


ずっと今まで裏切られていた気持ちと、目の前で起きている絶望が

入り混じり、もう自身を御することは叶わない


レツィア「——それが真実」



§アビスラグルヘルズ§

——無意識の内に、重力世界を創造した


シャロン「深遠ノ帰途——無詠唱の次元結界」


魔術の中でも、最上位に位置付けられる大魔術を

発現させる事自体奇跡に近いが、それが詠唱無しでとなると

世界中探しても数人いれば奇跡である—

それほど、彼女が今見せた荒技は常識を逸脱しているのだ


レツィア「ハァ…ハァ…ハァ…んぐっ、はぁっ…」


それ故に、行使者にかかる負担は常軌を逸したものとなる


髪の色は更に、今までより紅へと染まり上がる

短期間に大魔術の行使を三回——

それは即ち、自殺行為そのものと言えた


ケレス「まさかゲーテ共々、我々全てを異世界へ巻き込むとはな—

国王への武力行使は、死罪よりも重いぞ——女」



レイジはもう二度と戦えないだろう

魔術の覚醒核を宿した者が、黒の滅却を受けて生き延びることはできない

レイジがいなければ、わたしが目指す未来には辿り着けない

よって彼を失った今、もう回り道をする必要は無くなった


——風紀委員会と合併も

——Aランク育成も

——独立機関設置すらも


レツィア「どうでもいい……ほんと…どうでもいい」


—メレディクスレイム—

無限過重力を解き放った


ゲーテ達「ッッッ⁉︎」


——全ての王室騎士達が、瞬間的に圧死していく


ケレス「ぬッ⁉︎」


無限に重複する重力が、この世界に存在する全てを消滅させていく



——それが理のはずだった


シャロン「—」


だが女は、無事だった


剣らしきものを地に突き刺し、無尽蔵に増幅し重なり合う重力世界を

難なく耐え切っていた


レイジの大魔術:幻楼ノ紅界とは異なり、深遠ノ帰途には魔術無効能力はない—

しかし、この大魔術を耐え切る防御手段など存在する筈がない


レツィア「どう…して…」


不意に——地に刺している剣に目が入った


どこかで見たことがあるような——神々しさを放つ剣

そう—まるで、神が創ったモノであるかのように


レツィア「ま…さか—」


女の陰に潜んでいた国王が、ニヤリと口を歪ます


ケレス「察しのとおり、これは沁神ノ戦器の呪いを応用した離れ技」


レツィア「常世の—呪い—」


ケレス「そうだ、よって破壊する事は不可能——そしてシャロンは

その効果を、そのまま防御に転じさせるすべを見出したのだ」


シャロン「——穿て」


剣より放たれた一直線状の光が、重力波を貫通し

世界の果てにある壁もろとも貫いた



§存在しえぬ桃源郷アグリスフェイサー§

ユートピアの異名を冠する白銀の神剣で、沁神ノ戦器の一つ

ありとあらゆる防御手段を構築し、絶対不可侵の領域を創り出して

選定者を護り抜く自律能力を有する

攻撃面にも応用可能であり、その領域を剣撃に付与する事で

防御不能の斬撃と化す



壁に空いた一つの穴から連鎖的に亀裂が広がり、重力世界全体が一瞬で消失した


ケレス「力量の差は明白となった、貴様など名ばかりの総長に他ならん」


レツィア「…わたし、は—」


ケレス「唯一の不確定因子だった会長が壊れた今、阻む者は最早いない

——世界は、真意味で我のモノとなったのだッ!」


レツィア「……」


——みんな、本当にごめん


色々やるべきことがあったと思う


——でも、もう思考すら回らなくなった


直に、自我が崩壊する


大魔術の代償を支払う時がきたから——


でも——最後に、最期に——


わたしの悪あがきを——


許して欲しいなんて言わない——


これは、過ちを選択したわたし自身へのけじめ


——命と引き換えに、わたしが会得している中で—最強にして究極の魔術


レツィア「解き放て——“天翔る終焉の灯火ヴァネスベルエンド



§ヴァネスベルエンド§

ランクZX++【系列Unknown】

使用者を拒絶の灯で纏い、存在するあらゆる理から遮断させる至高魔術

大魔術:幻楼ノ紅界の世界内部でも、行使可能な特性を持つ

拒絶の灯とは、使用者の命(心臓)を燃やして体現される奇蹟であり

その灯の消える時が、使用者の命が尽きる時となる


ユズリハ-レツィアが、先天的に覚醒核へ宿してたものであり

今まで誰にも知られることなく、自身の心に秘めていた魔術

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