第二十六話〜死線断絶〜
同行した三名のRSは、俺が一声掛ければ瞬時にして障害を排除にかかるだろう
——だがそれは、彼女の…レツィアの選んだ信念に、きっと反することに繋がる
俺のやり方では、真の意味で国は変えられないだろう
だから俺は—彼女と共に目指す未来を信じると—そう決めたんだ
国王が近づき、俺にしか聞こえないような距離で—耳元へ囁いた
ケレス「元総長の居場所を知りたくはないか?」
レイジ「——な、に?」
レツィア「レイジ…?」
顔色の変化を瞬時に読みとったのか、俺を呼ぶ彼女の声が不安げに感じた
——元総長——その言葉だけで—
封印したはずの想いが、いとも容易く溢れ出す
空席だった総長の席—否、ずっと空席だった訳ではない
——正確には、空席となってしまった
ケレス「今も——元総長は生きているぞ」
レイジ「ッッ⁉︎」
レツィア「会長!なにを話しているの⁉︎」
王の言霊が未だに効いており、身体だけ動かない
レイジ「信じ…られるか…そんな話—」
ケレス「ならもし証拠を見せると言ったら——此方の要求に従うかね?」
レイジ「…それは—」
国王が一歩下り、腕を挙げて指を鳴らした瞬間——
応接間の奥の通路から、足音らしきものが聞こえてきた
ケレス「ゲーテ諸君!彼女が参られるッ!相応の覚悟を心得よッ!」
レツィア「一体…なんなの?」
レイジ「——まさかそんな…そん、な…」
反射的に生存本能が働き、脳が肉体へ逃げろと警告を送ってくる
あのルークやナイトウォーカーの比ではない
言うなれば——悪魔そのもの
強さという枠組みから外れた何かが、こちらに向かっているのを感じる
——それがもし、本当に——俺の知る元総長だとするならば——
足音の主が、ここ応接間へと続いていた通路から—その姿を現した
レイジ「——シャロン」
RS「…総…長…」
レツィア「—ぇ」
彼女の周囲には、肉眼でさえ目視可能な領域まで達した
漆黒の怨念が渦巻いていた
シャロン「——」
髪は白色、白銀でもなく——深く濃い白の色—
瞳は青く—服は漆黒を織り交ぜ、黒を基調としたゴシックドレス
スカートには、対人殺戮暗殺兵器が無数に織り込まれている
レイジ「シャロン…」
レツィア「…今…総長って—それって…」
会長を含むRS全員が、まるで幽霊を見たかのような
信じられないといった表情を浮かべている
ケレス「見よ、これが正真正銘の証拠だ」
レイジ「…どうして—」
ケレス「生きている——か、確かに無理もない
お前たち生徒会は、目の前で彼女の死を見てきただろうからな」
——突然、彼女に一番近い距離にいる王室騎士が倒れた
レツィア「一体なに…?」
驚くのも無理はない、騎士が倒れた時
その前後とも魔術の気配が無かったのだ——つまり、
本当の意味での不可解な突然死
RS「…殺気です」
レツィア「…ぇ?」
殺気って—人を殺そうとする気配であって、実際に殺せるはずは——
RS「——魔術名:ドゥームフォルテ(死線断絶)
殺気で人の命を奪う魔術にして、禁忌の魔術——」
レツィア「禁忌…?」
レイジ「やめろ—」
RS「会長…総長として、彼女には知る権利があるはずです」
レツィア「知っているのね…?答えて—」
レイジ「——」
RS「……シャロンさんは先天的に、あの魔術を覚醒核に秘めていました—
しかし、それに気付いたのは…悲劇が起きてからだった
——国外のAランク魔術学生500人余りを殺気で殺し、魔術暴走を引き起こした
そして……会長が…シャロンさんを焼却した」
レツィア「——え…?」
レイジ「俺が…お前を…殺、した…」
ケレス「そうだ、故に貴様は償わなければならない
最重要危険対象として—
黒い結晶のような物体が頭上から降りてきた
RS「…今の会長は、正常な判断ができない状態下にある—
よって我々の判断でこの場を処理——」
レツィア「待って—あれって…まさかッ‼︎」
レイジ「——赦してくれ」
俺を手を伸ばし——贖罪——
——その瞬間、俺から全ての魔術が吸い上げられ
吸収された全魔力が、無差別な致死ダメージとして返還された
レツィア「レイジーッッッ!!!いやぁぁぁーッ!!!」
——彼の体中から血が噴き出し、その場へ力無く倒れた
ケレス「—障害となる存在が—やっと消えおったわ」
ロザリナ「パパ…?どうしちゃったの…?」
ケレス「もはや—我々の前に立ち塞がる障害は居なく——」
王室騎士「国王ッッ‼︎」
ケレス「…?」
瞬きした刹那——
目と鼻の先に、魔術で出来た刀で此方に斬りかかる女が見えた
§
ランク特S´+【瞬間移動系列】
一歩で百メートル圏内をゼロ時間で移動する
空間移動ではなく、歩幅移動であり
ここまでの速度域になると、因果律崩壊の一歩手前である
——殺意は、より強力な殺気に塗り潰される
§
ランクUnknown【瞬間移動系列】
“負”の時間に割り込む事ができる歩幅移動で、時間を往復逆行する
因果律は既に崩壊しており、行使中は時間の枠から解き放たれる
レツィア「—…ァ」
首筋から、生温かい何かが流れ出ているのを感じた
握っていた何重にも強化したはずの魔術刀は、粉々に砕け散り
自身の鮮血で、上着は真っ赤に染まっていた
レツィア「ぅ…ぐッ」
倒れていく体を辛うじて踏ん張り、膝を床に着いて耐え抜いた
シャロン「—」
顔を上げると、国王は目の前に居らず
わたしが瞬間移動の魔術を発動する前の位置に戻っていた
レツィア(…ち、がう…わたしがうごいて、ないだけ…?)
シャロンという女の方を見ると
先程彼女が、この応接間に入ってきた時と同じ位置に立っていた
——女は遠距離攻撃を行なっていない
否、動いた形跡すらそもそも皆無——
だめだ…なにか…しゃべらないと…意識が…
感じとったことを…口に…ださないと…もう…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます