第二十一話〜過去の傷〜

∬オベリスク最下層∬


入った瞬間—異変の出所が、あのガラスに覆われている部屋だと察した


レイジ(…見た所、破られた形跡はない—)


クロサキ「ここが…生徒会の最深部…」


レツィア「——会計はいる?」


レイジ「…気配は—しないな」


彼は携帯を取り出し、電話をかける


レイジ📱「—ハミル」


直ぐに会計は電話に出た


📲「大丈夫です会長、ついさっき停電がありまして」


電話越しの声とは別に、すぐ付近で生の声が聞こえた—

三人は刹那的に、その声のする方向を向いた


——ガラスの部屋だった


レツィア「…どういう…こと?」


会計の携帯が、あそこの中にある—それはつまり——


蠢く者「———」


目を見開いた何かが、こちらを凝視していた


クロサキ「ッ⁉︎」


風紀委員長が怯えている—あまりの異質さに—


レイジ「サクヤ恐るなッ‼︎心の弱さは、悪霊系の格好の憑依先となる!」


蠢く者の手には携帯が握られており、こちらを見ながらブツブツと話している


レツィア「なんで…会計の携帯が中に…それに、あの怪物は——」


レイジ「アレ自体からハミルの気配はしない—だが…」


レツィア「それじゃあ…会計はどこに…?」


彼は蠢く者を見据えたまま動かない


クロサキ「携帯が中にあると言う事は、ハミルさんは一度扉を開けて…

中に入ってから、再び扉を自分で閉めた事になる…」


レツィア「操られていたってことなの…?」


レイジ「——オシリスを使う」


レツィア「だめレイジ…ついこの間、行使したばかりじゃない!

降臨系の大魔術は主の負担が大きい…

記憶を取り戻したばかりのあなたの体力じゃ…きっと耐えられないッ」


レイジ「…だが…今目の前にいる奴は、もう叡幻種を超えて—

神想の域まで到達しているのが感じ取れる——即ち、

S ++の魔術以上で無ければ……奴は止められない」


レツィア「わたしがやる—お願いレイジ…」


レイジ「命令だ、お前達は俺の援護に回れ—頼む」


クロサキ「…了解、私は貴方に従う」


レツィア「…—はい」



——空気が一変する


レイジ「“神灯霊脈アルカデスクルス”」


§アルカデスクルス§

ランクS ++【降臨系列最高位】

現世に滅焔の神アルカノヴァを降臨させ、

自らの血脈と神の霊脈を繋ぎ合わせ憑依させる禁呪

文字通り“神”を取り憑かせる為、人格破壊の危機が常に付き纏う



クロサキ「凄い——でも…なんて美しいんだ——」


彼の周囲には至美の陽炎の如く、膨大な炎の魔流が渦巻く—


レツィア(神想憑依は時間との勝負—いくらレイジでも数分が限界のはず

もし倒し切れなかったその時は—わたしが…)


彼が片腕を胸の高さまで上げ、潰すように拳を握る動作をとった刹那—


“ギイィィィィ‼︎”


苦痛に歪む悲鳴と共に、ガラス張りの部屋が溶岩流で圧し潰された

——極致内は250万度に達し、周囲のSクラス対魔壁が融解し始める


レイジ(オシリスを直接降臨させなければ…これが限界か——いけるか?)


“ギィィィ……ギヒィ…グヒヒヒ…ギヒヒ”


——悲鳴は次第に、歓喜へと変化していく


レイジ「焼却し切れていない…?」


クロサキ「違うッ‼︎あれを見てッ‼︎」


蠢く者の背後に——彼がいた


レイジ「—ハミル、これは一体どう言う事だ」


ハミル「愚問ですね、兄さん—これが、全てですよ」


どうやら俺が使う魔術を中和しているらしい


レイジ「—ほぅ」


——会計をじっと見据える


レツィア「会計ハミル‼︎これは会長への反逆行為だ‼︎

返答次第では処刑も免れないッ‼︎」


ハミル「僕を処刑?——寝言は眠ってから言いなよ」


先程から会計を見据えていた会長が口を開く


レイジ「—心に憑け込まれたか」


レツィア「え?」


クロサキ「操られているって事?」


レイジ「正式には違う、奴の意志だ——

深層心理に眠る負と影の部分に入り込まれたんだ」


クロサキ「…じゃあ会長が私に、“恐れるな”と言ってくれなかったら私も…」


ハミル「僕にも兄さんの大切なモノ、奪わせてよ——あの時、

兄さんが僕から奪ったようにさ」


レイジ「やはりあの事だったか—あれは、お前の心の弱さが招いた結果だ」


レツィア「レイジ…?」


ハミル「違ウ…チガウ…」


レイジ「お前なら乗り越えられると思っていたんだがな——残念だ」


ハミル「……コロセ、ナイトウォーカーッッ‼︎」


神想種に昇華した黄泉の亡者は、標的を俺に定め襲いかかってきた


レイジ「“守封炎霊陣ディシィルフィールド”」


§ディシィルフィールド§

ランクS +【結界系列】

術主の全方位に、目視不可の防御壁を展開し

S +魔術、叡幻種レベルの侵食干渉を遮断することが可能


レツィア「レイジッ!」


ハミル「よそ見なんてしてて良いのかな?」


クロサキ「レツィアッ‼︎」


巨大な斧が彼女の目の前で停止していた


ハミル「さすがは風紀委員長、魔術で創った即席の剣で

この一撃を止めるなんて天晴れだねぇ〜」


クロサキ「—残念、隙だらけよ」


羅刹繚乱イザナミスイレン

目視不可空間に停止させていた数多のナイフを、一斉に解き放った


クロサキ(この距離—この速度なら躱せないッ、取ったッ!)



§時空臨界ノ戒現律ネメシスゲート§

ランク特S´+【完全支配系列】

発現地点から半径5メートルの空間内時間、運動エネルギーを含む

全てのありとあらゆる事象を強制停止させる

その代償として1秒経過毎に、術主の心臓に直接加重力がのし掛かる



クロサキ「——?」


体から耐え難い激痛を感じ、自身の胸部を見てみると

手に握っていた筈の、刀身が長いナイフが深々と突き刺さっていた


レツィア「サクヤ…?」


ハミル「ランクAの君が——ランクSである僕に、

本気で勝てると思っていたのかな?」


クロサキ「ゴボッ…」


咳と同時に肺から沸き上がってきた血液が、勢いよく口から噴き出した


レツィア「サクヤッ‼︎」


彼女へ駆け寄り、胸の中へ力無く倒れてきたサクヤを抱きとめた


クロサキ「——」


レツィア「ねぇ…返事してよ…サクヤ……サクヤ」


ハミル「死んでるよ」


彼女の瞳孔はもう—完全に開ききっていた


レツィア「サクヤ……ねぇ——サクヤァァッッッ‼︎」


“—アビスラグルヘルズ—”


ハミル「…?」


瞬きした時には既に、次元結界の重力支配世界が創り出されていた


レツィア「——サクヤ」


ハミル(無詠唱の大魔術発現なんて有り得ない……

それも瞬きを凌駕する結界構築速度でなんて——けれどこれは紛れもなく…」


レツィア「—」


——不気味に見開いた彼女の目が、僕を捉えた刹那


“ノヴァド・グラディドゥス”

—異次元過重力—【1億G】

深遠ノ帰途が生み出す、最大重力の約半分を出力する理の域に外れた力

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る