第十六話〜執行部解体〜

《警告、警告、当施設にて異次元の残滓反応検知

レベル6の殺菌ミストを開始します》


通路の天井から白い霧状の水が放出される


クロサキ「ハァ…ハァ…」


《分析完了、人体への侵食確率0%を検知

警告、除去失敗の為、レベル7へ移行します

完全排除に使われる薬剤には、人体への有害な物質が含まれる為

速やかに除去対象外エリアへ移動してください—開始まで5分》


クロサキ「副会長、立てるか?……ユズリハ?」


近づき様子を伺う


だが、私の予測していた状態よりも最悪だった

右胸から腰の付け根まで、かなり深く抉られていた

——間違いなくあの剣がつけた傷だがこれは…

剣の斬撃に、次元の亀裂も相まって深傷となっている

——死が避けられない程の多量の出血量…

事態は一刻を争う程に、深刻なものだった


クロサキ「ユズリハ⁉︎」


上着を脱ぎ、傷口を固く縛ろうとしたが

範囲が広すぎて到底止血出来そうもなかった


クロサキ「…嘘、でしょ…」


この地下牢獄には簡易的な治療室しかない

更に今ここは、どんな魔術でも無力化するシェルターで覆われており、

侵入者の捕縛と殺菌処理が完了しない限り、絶対に地上へは出られない


クロサキ「——嫌よ私…こんな最期…お願い…」


ルークの残骸から黒い何かが沸き上がり、這い出て来ようとしていた

泥のようなそれは、恐らく男から流れた血液であり、

それはまるで——生き物の如く形を帯び始める


クロサキ「……最低」


今止血をの手を緩めれば、確実に彼女は死ぬ


私は——彼女を……


“ドオオオォォォオオオン‼︎‼︎”


背後にあった厚さ2mのシェルターが粉々に粉砕された


——私は目を疑う


何故なら“絶対”に起こらない事象が今、目の前で起きたからだ


ハミル「探しましたよ、——副会長を最優先で保護せよ」


RS「御意」



生徒会長親衛将校リベリオン・シークレットフォース】通称:RS

生徒会長・会計・書記のみが動かす事ができる直属のエリート集団

ランクAのSVの中から、更に選び抜かれた全50名からなる特A保持者

公の場に姿を現したのは、悲惨を極めた魔術戦争以来である



クロサキ「ハミルさん…」


ハミル「風紀委員長サクヤさん、礼を言わせて下さい

副会長を助けて頂き、誠にありがとうございます」


クロサキ「私は…—彼女を守れなかった」


彼はゆっくり首を横に振る


ハミル「これで貴女には、大きな借りが出来ましたね」


クロサキ「…黒の滅却の件で…貸し借りは無しです」


ハミル「も至急病院へお願いします」


RS「御意」


——将校が私を抱きかかえる


クロサキ「痛…ッ、いや私は別に—」


ハミル「貴女の傷を完治させてから、貸し借りを無しとします

—それとお前たち、レディを扱うときは“優しく”—ですよ

わかりましたね?」


RS「申し訳ございません…」


病院へと運んで行った


《警告、シェルターにて致命的な欠落を確認

外部流出保護の為、殺菌システムを緊急停止します》


ハミル「—さてと、この招かれざる客をどうしたものか

——放置って訳にもいかないしね」



∬中央医学魔術病院∬

フィアノレイスの首都・聖煉に建てられた最先端の病院兼研究所

一般人から魔術師まで幅広く受け入れをおこなっている


——正面入り口より、白と赤の混じった服装をした数人の男が登場し

患者や医師たちが困惑する


RS「すまない、道をあけてくれ」


すると—階段から慌てた様子で誰かが降りてきた


主治医「連絡は聞いているッ!早く此方へ」


—緊急通路—


担架に寝かせ、移動しながら即座に魔力安定機材を取り付ける


主治医「聖煉学園からの緊急患者だ、非常に不安定—今すぐ行う

それともう一人も同時に行う、可能な限り此方に人を集めてくれ」


助手「了解です」


手術室前に近づく


主治医「あなた方はここまで、後は私共の仕事だ」


——ドアが閉じられた


RS「病院正面入口に2、待合室1、手術室に繋がる全ルートに各1配置、急げ」


親衛将校たちがそれぞれ散らばり、各々の持ち場につく


事実上、この病院は最固の要塞と化した



聖煉学園

—生徒会執行部—


K「…奴め、遊びすぎだ」


レイジ「それはお互い様だろ—K」


K「こ、これはこれは…生徒会長殿(気配が全く——)」


レイジ「——今、俺が生徒会長だと知ってる者は、

RS以外に学園内で六人しかいない」


K「……」


レイジ「理事長、副会長、風紀委員長、書記、会計—そして五十嵐

だがこの中に、正規の生徒じゃない仲間外れがいる」


K「何を仰りたいのか—よく分かりませんな」


レイジ「五十嵐、だがこれは偽名であり正しくは

ナイト・ブラッディ・ルーク、レヴァノイズ隠密の粛正者ジェネラル

RSからの報告で、お前と親密な関係にある事が立証された」


証拠の書類や写真の束が宙にばら撒かれた


K「な…ッ⁉︎」


レイジ「——残念だが、俺とRSだけで

レヴァノイズの上層部を含む遊撃隠密諸共、全て焼却できる」


——Kが片膝をついた


レイジ「俺の部下を甘く見すぎたな、K」


背後の扉からRS達が入室する


K「……あり得ない」


レイジ「今この時を以て、生徒会執行部を解体する

Kを拘束、殺人共謀重罪でレベル3の監禁室へ」


K「…何かの間違いだ…頼む会長—私を…」


レイジ「勘違いするな—今すぐ始末しないのは、

名目上とはいえ、副会長の部下だからだ」


K「どうか……私を—」


レイジ「連れて行け」


——地下牢獄へ強制連行された


事が終わるのを待っていたかのように、会計が姿を表す


ハミル「生徒会長兄さん、至急見せたいモノがある」



—生徒会本部—

∬オベリスク最下層∬


特殊強化ガラスで密閉された中心部に、異形の物体が蠢いていた


レイジ「——ナイトウォーカー、実際見るのは初めてだが」


ハミル「これら全て、五十嵐の血液から出てきたモノ」


レイジ「——冥府契約を結んでいたのか」


【冥府契約】

生物が肉体限界を迎えた後、魂が行き着く場所・冥府

禁止された魔術を用いて、冥府に溜まる魂を強制的に現世へ連れて来ること


ハミル「そしてこれが、見せたいモノだよ」


端末を操作し、モニターにデータを映し出す


レイジ「…これは」


ハミル「今さっき解ったんだけど、15分ほど前に

残滓濃度の数値が急降下して、解析不能の文字列が出現したんだ—これがそう」


“※※※※※”


レイジ「象形文字かなんかか…?“リサ”を起動させろ」

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