ふしぎなメガネ
KMT
第1話「自信のない少女」
KMT『ふしぎなメガネ』
今日も私の声は彼に届きません。彼の人気は、私の想像を遥かに超えていました。私の一途な思いなんか、
「キャ~!
「
「イケメンだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
全学年の女子生徒の黄色い声が響きます。そして、その声援の先にたたずむのは、陸上部のエースの
「みんな、応援ありがとう」
彼はこの高校で一番の人気者です。運動神経抜群で成績優秀、更にイケメン。カッコいい要素の全てが詰め込まれた完璧超人です。彼の朝練と放課後の部活では、彼のファンがたくさん押し寄せます。彼が一歩足を動かす度に、女子生徒は魅了されていくのです。
そして、私も魅了された一人……
「はぁぁぁ……幸太君カッコいい……///」
私、
後輩のくせに「幸太君」なんて同年代みたいに易々と呼んでいますが、本来はそれを恥ずべきなほど、彼は崇高な存在なのです。
私は彼のことが大好きです。好きで好きでどうにかなっちゃいそう。私という名のゴールに飛び込んできてほしいです。あぁ……好き好き好き💕
「……」
しかし、私には話しかける勇気がありません。彼の優しげな瞳に見つめられるだけで、心臓を引っこ抜かれてしまいそうなくらいドキドキしてしまうのです。いつも彼が部活で練習してる時は、周りの女子生徒に負けじと大きな声援を上げています。それくらいの覇気は出せます。
しかし、彼と一対一で話すとなれば、話は別です。きっともじもじして、まともに話せなくなると思います。
いや、そもそもそんなシチュエーションは、私の前では起こり得ないでしょう。私のような地味で気弱な端くれには夢のまた夢です。
「幸太君頑張って~!」
幸太君を応援する女子生徒達。その歓声に、私の応援はかき消されてしまいます。それにより、一層自信を失くしてしまうのです。彼はたくさんの女子生徒に人気です。私のことなんて気にも留めていないでしょう。
私はとぼとぼと教室に戻ります。
「……」
いつも通り、彼の放課後の部活を最後まで見届けた後、帰る準備にかかります。彼に一言も話しかけることもないまま。そもそもそんな余裕もありません。彼の周りには常に女子生徒が群がってますから。
「大丈夫よ、美雪は一途なのがいいところなんだから。優しい彼ならきっと届いてるわ!」
しかし、それでもなかなか自信がつきません。私の気持ちは本当に彼に届くのでしょうか。とても不安です。彼との間に圧倒的な距離を感じるからです。
そもそも、彼は私のことをどう思ってるのでしょうか。
「はぁ……」
優衣ちゃんと別れ、私は一人で帰り道を歩きます。しかし、私の口から溢れるのはため息ばかり。不安がダニのようにくっ付いて離れないのです。
それでも私は幸太君のことが好き。脳ミソの1㎣ずつまで幸太君のことで満たされてしまってます。
もう……私はどうすれば……
「そこのお嬢ちゃん、ちょいと見ていかないかい?」
突然声をかけられました。私の目の前にいるのは、魔女のような黒いドレスに身を包んだ、40代くらいでしょうか……女の人です。彼女は出店を開いていて、いろんな道具を売っていました。いかにも怪しいですね。
「あの……一体何ですか?」
「フフフ……私は魔女ぉ。お嬢ちゃん、私の道具を見ていきなよぉ。便利な道具がいっぱいあるよぉ」
彼女はそう言って、私に一つ一つ道具を見せてくれました。怪しいです。自分で魔女と名乗ってるのがとても怪しいです。語尾を伸ばす喋り方がすごく怪しいです。ですが、とりあえず見てみることにしました。
「はぁ……」
離れたところから物を掴むことができる「念力グローブ」、飲ませると本音を喋らせる「本音薬」、釘と金づちがセットの「呪いの藁人形」、某人気漫画で見たことあるような「黒いノート」など。
どれも眺めていて背筋が震えるような、不気味なグッズが揃っていました。
「どれもお嬢ちゃんの悩みを助けてくれるかもしれないよぉ。何か悩んでることはないかい?」
彼女は不敵な笑みを浮かべてます。しかし、なぜか私は彼女の差し伸べた救いの手を取りたくなりました。今の私の悩み、それは『どうにか幸太君の気持ちを知りたい』ということです。
「あれ?」
ふと私の視界に入ったのは、縁が青色の普通のメガネでした。他のアイテムはどれも不気味なのに、このメガネだけ不気味さが劣るというか、それが異様なくらいに普通に見えたのです。彼女は説明してくれました。
「それは『好感度可視化グラス』。それをかけることで、目の前の相手が自分にどれくらい好意を抱いているかが、数値で見えるようになるのよぉ」
好感度……つまり相手が自分に恋心を抱いているかどうかもわかるということですね。私は驚きました。今の私にドンピシャのアイテムが見つかったようです。
「おやおや、どうやらお嬢ちゃん……意中の人がいるようだねぇ」
彼女にはお見通しのようです。私は興味本位でメガネをかけました。
「……」
彼女の頭上に39と表示されていました。え……39? 友好的な態度の割に意外と低いようです。
「100段階評価で数値化されるのよぉ。100が最高で、0が一番下ってわけぇ」
「すごい……」
目がキラキラ輝いているのが、自分でも感じられました。これがあれば、幸太君が自分のことをどう思っているかが、文字通り一目瞭然です。
「そうだ、初めての利用なんだ。特別に三日だけ無料でお試し利用期間をあげましょうかねぇ」
「ありがとう、魔女さん!」
私は走って帰ります。夕日は私を祝福してくれてるみたいに輝きますが、正直早く沈んでほしいと思いました。
「三日経ったらまたここにおいで~」
「は~い!」
このメガネで、私は自分を変えてみせます。
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