過去のこと。
「あの子にはずっと辛い思いをさせてきちゃったからなぁ……」
姫を産んだ時、澪さんはまだ十六歳だった。相手は同じ高校の先輩。多くの生徒から
当時地味っ子で空気だった澪さんは一念発起もとい一か八かで告白して、見事ハートを射止めた……と思ったが違った。プリンスにとって澪さんは大勢いる内の女子の一人、適当に使って捨てる予定の遊び相手程度にしか思っていなかった。そんな何股もかける野郎とはつゆ知らず、強引な性交渉を受け入れてしまった結果妊娠発覚。それを学校側が黙認するはずもなく、二人揃って退学するハメに。
追い打ちに、『折角入学させたのに不純異性交遊で妊娠するなんて』という理由から親に勘当され、身重な体で社会に放り出されることになった。
それでも大好きな人とその子供で家庭が築けるならと気丈に振る舞うのだが、とどめの一撃に夫のプリンスが
高校中退で頼れる人脈もないのでまともな働き口にありつけず、経歴不問で比較的高収入な売春で生計を立てる日々。しかしそんななけなしの金をDVプリンスは巻き上げ、自分の
暴力と貧困に
だが、姫が小学校に入学する直前に事件は起きた。
DVプリンスは遂に姫さえも
自分が好きでもない男に抱かれている間、娘が
それからもずっと
貧困とDV、
性産業。それを目の当たりにしたことによる性への理解、その
それらが今の姫――その人格を形成していったのだ。
「でも迷惑なんてぜーんぜん思わないのに……姫ったら」
壮絶な人生を送ってきただろう澪さんは、それでも娘のことを第一に思っていた。
ずっと怖かったはずだ。
それでも我が子を
オレと六つ程度しか歳が違わないというのに。
「み、澪さんは……ど、どうしますか?」
「決まっているでしょ、うちの姫をいじめるヤツらは絶対に許さないから」
そんな澪さんだからこそ、その言葉は頼もしかった。
これであとは姫だけだ。
もう我慢する必要なんてない。
いじめに耐え続けなくていいんだ。
「……で、伝えたいのって本当にそれだけ?」
「え?」
「だってわざわざ大金払って私を買ったのに、これだけのことで良かったの?」
わざわざ……って。
仕方ないじゃないか。いつ家にいるか分からないし姫に見つかる訳にもいかないから手紙の類いも入れられないし。それに本当は情報収集程度のつもりだったのに、成り行きでここまで来てしまったという面もあるんだから。姫のことを伝えるだけではなく、澪さんがどんな人物なのかこうして話せただけで大きな収穫なんだ。
これ以上、オレから言いたいことは特にない。
「まだ時間もあるしぃ、良かったら一発しておく?」
「ふぁいっ!?」
いやそれ、全然良くありませんが!?
職業柄その発想に至るだろうけど、そんなつもりで来たんじゃないから。あとシェイカー振るみたいな手の動きはやめてほしい。それにしか見えない。
「も~う、
「は、はぁ……」
一応ここラブホテルなんですけど。全世界の男の内ほぼ全員が冗談とは思わない状況ですからね、コレ。
「それにしてもその初々しい反応……灰原さんって童貞?」
「どっ、どどっ!?」
「あ、やっぱり?まー見た目からしてそうだもんねー。よくうちの子に手を出さず我慢したね、偉い偉い」
「や、やめてくださいよっ!?」
「きゃーっ☆照れてて可愛いーっ♪」
ああ、やっぱり姫の親だわこの人。
初対面だというのにオレのことを童貞ネタでいじくり回してくるんだもの。さすがに
「よし、合格っ。姫の彼氏君として認めましょうっ!」
「何この流れ!?」
あと滅茶苦茶なこと言うところ、ホントそっくり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます