傷だらけの理由。
オレは胸ぐらから手を離し、姫を解放する。
姫は
だが、その両手はいつ
……せめて、彼女の警戒を解かないと。
本当のオレは暴力なんて振るえない。むしろ逆の振るわれる立場にいる、恐れる必要のない人間だということを彼女に伝えないと。
そうしないと、もうまともに話し合うことなんて出来ない。
じゃあそのために一番分かりやすい方法は何だ?
刑事ドラマみたいに『話せば分かる』って説得するのか?
そんなのオレには絶対無理だ。口先だけでどうにかなるなら長年コミュ障なんてやっていない。友人や恋人だってとっくに出来ているはずだ。
なら、どうすればいい?
話すことが下手くそなオレはどうすればいい?
言葉より伝わるものはなんだ?
ああ、そうだ。
オレのことが怖くないと分かる、一番の証拠を。
でもそれはしたくない……でも、それしか思いつかない。
彼女の知らない、オレのことを伝えるしかないんだ。
「……な、なぁ。こ、これ見てみろよ」
オレは
「え、え……?」
脱衣したオレを見て、姫は疑問の声を
出来ればこれから先の人生、誰にも見せたくなかったズタズタになった体。
オレは、その秘密にしていた肉体を彼女の眼前で
「こ、この傷……どっどうして、出来たと思う?」
胸に伸びている、白く浮き出た一本線。色白な肌でも一際目立つ、不自然な一文字。
オレはそれを緊張で震える指でさし、姫に問いかける。
「けん、か……?」
か細い声だったが、彼女は答えてくれた。先程よりかは怖がっていなさそうだった。
「はは。そ、そんなんじゃないよ。こ、これは……き、
斬られた。
……どうして?
「オ、オレはさ……い、いじめられてて……ナ、ナイフでスパッと……」
これは名誉の傷でもなんでもない。
無抵抗なまま、面白半分でつけられた無意味な傷。
一生消えることがないだろう、刻み込まれた負け組の
そう、オレは万年負け組のいじめられるためだけの人間。散々同年代から
それが分かれば、彼女もきっと怖がらなくなるだろう。その代わりに一生
「こ、こっちの丸いのは……タ、タバコでジュッと……」
火を押し付けられた跡。
お腹を灰皿代わりにされた時についた。
「この……ぽこってところは……ち、
肉を
やられた直後に、傷口からどばっと血が
「そ、それから……こっこれは、カンナで
皮が
……これは、何でやられたんだっけ?
「……ね?オ、オレって、ここ、こんなヤツなんだよ?い、いい……いじめられてばっかりの、く……くそザコ弱虫。……だ、だからこっ、怖くないよ?は、ははは……ね?」
ああ、全然ダメだ。
何をやっているんだ、オレは。どうしてこんなアホらしいことをしているんだ。
必死に危害を加えないアピールをしてみたけど、言っている自分でも何がしたいのか意味不明だ。
冷静に考えてみたら、いじめられていたせいで傷だらけだからってそれがどうしたって話だ。そんなの姫には関係ないし、むしろ何しでかすか分からないいわゆる『無敵の人』感バリバリで怖いだけだ。失うものがなくなった人間ほど、
これだからオレは無能なんだ。必死に頑張るほどに空回りばかりで、全部悪い方に転がっていく。
それに、傷のことを話したせいで思い出しちゃったじゃないか。あの頃の
情けない。
ちびっ子の前でボロ泣きしているなんて、本当にどうしようもないバカみたいだ。
「…………バッカじゃないの」
ほらやっぱり。
姫もオレのことを笑っているじゃないか。
おかしいよな、こんなダメ男。
でも――
「もういいから……は、早く服着なさいよ」
――その笑いは
ちょっぴり小憎たらしいけれど……泣いていたことを
ああ、いつもの姫だ。
オレを手玉に取ろうとする、でもたまに失敗する。そんなドジな小悪魔の笑顔に戻っていた。
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