人生カースト最下層な陰キャに、ウザ絡み系ロリはキツイのです。

黒糖はるる

第一章:邂逅

出会いは公園。


 この世は不公平だと思う。

 最初から勝ち組と負け組が決まっている。

 生まれ持った周回遅れの差はどうやっても埋め合わせ出来ない。

 どんなに死に物狂いで巻き返そうとしたって、先頭を走る悪意の権化からの妨害で邪魔じゃまされる。努力をすれば必ず報われるなんて、そんなのは恵まれた人間の戯れ言だ。裏を返せば負け組がした努力は無意味で無価値だったということになる。

 だから周囲からの声援なんてない。あるのは罵声と嘲笑。無駄むだに頑張る姿はただの見世物だ。

 結局のところ、負け組がどうなろうと誰も気に留めない。

 欠点を持って生まれた人間が悪い。不良品な自分自身を呪え。

 せめて勝ち組の足を引っ張らず、慎ましやかに生きろ。

 それが世の常。どんなに綺麗事を並べても、事実はそこにあり続ける。

 欠けているお前が悪いのだ、と。


 オレ――灰原良太はいばらりょうたの場合は性格。

 元々人付き合いが苦手で、それが原因で散々いじめられてきた。

 陰気、邪魔者、気持ち悪い。色々言われてきたけど、大抵の理由は自身の性格面に帰結する。

 頑張ってみんなに好かれようとしたけれど、やることなすこと何もかもが空回り。努力すればするほど失敗ばかりする。そしてその失敗が呼び水で、いじめが次々に襲いかかってきた。

 幼稚園、小学校、中学校、高校……いじめられる度に余計他人が怖くなり、どんどんドツボにはまっていく。オレの周囲にいる人間はみんな敵なんじゃないか、いつかきばいてくるんじゃないか。疑心暗鬼になって人と話せなくなっていく。

 そして今現在、大学デビューにも失敗して、灰色の学生生活に突入中。

 恋人どころか友人もいない。ただただ講義を受けるだけの、家と大学の往復生活。

 それなら学問くらいは他のヤツらより出来るはず……と言いたいところだが、現実はそう甘くない。上には上がいる。それも、オレよりも多くのものを持つ勝ち組なヤツだ。

 友人が多く、カノジョ持ち。ついでのようにスポーツも万能。当然のように性格も良くて、みんなの人気者。欠けているところなんて一切ない完璧超人。

 分かりやすく言うと、オレの完全上位互換。それもスペック差に何十倍もの開きがある超優秀個体。オレの存在意義を虫けらのように踏み潰す、圧倒的強者だ。

 人生大失敗。二十歳はたちを迎える前に、早くも惰性だせいで生きる毎日だ。日々死にたくなる。

 こんな負け組がここから挽回するには、もう一発逆転で何かを当てるしかない。どんなに確率が低くても、それしか自分を救済出来そうにない。

 でも、もう頑張れる気がしない。努力をしても無駄。結果なんて出ない。やるだけ辛い目に遭う。だったら何もせず流れに身を任せ、ゆっくり命が尽きるのを待つ方がいい。




「はぁ……。かわいい女の子と仲良くなれたら、きっと頑張れるのになぁ……」


 オレンジ色に染まる夕暮れの公園。古びたベンチに腰掛けて、一人つぶやいてしまう。

 大学の帰りになんて情けない姿をさらしているのだろう、と自嘲したくなる。

 ありえないことを空想しても、モチベーションなんて上がらないというのに。

 そんな都合良く、女の子が降って湧いてくるわけないというのに。

 ああ、余計惨めだ。泣きたい。


「おっにぃ~さ~ん♪ しょんぼりしてどうしたのぉ~?」


 ぬぅっと。

 誰かが急に顔をのぞき込んできた。

 ふんわりとしたボブカットで、ちょっぴり褐色かっしょくな日焼け肌。それはまだあどけない幼い少女の笑みで……。


「うわぁあっ――ぐぇっ!?」


 思わずのけぞったせいでバランスを崩し、ベンチから落下した。

 ごんっ、と後頭部を地面で強打してしまう。目の中に星が飛んだ。


「きゃははははははっ! な~に、お兄さん。だっさ~いっ」


 オレが痛みでのたうち回っているというのに、少女はケタケタ笑っている。

 腹を抱えて大笑いしやがって、一体何がそんなにおかしいんだよ。

 頭をさすりながら、オレは少女をにらみ付ける――が、効いている様子はなし。「別に怖くないぞ」と言いたげに、少女は平然とニヤついていた。


「な、なな何の用だよ……つーか、だっ誰だよ?」


 とりあえず質問をしてみよう。

 だが、いわゆるコミュ障なオレは年下相手にもおどおど。いや、むしろ年端もいかぬ少女だからこそおっかなびっくりだ。

 触れるどころか発言を間違えただけでも即アウト。少女のランドセルに付いた防犯ブザーを鳴らされるか、良くて不審者情報として街中に流されるだろう。どのみちそうなったらオレの人生、ガチの詰み確定だ。


「あたし? あたしのことは……そうね、ひめ様と呼んで」

「はぁ? 姫様って……」


 何なんだ、この子。

 自分を姫と呼べだなんて、一体何様だよ。オタサーの姫ってか?小学生ってことを考慮すると、ありがちなプリンセス願望の方が近いかもな。

 まぁどちらにせよ、初対面の相手に強制する内容じゃない。しつけの程度がいかがい知れる。

 よく見るとこの自称姫様は、肩を出した服(多分、キャミソールってヤツ)に股間部分ギリギリまで短いデニムという、なんとも露出度が高い格好をしている。季節はもう夏だが、小学生がこんなに肌をさらして良いのか。随分とおおらかで頭と股がゆるゆるな姫様なことですね。と毒づきたい。


「そんなことよりさぁ~、お兄さんは大人のくせに公園で何してたの~?」

「なっ、何って……それは……そ、その」


 大人が公園にいちゃいけないのかよ。あとオレはまだ学生だから。それに大人って分かっているなら言葉遣いに気を付けろ、この野郎。

 そう言い返してやりたいし脳内の口論シミュレーションはバッチリなのだが、実際には言えない。防犯ブザーの存在が怖いのは確かだが、何よりも女子相手にどう話して良いか皆目見当かいもくけんとうがつかないからだ。


「あ、分かった~。失恋でしょ? フラれたんでしょ? お兄さんイケてないかんじだもんね~。きゃはははっ」

「ちっ、ちち違うからっ……そん、なんじゃないからっ!」


 彼女の想定は大ハズレだ。

 オレはフラれた経験なんてない。何故なぜなら告白した経験自体がないからだ。正確に言うといじめられてばかりで心が荒み、他人を好きになれなくなったからだ。青春のワンシーンなんて、全くない。やばい。涙が出そう。


「え~? じゃあ会社クビになった?」

「まだ、がっ……学生だから、オレ!」

「あれ~? じゃあじゃあ――」


 彼女はなおも、オレについて詮索してくる。

 これ以上自分のことを聞かれるのは嫌だ。それに女子児童とずっと話をしていたら本当に不審者と思われてしまう。

 さっさと帰ろう。

 オレはずっと話しかけ続けてくる少女をそのままに、足早に帰路につこうとする。


「あ~っ! 待ってよお兄さ~んっ!」


 何が「待って」だよ。オレと初めて会ったくせにどうして執拗しつように絡んでくるんだ。迷惑だ。二度と話しかけるな。

 背後からの声は完全に無視して、オレは公園を後にした。




 この時、オレがもう少し慎重だったらきっと未来は変わっていただろう。

 次の日、オレは自分の軽率さに後悔するのだった。

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