憧れの。2
「朝だ! クマさんは……?」
目が覚めて早々、意識が木の反対側に向く。 昨日は疲れで気を失うように寝てしまったけれど、意識が高ぶっているのか目覚めはバッチリだ。
木の陰から家政婦のように覗き見る。 巨大きいからそもそもはみ出して見えてるけど。 クマは昨日と同じ体勢のまま寝ており、意識を取り戻した気配はない。
「今日は薬草探すついでに、果物か何か、クマさんが食べられそうなものも探してみよう」
肉食と勘違いしている人も多いかも知れないし、実際に人を襲う事件もいくつも起きている、人にとって危険な生き物であることに間違いはないけれど、クマの食事の七割くらいは果物などの草食性物が占めている。 列記とした雑食動物だ。
あまり遠く離れてしまうと戻るのが大変なので、先ずは近場をウロウロしてみた。 薬草を見つける度にクマの元へ帰り、昨日貼った分を剥がして新しいものに取り替えていく。
「あっ、へびいちご! ‥ポイ何か? どれどれ……ぅあ酸っぱ!!」
「おっ、ブドウみたいな…………しっぶぅう〜ぃぃ」
「はっ、マンゴー的な実を発見! でも木の上かぁ」
どうにかして採れないかな?
一、木に登ってみる => ✕ 掴まれないし、助走をつけても駆け上がれない。
ニ、思い切りジャンプしてみる => ✕ 普通に届かない。
三、木を揺らしてみる => ??
薬草を取りに出る度次々と試していき、頭を捻る。 中々上手くいかないものだから、破れかぶれに深く息を吸い込み、駆け寄ってドロップキックの要領で苛立ちと共に強力な後ろ蹴りをお見舞いした。
「落ちろー!」
それほど太さのない幹が少し軋んで、実がグラグラと揺れている。 ――これは、イケる!
二度、三度と蹴り続ければ、揺れも大きくなって……
「やっtえええええ〜っ!」
実が落ちて喜ぼうとしたらその実が下の枝葉に引っかかった。
「うぅくっそぅ〜! でもここまで落ちてくれば!! ってやぁーーっ!」
格闘の末、無事に木の実をゲットできた私は意気揚々と転がしながら歩く。 草むらに転がった実は自分と同じ位の大きさがあったので、持ち上げるどころか引き摺るのも難しかった。 でもちょっと齧ってみたら、とっても甘かった。 久々の甘味に、身体がアイスクリームみたいにとろけるかと思った。
「これ一つじゃクマさんのお腹には足りないだろうけど、無いより全然マシだもんね♪」
――さて、でも、どうやって食べさせよう?
「無理すると誤飲もこわいし……あっそうだ」
ベロンと舐められた昨日のことは忘れていない。
「ちょっと失礼して」
表面の一部をしゃくしゃく噛み砕けば、濃厚で瑞々しい果汁と良い香りが出てくる。
「んん〜、っと食べすぎちゃう。 これを鼻先に」
と言うか、口にぐりぐりと押し付けた。 すぐさまベロンと舌が伸びてきて、慌てて逃げる。 背の高い茂みに隠れて見守る前で、ゆっくりと食べるのを確認した。
「やったやった☆」
小躍りして、はっと自分の惨状に気が付く。
「ああ〜、毛が果汁と血で汚れちゃってる。 でももう水浴びはしたくないなぁ。 すでに風邪っぽいし、今日も早めに休もっと……」
ぐしぐし両手で拭い、その手を舐める。 すっかり毛繕いに夢中になっていた。 疲れや慣れがあって、気が緩んでいたとしか考えられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます