人たらし担当官、煉獄界に立つ
さだyeah
第1話 紅き悩める正義の燈火
「……ついこの前来たのに 久しぶりに来たように感じるな。」
アルドは、煉獄界に来ていた。オーガ族との長い激闘の末、見事勝利したアルドは、その時に武器やアイテムで力を貸してくれた四大精霊―サラマンダー・オンディーヌ・シルフ・ノーム―に、感謝と勝利の報告をするために、古代にある、この世から消えて間もないものが実体化できる場所、煉獄界へと来ていたのだった。
「さてと それじゃ まずはサラマンダーから行くか。」
そういって、アルドは、煉獄界の東側に位置するサラマンダーのいる火精霊の磐座へと向かった。
>>>
火精霊の磐座の最奥部にサラマンダーはいた。
「久方ぶりだな 人間…… いや アルドよ。」
「ああ。久しぶりだな サラマンダー。」
「して 我に何か用があるのか?」
「ああ。今日はお礼と報告に来たんだ。」
「ほう…… 我が何かしたか?」
「前にギルドナと一緒に来て 武器をもらっただろ? それで その後 無事に戦いに勝つことができたんだ。力を貸してくれてありがとう。」
「そうだったか。我が力が役に立ったのなら 何よりだ……。」
「……?」
「……。」
「なあ サラマンダー。」
「何だ 人の子よ。」
「なんか あったのか?」
「ほう…… なぜそう思うのだ?」
「いや なんとなく 心ここにあらずというか……」
「ふむ…… 別に何かあったわけではないのだが……」
「……?」
そう言いながら、サラマンダーはアルドに話し始めた。
「我ら 四大精霊は 巨大時震を食い止めるために 散ったであろう?」
「ああ。あの時は……」
「いや 我は責めているわけではない。むしろ あの状況では あれが一番正しい選択だったと思っている。」
「サラマンダー……。」
「だが あまりにも急なことだったであろう? それ故 現世でやろうとしていたことができなくなったことが 心残りでな……。」
アルドは、それを聞いて、いつもの通り答えた。
「もしそれがオレにもできることなら オレが代わりにやろうか?」
「そこまで騒ぎ立てるほどのことではないのだが……」
「いいんだ。サラマンダーには世話になったし。」
「……良いのか? と思ったが この問は お前には愚問であったな。」
「ハハハッ オレにとっては 日常茶飯事だからな。」
「感謝する 人の子よ。して その心残りのことだが……」
サラマンダーはアルドに、心残りなことを話し始めた。
「実は 現世にいたころ ナダラ火山のふもとの村の者が いつも 供物を捧げてくれていたのだ。その時は 何も思ってはいなかったのだが いざなくなると その供物の味が 恋しくなってな。」
「へぇ そんなに美味しいものなのか?」
「なぜか しばらくないと 欲してしまうのだ。」
「そうか。じゃあ それを持ってきたらいいんだな?」
「うむ。」
「それじゃ 行ってくるよ。火山のふもとの村だからラトルだな? まずは長老に聞いてみるか。」
こうして、アルドはサラマンダーの願いをかなえるため、ラトルへと向かった。
>>>
サラマンダーの供物を探すため、ラトルの長老の家に来たアルド。
「おや 旅のお方 どうされましたかの……?」
「ちょっと サラマンダーのお供え物について 聞きたくて……。」
「ほう。サラマンダーの供物というと 酒と魚じゃが……。」
「もし よければ それを譲ってもらえないか?」
「それは 構わんが なぜそれを……?」
「いや 実はサラマンダーが 久しぶりに食べたいらしくて。」
「サラマンダーが……? しかし サラマンダーは……」
「それが その……」
アルドが煉獄界の説明に困っていると、長老は言った。
「まあ どうやら嘘を言っている様子ではなさそうだし 隠すことでもないからの。」
「教えてくれるのか?」
「うむ。それじゃ 酒は用意するから 魚を獲ってきてもらえんかの?」
「ああ わかったよ。何を獲ってきたらいいんだ?」
「ヴァシュー山岳で獲れる ゴウカノマダイじゃ。」
「わかった。じゃあ 獲ってくるよ。」
アルドはゴウカノマダイを釣りに、ヴァシュー山岳へと向かった。
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アルドは、ヴァシュー山岳の中腹にある釣り堀にやって来た。
「ヴァシュー山岳で釣り堀って言ったらここだよな。それじゃ 早速釣るか!」
釣りをすることしばらく、アルドはようやくゴウカノマダイを釣り上げた。
「これが 長老の言っていた魚だな。」
「どうやら 無事に釣れたみたいじゃの。」
そういって、現れたのは長老だった。しかも、不思議な色の瓶を持っている。
「長老……! どうしてここに?」
「供物にはナダラ火山での 仕上げが必要じゃからの。」
「仕上げ……?」
「まあ とりあえず ナダラ火山に向かうとするかの。」
こうして、アルドは長老に続いて、ナダラ火山へ向かった。
>>>
アルドと長老は、ナダラ火山の最奥部、サラマンダーがいた場所までやって来た。
「さて ここでよいじゃろう。」
「それで 仕上げって何をするんだ?」
「それは わしに任せてくれ。さて 獲ってきた魚をくれるかの?」
「ああ。」
「うむ 上物じゃな。では 少し下がっておれ。」
「……?」
アルドが不思議そうにしながら、後ろへ退くと、長老は不思議な形をした火ばさみと瓶と同じ色をした台を取り出した。すると、長老は火ばさみでゴウカノマダイを掴むと、いきなり溶岩の中に入れた。
「ええっ!?」
アルドは思わず声を上げる。長老は少し漬けたあと、台にゴウカノマダイを乗せた。不思議なことに、ゴウカノマダイは黒焦げになるどころか、きれいな焼き目がついている。そして、今度は酒の入った瓶を掴むと、同様に溶岩の中に入れた。
「それもかっ!?」
アルドが声を上げるのも気にすることなく、長老は少し漬けてから、台に置いた。
「よし。終わったぞ。」
「な なんか想像と違ったな……。」
「供物は供える前に 一度清める必要があるんじゃ。サラマンダーの場合は ナダラ火山の一番奥の溶岩に漬けることが お清めなのじゃよ。そのために 瓶や台 火ばさみは 溶岩でも溶けない特殊な鉱物で作ったものを 魚は溶岩に漬けても焦げないように もともと溶岩に住んでいるゴウカノマダイを使うんじゃ。」
「そうだったのか。」
「そういえば サラマンダーが食べたがっていたと言っていたな?」
「ああ。」
「サラマンダーが食べたいというのなら また供物を捧げに来させることにしようかの。」
「きっと サラマンダーも喜ぶよ。」
「そうと決まれば また「スイセイ」を頼んでおかないといけないの。」
「「スイセイ」……!?」
「うむ。この酒は とても質が良いからの。お主も「スイセイ」を知っているとは なかなかの通じゃな……!」
(前にオンディーヌの前で逢った奴の酒って 精霊のお供えにされてるのか……。すごいな……。)
アルドは、以前オンディーヌの前で逢った青年のことを思い出し、感慨にふけっていた。
「しかし おぬしが釣れなかった時のために ゴウカノマダイを持ってきたのじゃが いらなかったようじゃの。」
「どうするんだ?」
「これも何かの縁じゃ。ここで食べるとするかの。」
「ここで!?」
「ああ。もちろん溶岩に漬けてじゃがな。」
アルドが止める前に長老は溶岩に漬けて取り出した。
「さて ほれ 食うてみい。」
「あ ああ。」
アルドは、溶岩に漬けたゴウカノマダイを一口食べた。
「……!」
「どうじゃ?」
「……あっつい! けど うまい!」
「そうじゃろ? これがクセになるのじゃよ!」
「これは 確かに サラマンダーも食べたくなるな!」
「さて 用も済んだし わしは帰るとするかの。」
「そうだな。じゃあオレも煉獄界に戻るよ。」
そういって、長老と別れたアルドは、魚を堪能した後、煉獄界に戻った。
>>>
サラマンダーの元に戻ったアルド。サラマンダーは、満足げにしていた。
「今戻ったよ。」
「礼を言うぞ アルド。また 食すことができてよかった。」
「また 供物を捧げてくれるみたいだぞ?」
「そうか。それはありがたい。ところでだ……」
「どうしたんだ?」
「実は 供物を待っている間に もう一つ思い出してな。」
「何を思いだしたんだ?」
「どうも 現世に 我が名を騙る者がおると聞いてな。」
「自分をサラマンダーだって言ってるってことか。その人を捕まえるのか?」
「いや その者をここに連れてきてほしいのだ。我が名を騙るほどの者が どんな人間か見定めたいのでな。」
「ああ わかったよ。それで 何か特徴はないか?」
「以前 聞いた話では 西の大陸から来た宣教師のようだ。」
「……ん?」
「その者は 熱情的に戦う様を 我が名を使って 形容しているようだ。」
「どっかで 聞いたような……?」
「それに どうも 説法で人を困らせているようでな。」
「それって もしかして……。」
アルドは頭の中に一人の熱血神官が浮かんでいた。
「これだけで 探すのは酷だとは思うが……」
「いや なんとなく誰か わかったよ……。」
「本当か。では すまないが 連れてきてほしい。」
「ああ わかったよ。たぶんデリスモ街道にいるだろうから。」
アルドは、その熱血神官を探しに、デリスモ街道へと向かった。
>>>
アルドはデリスモ街道南西部に来ていた。
「たぶん この辺に…… あっ いたいた。」
アルドは、目的の人物に声をかけた。
「おーい プライ!」
「おお! アルド殿か!」
「ここにいるんじゃないかと 思っていたよ。」
「それはそれは……。して このプライに何か御用ですかな?」
「ああ。実は プライに逢いたがっている人がいるんだ。」
「な なんと この私に……?」
「ああ。だから 逢ってくれないかな?」
「お安い御用ですとも!」
「じゃあ 案内するよ。ついてきてくれ。」
そうして、アルドはプライを引き連れて、煉獄界のサラマンダーの所まで戻った。
>>>
「着いたよ プライ。」
「アルド殿 逢いたがってる人ってもしや……」
「お前が 我が名を騙っているという者か 人の子よ。」
「サラマンダーのことだとは……!」
「して 人の子よ 我が名を騙っているというのは 本当か?」
「い いえ それは 私が言っているのではなく 周りの者が言ったことで……」
「では お前が 我の名を冠せられるようになったのは なぜなのだ?」
「どうやら私の戦う様や 説法をする時の熱の入りようから こういわれるようですが……」
「そうか。では 我にその熱のこもった様を見せてはくれぬか?」
「な なんと 恐れ多い……。」
「いや これは 我が お前のそのような様を見てみたいと思ったが故の願いだ。」
「そ そう言われると……」
プライはしばらく考えてから、言った。
「……承知しました! では このプライ サラマンダーの名にふさわしい様をお見せいたしますぞ!」
「では 見せてもらうとしよう。」
この後、プライはサラマンダーの眷属であるオタマンダーと戦い、サラマンダーに対して、説法を行った。
「……説法は以上です。……い いかがでしたかな?」
「人の子よ……」
(この雰囲気……! もしや 精霊の逆鱗に触れたのでは……!)
プライは少しおびえていると、サラマンダーは言った。
「その熱き思いを胸に 槌をふるう様。そして 相手を思うが故の 熱をこめて説く様。……見事だった。」
「……!」
「我が名を騙っていたのではなく 尊敬の念の 一つのかたちであったようだ。」
「何と もったいなきお言葉……。しかし……」
プライは、真面目な顔で言った。
「私は 今しがた その大いなる存在に 自身の愚かさを知りました。」
「プライ……。」
「今は小さな燈火にすぎませんが 研鑽を積み 必ずその御名に恥じぬ炎となることを 誓いましょうぞ!」
「よくぞ 言った。ますますの活躍に期待している 人の子よ。」
「こうしてはいられない……! 少しでも多くの研鑽を積まねば! それでは 失礼する!」
そう言うや否や、プライは疾風のごとく走り去っていった。
「さて 礼を言う アルド。」
「オレは ただ連れてきただけだから。」
「して アルド。」
「何だ?」
「最後に一つだけ 頼みをきいてもらえるか?」
「ああ もちろん。」
そして、サラマンダーはアルドに頼みごとについて話した。
「その昔 一人の旅人の女がいた。その者は 我々四大精霊にとても敬虔で 旅で近くに来た時は 必ず 供物と旅の話を手に 顔を見せてくれた。とりわけ 我には信奉心が強かった。我はそれに免じて その者がかけていた首飾りに 我の力を宿して 我は常にお前と共にあるという証としたのだ。」
サラマンダーは懐かしそうに話していた。
「随分と熱心な人だったんだな。」
「そうだ。しかし ある時 その者は「まだ見ぬ世界へ旅をする」とだけ言い残して去っていき 以後姿を見ることはなかった。」
「まだ見ぬ世界か……。いったいどういうことなんだ……?」
「それは 我にもわからぬ。しかし その者はその時 首飾りをしていなかった。」
「じゃあ 最後の頼みっていうのは……」
「その首飾りを探してほしいのだ。」
「それはいいけど どこにあるのかは分かるのか?」
「それなら とうに見当はついている。」
「そ そうなのか……?」
すると、サラマンダーは驚きの場所を口にした。
「この地の水の都の底だ。」
「底って まさか あの湖の底ってことか!?」
「左様。」
「待ってくれ! いくらなんでも オレは湖の底まで行けないぞ?」
「お前 まだ我の炎を持っているか。」
「ああ。ちゃんと持ってるよ。」
「ならば 問題ない。」
「……。」
「では すまないが行ってきては もらえないだろうか。」
「……ああ わかったよ。水の都ってことはアクトゥールだな。」
そういって、アルドはアクトゥールへと向かった。
>>>
アルドは、水の都アクトゥールの北部に来ていた。
「サラマンダーが言っていたところだと ここか。」
すると、どこからともなく、サラマンダーの声が聞こえた。
「ならば そこの水に入るのだ。」
「あ ああ。」
アルドは飛び込み、顔を水面から出した。
「これでどうするんだ?」
「では 我の炎を水の中へ入れてくれ。」
「そんなことして 消えないのか?」
「我が炎は 全てを呑み込む水流であろうと 焼き尽くすことができる。」
(じゃあ サラマンダーが行ってもよかったんじゃ……)
アルドはこころの中でそう思うと、サラマンダーが言った。
「他の精霊が司るところで 直接干渉することは できんのだ。」
「き 聞こえてたのか……。」
「さて 水の中に入れたか?」
「ああ。」
「うむ。ではいくぞ。」
すると、突然水の中に入れた炎が大きくなり、あたり一面の水を蒸発させた。
「うわっ!」
アルドは、どんどん湖底へと沈んでいく。そして、とうとう湖底に着いた。
「すごい……! 本当に湖底にいるな。」
「では 首飾りを探してもらいたい。おそらく 近くにあるはずだ。」
「わかった。探してみるよ。」
そうして、探すこと数分、アルドはそこまで難航することなく、首飾りを見つけた。
「これか……?」
「それだ。ではすぐに戻って……」
「待ってくれ! 敵がこっちに来てる!」
見ると、2体のマーシュシーラスがこちらに向かってきている。
「でも このままじゃ戦えないぞ!?」
「わかった。ではその炎を湖底に置いてくれ。」
「ああ。」
アルドは、すぐに湖底にサラマンダーの炎を置いた。
「よし。では 炎を大きくして 一体を陸地にする。その間に倒してくれ。」
「わかった。」
しばらくして、炎が大きくなると、マーシュシーラスは陸地になったところまで来た。
「よし! これなら戦える!」
アルドは剣を構えた。
>>>
アルドは戦って早々に、2体のマーシュシーラスを倒した。
「よし。もう大丈夫そうだ。」
「ご苦労だった。ではそろそろ戻るぞ。」
「ああ。」
こうして、アルドは来た時と同様にして戻ってきた。
「なんとか 手に入れられたな。」
「では それを持ち帰ってきてくれ。」
アルドはそのまま、煉獄界のサラマンダーの元まで行った。
>>>
「この首飾りでいいんだよな?」
「左様。礼を言う アルド。だが それは お前が持っていてくれぬか?」
「えっ?」
「その首飾りに力を宿したのは事実だが 我のものではないからな。それに……」
サラマンダーはアルドを見て言った。
「今のお前はその旅人の女によく似ている。それ故 お前に持っていてほしいのだ。」
「まあ オレでいいんだったら ありがたくもらっておくよ。」
「では お前の持つ我の炎を その首飾りに近づけてくれ。」
「こうか?」
すると、その炎は、首飾りの宝石の中に入っていった。すると、その宝石は決して消え入ることのない炎の如く紅く光り、魔力を帯びていた。
「ありがとう サラマンダー。」
「ここまで 我の願いを聞き届けてくれたのだ。礼には及ばぬ。」
「まだ 何か頼み事はないか?」
「うむ。問題ない。心のつかえがとれたような心持ちだ。」
「それならよかった。」
「アルド もしよければなのだが……」
アルドにサラマンダーは申し訳なさそうに言った。
「精霊たちは 常に人々の願いを聞いている身だ。だが きっと我のように 何か心残りに思っているような気がしてならぬ。だから 他の精霊たちが 頼むようなことがあれば それを叶えてやってはくれぬだろうか?」
「ああ。他の精霊たちにも報告に行きたいし その時に聞いてみるよ。」
「すまぬな アルド。そして 感謝する。」
「いいよいいよ。それじゃ オレは他の精霊のところへ行ってくるよ。」
そういって、アルドはその場を離れた。
「さて 次は オンディーヌの所にでも行くか。」
アルドは、そのまま、オンディーヌの元へと向かっていったのだった。
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