第25話 明日 -中原和総・朝倉みなと-

 ついに、デート前日の夜を迎えていた。

 みさき先生から金言を頂いたあと、ネズミーランドマイスターである愛花と二人三脚で完璧なデートプランを編み出していたのだ。

 すでに全ての準備は終えていた、万全の体制を整えて、俺は悠然と愛花の部屋を訪ねた。


「やあ、我が愚妹よ、一体何をしているのかな、勉強? そうか、フフ、無駄な努力を、明日でこの世界は終末の刻を迎えるというのに、今更役にも立たない勉強などしてどうするというのだ、ああ、どうした、その目は、まるでゴミクソウジ虫がついに発狂でもしたかと言わんばかりではないか、いいか、愚妹よ、俺は気づいたのだ、聞いて驚け、そう、まさに、俺こそがこの世界の創造主であり唯一無二の絶対神なのだ、そして俺は、明日世界を滅ぼすと決めたのだ、どうだ、驚いたか、明日は未来永劫訪れないのだ、さあ、恐怖しろ、震えて眠るがいい、フッ、フフフ、フハハハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、うわああああああああああああああああああああ、やだああああああああああああああああああ、怖いよおおおおおおおおおおおおお、緊張するううううううううううう、失敗したらどうしよおおおおおおおおおおお、でも朝倉さんは好きなんだああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「素直でよろしい」

「愛花ぁ、俺は、俺は、うわああああああああああああ、死ぬうううううううう!!!!!」

「まあ、落ち着きなよ、そもそもお兄ちゃんは――」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「お兄ちゃ」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「人の話を聞け!!」

「ムリムリムリ死んじゃうううう!!」

「大丈夫、お兄ちゃんは生きてるだけで恥ずかしいんだから」

「し、しかし」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんなんだから、お兄ちゃんらしくしていればいいの。今更、ぼっちで陰キャでヘタレのクソで阿呆でどクズなお兄ちゃん以外の何者にもなれないんだから」

「それは、そうかもしれない」

「はい、じゃあ、もう寝る! まあ、どうせ、今日も眠れないんだろうけど」


 納得したかしていないか危うい境界線上に立ったまま、俺はベッドに潜り込んだ。

 不安が先立ったとは言え、俺は明らかに浮ついていた。この先に希望が待っていると信じていた。

 しかし、俺は思い知ることになる。

 俺はやはり、クソ以下の阿呆であったのだ。






「お姉ちゃん、どうしよう!?」


 デート前日の夜、ついに緊張と焦りと不安と期待が限界突破した私は姉に通話していた。


「中原くんがデートのネズミーでデートな中原くんにネズミーだけど好きなの!!」

「あー、はいはい。まあ、とりあえずセ――」


 私は姉の声が聞こえてから一秒後には通話を打ち切っていた。


「お姉ちゃん、どうしよう!?」

「アンタ、ホント人の話聞かないよね」

「だって、お姉ちゃんが!!」

「まあ、せめて中原くんの話くらいは聞いてやんなさい。みなとみたいな意固地で強情で自意識過剰な見栄っ張りでも、ちゃんと相手してくれるんだから」

「……でも、私、どうしたらいいか」

「ちゃんと思ってることを言いな。つまらなかったらつまらない、飽きたんだったら飽きた、疲れたんだったら疲れた、帰りたかったら帰りたい」

「そんな!」

「嬉しかったら嬉しい、楽しかったら楽しい、面白かったら面白い。それでいいんだよ」

「……うん」

「ま、アタシとしては、温泉旅行に来てくれたほうが嬉しいけどね。あ、いっそのこと、中原くんも誘えば?」

「無理に決まってるでしょ!!」

「はいはい。じゃあ、もう寝な。って言っても、眠れないんだろうけどさ」


 一抹の不安を抱えたまま、私はベッドに潜り込んだ。

 それでも、私が夢想し憧れていた希望に満ちた未来が待っていると信じて疑わなかった。

 しかし、私は思い知ることになる。

 私はやはり、クソ以下の阿呆であったのだ。

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