第一章 ヤクモですが、なにか?

第34話 ヤクモ<神殿>:勇者召喚(1)

 アンファングサントル神殿――アルラシオン王国にある神殿都市のまさに中心と言える神殿だ。古来より、巡礼者はこの神殿から旅立つのが習わしとされている。


 神殿内では、神話に纏わる壁画や彫刻を至るところで見付けることができたが、豪華絢爛と言うよりはシンプルな造りで、壁や柱は質素なものが多かった。


 ただ、今居る部屋に関しては、赤い絨毯が敷き詰められており、壁には王家の紋章が描かれた旗が飾られている。

 ドーム状の屋根には勇者召喚の儀式に関する絵画が描かれていた。


 中央神殿の奥では、今まさに『勇者召喚』の儀式が執り行われている。

 外套で頭まで、すっぽりと覆った神子・シグルーンが祝詞を唱えていた。


 この中央神殿以外でも、東西南北四つの神殿で同様に神への祝詞が奏上されているのだろう。眩い光の魔法陣が幾つも現れ、次第に広がって行く。やがて、その光の魔法陣は神殿全域を覆う。


 やがて、シグルーンの祝詞が終わる頃――…


(漸く……この時が来た!)


 隠密状態で柱の陰に隠れ潜んでいた俺は、クラスメイトが召喚される際の光に乗じて、その場に飛び込んだ。


 最初の問題はどうやってサクラを見付けるかだったが、修学旅行の班=パーティーらしく、【ステータス】魔法が反応し、空中にメッセージ画面が表示された。


 簡単に名前を確認することが出たので――助かった――と思う反面、もう少し運命的な再会を期待していたのも確かだ。


 念のため、【隠蔽】の<魔法>【コンシールメント】を使用し、メッセージ画面を隠すことにした。

 これで俺以外の人間には、【ステータス】画面を見ることはできなくなった筈だ。


 俺は、光の中から現れたサクラを抱き締めると、<オベリパーク>で庇った時と同じ体勢を装い、赤絨毯の上に膝を突いた。


 サクラは未だ意識が朦朧とするのか、焦点が合っていない感じだった。

 身体を動かそうにも上手くいかないのか、力を入れては脱力を繰り返している。


 周囲の連中も同じような状態なのだろう。頭を押さえ、呻き声を出す者もいる。俺は素早く【ステータス】魔法で、パーティーの画面を操作し、自称<女神>から得た情報が間違っていないことを確認した。


―【プロフィール】――――

名前:犬丸 咲良  性別:女  年齢:17

レベル:1  分類:人間  属性:ー

メインクラス:メイジ(魔法使い)

スタイル:未選択

サブクラス:未定

ジョブ:魔王

ユニーククラス:イヌマル サクラ

タイトル:未選択

―――――――――――――

この地に降り立った<魔王>の一人。

―――――――――――――


 残念なことに情報は間違っていなかったようだ。

 俺は【偽装】の<魔法>【フェイク】と【自動書記】の<魔法>【オートマティスム】を使用し、サクラの【ステータス】を変更した。


 ――ジョブ:魔王

 → ジョブ:勇者


 ――この地に降り立った<魔王>の一人。

 → この地に降り立った<勇者>の一人。


 次に能力値だ。


―【能力値】―――――――

筋力:12     体力:12

器用: 9     敏捷:12

感知:12(+1) 知力: 7(+1)

精神: 8(+1) 魔力: ∞(+1)

魅力: 9(+1) 幸運: 9

―――――――――――――

最大HP:42

最大MP:40

最大AP:42

最大TP:39

―――――――――――――


 MPより、HPが高い<魔法使い>というのも微妙だが、今はそれよりも『魔力:∞』の方が厄介だ。最初の予定通り、サクラの魔法を封印するため、この時のために習得した【封印】の<魔法>【コマンドロック】を使用した。



 ――サクラの<魔法>の封印に失敗しました。



(ダメか……)


『手伝う――』


 <剣>の精霊・グリムイーターの声だ。



 ――<アビリティ>【封印剣】を習得しました。



(そういうことか――ありがとう)


 俺は、【シャドウボール】【クリエイト:剣】【コンシールメント】を使用する。

 影で作ったこの剣なら、サクラを傷つけずに【封印剣】を使える。

 更に【コマンドロック】を追加する。



 ――<魔法>に対し、【封印剣】が成功しました。


 ――サクラの<魔法>が封印されました。



(これで良し……)


 念のため、【フェイク】【オートマティスム】を使用し、しておく。これで魔法は使えないだろう。

 サクラには悪いが、これも彼女を守るためだ。


 次は【技能】を確認する。


―【技能】―――――――――

SKILL:

【インフィニティ:魔力】Lv.1

【オーラ】Lv.1

【コントラクト:精霊】Lv.2(残り:1柱)

【ディストラクション:魔力】Lv.1

【バーンナップ:魔力】Lv.1

EXTRA SKILL:

【インフィニット】Lv.1

【ルシファー】Lv.1

MAGIC:

【ウェポン:火】Lv.1

【エンジェルフォール】Lv.1

【クリエイト:火】Lv.1

【クリエイト:光】Lv.1

【ファイヤーボール】Lv.1

【ライトボール】Lv.1

EXTRA MAGIC:

【クリエイト:力】Lv.1

【コンクスト:領地】Lv.1

【ドミネイション】Lv.1

ABILITY:

【魔術:火】Lv.2

【魔術:光】Lv.2

【魔術:力】Lv.2

EXPERTISE:

【堕天】Lv.1

【破壊】Lv.1

【魔導】Lv.1

SKILL POINT:60

―――――――――――――


 やはり、<スキル>【インフィニティ:魔力】が強力過ぎる。

 <魔法>【クリエイト:火】でも、鉄くらいなら溶かせるのではないだろうか?

 今はレベル1だったから、俺でも対応できたが、成長されると厄介だ。


「あ、あのー……」


 とはサクラの声だ。どうやら、気が付いたようだ。


 (良かった……)


 俺は胸を撫で下ろすのと同時に、【ステータス】画面を閉じた。

 そこには、少し恥ずかしそうにしているサクラの姿がある。

 彼女は頬を赤く染め、視線を反らした。


(何か様子が奇怪しい……)


 もう一度、冷静に考えてみる。確か、パーティーとして登録をするか、特殊なスキルや魔法を使用しない限り、他人の【ステータス】画面を見ることはできない。


 俺とサクラは同じパーティーであるため、お互いに【ステータス】画面を閲覧することは可能だが、先程、【隠蔽】の<魔法>【コンシールメント】を使用した。


 つまり、サクラは今――【ステータス】画面を認識できていない――と解釈すべきだろう。


 俺はサクラを抱えたままの姿勢で【ステータス】画面を確認していたため、サクラからは俺が【ステータス】画面ではなく、彼女を見詰めているように見えた筈だ。


(策士策に溺れる――自分の能力を隠すための行動が裏目に出たか……)


「すまない」


 俺は謝ると、視線を反らした。


「い、いいえ……」


 サクラは俯いてモジモジする。不覚にも、恥ずかしそうにしている彼女を可愛いと思ってしまった。今回は辛うじて顔には出さなかったが、後で<スキル>【ポーカーフェイス】を取得しておこう。


(何だろう――折角の再会だったが、少し気不味い雰囲気になってしまった……)


 いや、サクラに取っては、先程までジオフロントに居たのだ。

 体感時間では――再会――と言える程の時間は経っていないだろう。

 取り敢えず、気不味い空気を打破するため、


「怪我はないか?」


 と尋ねると、


「は、はい! 大丈夫です☆」


 サクラは元気に答える。経験した俺だからわかるが、平気な訳がない。俺はサクラに肩を貸したまま立ち上がると、床にしっかりと足をつけるのを待つ。


 サクラが足に力を入れ、立てたことを確認すると、俺は肩を抱き寄せ、空いている手で彼女の手を取った。

 サクラはまだフラフラするようだったが、何とか立ち上がる。


「あ、ありがとうございます……(ドキドキ)」


 その後、俺の衣装が変わっていることに気が付いたのだろう。

 自分の衣装も確認する。衣服のあちこちを触ったり、その場でクルリと回転したり、臭いを嗅いだりしている。


(相変わらず、忙しない奴だな……)


 しかし、その様子にホッとして、自然と笑みが零れてしまった。


(やはり、必要だな――【ポーカーフェイス】)


「サクラ……戸惑うのはわかるが、皆の姿も見た方がいい。衣装もそうだが、髪や瞳の色も違っている筈だ」


 その言葉に従い、サクラは周囲を見渡す。

 魔法への適性が高い場合や【属性】を持っている場合、髪や瞳の色に影響が出る。

 俺は深く息を吸うと、


「皆も大丈夫か?」


 声を上げた。俺やサクラとは異なり、班の連中は、漸く立ち上がろうとしているところだった。


(やはり、サクラは特別頑丈なようだ……)


「だ、大丈夫だよ……」


 と最初に答えたのは鷲宮さんだ。


「気持ち悪いでござる……」「な、なんとか……大丈夫だ」

「ま、まだ――く、クラクラする……」


 答えは区々だが、班の連中も問題ないようだ。

 他の班も同様に、状況の確認をしているのだろう。

 周囲が騒がしくなる。


 ――とまぁ、ここまでは良くある『クラス転移』なのだろう。

 だが、見覚えのない連中の姿もあった。

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