100000000回ループした男

100000000回ループした男

　僕は、生まれつきループができる力がある。けど、残念ながらそれほど大切な人間とか巡り会わなかったので、特に神経を磨り潰すような出来事には出会っていない。

　逆に、そこまでして誰かの為に動くなんて、僕は共感できない。現に、僕は今カフェで優雅に足を組みながらコーヒーを飲んでいるところだ。

　そうだな、例えば僕の席に老人が1人いる。この人は、あと75時間後に死ぬ。自宅に帰ったら突然と息苦しくなり、救急車が呼べない程の重体だ。

　老人を助けたのは75326回。その内の……3割くらいかな？僕は電話で救急車を呼んで助けたが、結局は持病が悪化して、どんなルートを探しても老人を救うことはできなかった。

　じゃあ、老人が病気になる前に助ければ良い話じゃないか、という意見も出そうだが、それは3549回やった。どんな人間でも、いつかは違う病気で死ぬ。最悪なケースだと、僕のお節介のせいで老人の結末が事故死に合ったのが359回あった。

　なぜそこまでして、この老人を助けるのかって？

　「今日は、喫茶店に誘ってくれてありがとな。孫と一緒に若いもんが来る店に来るなんて、なんだかむず痒いなぁ」

　「気にしないで、じいちゃん」

　僕の祖父だからさ。家族を助けたい気持ちがあるのは、当然のことだろう？

　けどね、何回もループしていくうちにさ、どんな命でも僕以外は限りがあると悟った時に味わう絶望感は、もう半端じゃない。

　こうして互いに話しても、もう僕の中ではじいちゃんが赤の他人に見えているのだからね。救っても、意味がないとわかるから。

　ちなみに父親が足を骨折して回避するのに547536回とループしたけど、また別の日に両腕が動けない事故にあってしまうのを防ぐのに44356回と試したけど、結局は足の骨折の方が救いがあると結論付けてる。あと3年後と125日後の話だけどね。母親の場合も……まぁ、御察しの通り似たようなもんさ。

　そういえば、ここで爺ちゃんとコーヒーを飲むのも、9654回目だな。これまで違う種類……あぁ、もう全世界のコーヒーは飲み尽くしてるようなもんだから、水と同じ感覚にってるな。

　で、僕の話だ。なぜ、今回のループは喫茶店で、のんびりとしているかのいうと、目の保養というやつだ。どびっきりの美女が、あと85秒後に僕の隣の席に座るからさ。

　その美女と結婚すると思うだろ？実は違う。そのループは6548877回と試したけど、結局は長続きしないまま別れることになったのだ。はぁ……つまんない人生だ。

　なぁ、僕の話も聞いてくれないか？

　僕はループして、あらゆる職業や美女と結婚してきた。

　政治家になって日本の総理大臣にもなって、日本を世界一の大国にしたこともある。あれはもう、世界のリーダーだと舞い上がってたけど、これもまた国内でクーデターが起きて大変だった。大体は『昔の日本が輝いてた頃を戻せ』とかの文句ばかりだったけどね。

　そいつらを黙らせるために、独裁者にでもなったこともあった。勿論、ループしてるから反乱分子は全て殺したし、誰にも僕を邪魔することはできない絶対的な存在にもなったよ。あれは気持ち良かったよ、独裁万歳。

　……でも、僕が死んだ後、この国はどうなるんだろうねと、思った時にさ。僕が老体した時を狙って、カッコイイ民主主義の英雄が出てきて、僕を殺そうとしたんだ。あれは何度ループしても、同じ結果だった。まあまあ、楽しかったし以降は政治には関わらないようにループしたよ。政治なんて、マトモな人間がするもんじゃないね、本当に。

　最後に、結婚について話そう。

　はっきり言って、どれもうまくいってない。なにせ、ループできるんだよ？どんなに絶世の美女と付き合っても、その先のことが全て似たような結果になるから、結婚自体に意味がなくなってきたんだよ。

　『限りある一度の人生』、そんな言葉には僕は通用しない。1人と結婚すれば子供を産んで育てる感動は薄れていき、1000回以上と美女と結婚していったら、離婚率は格段に高くなった。飽きちゃうんだよ、もう嫌なんだよ……感情を無にして子育てするのが…

　とまぁ、世界を手に入れても、美女を手に入れても、ループしてる僕にとっては何も変わらないというわけ。

　もし、僕の話を本にして売れればベストセラーになるのが、間違いなしだがループの力を手に入れるのは、お勧めしないよ。

　なにせ、生き続ける無限の地獄を味わうことになるんだからね。

　目の前で消えていく命を救えない、国の為に働いても変わらない未来、授かる命は決して感動するものではない謂わば呪いなんだと。

　さてと、そろそろ美女が隣に座る時間だ。偶には、54669回ぶりに挨拶してみるか。

　……こいつは、たまげた。いつもと違う美女じゃないか！！ははっ！！こんなことなんて久しぶりだ！！

　あっ、補足していくと偶然に違うパターンもあるから、これもまた娯楽の一環なんだよね。

　さて、今日も100000000回目のループを記念して、楽しみますかね。

　「はじめまして、こんにちは」