8-12 かぐや殺戮物語!

 ザクッ




 かぐやの刀の切っ先はクロエの首横、数ミリのところに突き刺さった。

 かぐやは本当にクロエにトドメを刺そうとしていたが、意外な者がかぐやとクロエの戦いの邪魔に入った。


「なんじゃ。其方は?」


 180センチはあろうガタイの良い男がかぐやの目の前にいる。髪色をセンターで黒白に別けたミディアムヘアの男性。黒色のコーチジャケットに白色のTシャツ、ジーンズ。頭には牛のような角が生えている。


 かぐやもクロエも察していた。

 この男から放たれている邪悪な雰囲気から”悪魔”であると。

 男は、男らしくガサツな見た目とは裏腹に落ち着いた雰囲気で話し出す。


「俺の名はミノタウロス。そこで死にかかっているクロエ・ベアトリクスに用がある」


「ほう。やはり”悪魔”か。その悪魔がクロエに何の用じゃ?」


「先の大戦、俺はそこの女に殺されかけた。恨みを晴らしに、この世界まで追ってきたのだ。北の方角から物凄い力の衝突を感じたのでな、もしかしたらと思い追って来たらビンゴだったという訳だ。おい、女。クロエのトドメを俺に……。っ!!」


 かぐやはミノタウロスの話の途中で刀をミノタウロスに振る。ミノタウロスはガタイの良い見た目とは違い、素早くかぐやの一閃をかわす。そして、かぐやを睨みつける。


「おい、女! お前には関係のない事だろう!」


 かぐやの瞳の輝きが徐々に増していく。かぐやの放つ殺気がそれに応じて増していく。


「其方。悪魔のくせに、この雛霧 叶月夜の名を知らぬのか?」


「な?! お前があの、かぐやだと!?」


 かぐやは殺気むき出しのまま、ミノタウロスに近付き目にも止まらぬ速さで顎から刀の切っ先を刺し入れてミノタウロスの口を塞ぐ。


「おい。口の利き方がなっておらぬようじゃの」


 ミノタウロスは突然の事態と、かぐやのこの有無を言わさぬ冷酷さ、異次元の強さに驚きを隠せないでいる。




 自己治癒力が高いエルフの中でも、群を抜いて自己治癒力が高いクロエ。胸の切り傷は徐々に回復しつつあり、目線をかぐやとミノタウロスの方に向ける。


『や、やりましたわ。まさか、”悪魔”に助けられる日がくるとは。あれはミノタウロスにですわ。ミノタウロスと言えば、玉子たまごを石化させた者と同列の者。かぐやに殺される事は確実ですが、時間稼ぎくらいにはなりますわ』




 刀をミノタウロスの顎から抜くかぐや、その目には殺意しか宿っていない。ミノタウロスは絶対的な力の前で、まさかの”悪魔”ともあろう者がかぐやに懇願した。


「た、頼む。俺はどうしてもクロエを片付けたい。少しの間だけでいい。手を出さないでくれないか?」


 かぐやはをして頼むミノタウロスの手に刀を突き刺した。

 

 ミノタウロスは”堕天使”の次に強い”悪魔”。このくらいでは痛みこそはそこまで感じないものの、このままだと確実にかぐやに殺されると確信をしていた。


 かぐやは、刀を手に突き刺されたまま土下座をするミノタウロスを見下しながら言葉を発する。


「なぜに余が、其方たち悪魔の願いを聞かないといけないのかえ? 身の程を知れ」


 もう何を言ってもダメだと感じたミノタウロスは、かぐやに対して即座に戦闘態勢をとる。ミノタウロスの頭の角が徐々に大きくなっていく。その角でかぐやを串刺しにするつもりだ。


「ここまで”悪魔”をコケにされたら俺も黙ってはいられん! 刺し違えてでも、お前から片付けてやる!! 最終奥義、”ブル・コバルト”!!」


 角をかぐやの方に突き出し、超高速でかぐやに接近するミノタウロス。

 凄まじい轟音を立てて、かぐやのいる辺り一面が土埃にまみれる。




『この轟音。ミノタウロスの奴、かぐやに対して最終奥義にでましたわね。こうなれば、流石のかぐやも少しだけ手間取るでしょう。その間に私は……。え?』


 混乱に乗じて這って逃げようとしているクロエの目の前に何かが飛んでくる。

 


 ……ミノタウロスの頭だ。



 その頭を踏みつけるかのように、見覚えのあるこっぽり下駄がクロエの目に入る。


『ウソ。いくらかぐやが強いとはいえ、相手は”悪魔”。ですわ。間違いなくテコ入れですわー』


「さて、クロエよ。邪魔者はおらんなった。次はクロエの番じゃの」


 かぐやが刀を抜く音が聞こえる。クロエはもうこの場に”堕天使”でも現れない限り、かぐやを足止めする事は不可能だと考えうつぶせのまま死を覚悟した。




『みんな……これまで”騎士令嬢降臨!”を読んでくれてありがとうですの。次話から、”かぐや殺戮物語!”に題名変更ですわ』







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