第8話 異世界最強降臨!

8-1 忍び寄る魔の手

———屋敷正門付近




 黒塗りの高級車が屋敷の正門を抜け、屋敷付近に車を停める。

 中から上下黒色のスーツスタイルにサングラスをした1人の男性が姿を現し、屋敷の中へと歩みを進める。



「あのー? どちら様ですかー?」



 突如、庭の草陰から出てきた楓花ふうかがサングラスの男に話かける。

 サングラスの男は突如現れた楓花に驚きつつも、楓花の問いかけにすぐさま片膝をつき挨拶をしながら答える。


「お久しぶりです、楓花様。楓花様のお父様の要人警護をしております、参龍さぶろうでございます」


「ああ。そうですか」


「突然ですが楓花様。お父様の稜王吏いおり様が楓花様をお呼びです。我々の車で、稜王吏様のもとへと向かいましょう」


 参龍と同じ身なりをした男2人も車から降りて、楓花に頭を下げると楓花を車の中へと誘導しようとする。



 また草陰の方に戻り、3人組の男を警戒する素振りを見せる楓花。

 楓花の謎の行動に3人は少し顔を見合わせて困惑しているようだ。


「あの。お父様から聞いていないんですけど」


「申し訳ございません。急用ですので……。私共の車で楓花様をお連れするよう、稜王吏様に申し付けられております」


「うーん。でもこれまで、お父様が私に用事がある時は、お父様が必ずお家の方まで来てたけど」


「今回は特例……。稜王吏様が現在、会社を離れられない状況にございまして」


 

 これまで何でも言う事を聞く素直な子だと思っていた楓花が、かなり用心深い事に少し焦る参龍。他の2人も少し焦っているようだ。


「そうなんだ。で? 参龍さん、そちらの2人は?」


 楓花の問いかけに対して片膝をつき、焦って自己紹介をする2人の男。


「も、申し訳ございません。稜王吏の要人警護をしております肆龍しろうでございます」


「申し訳ございません。楓花様。同じく稜王吏の要人警護をしております伍龍ごろうでございます」


 3人のうろたえ方に、腹を抱えて笑い出す楓花。

 その様子を見て3人共、楓花はしばらく見ない間に人間が変わってしまったと感じた。


「ははっ。ごめんね。実は何となく知ってた。サングラスで顔の見分けがつかないから……兄弟の中の誰かなって」


 参龍が先陣をきって楓花に頭を下げて謝る。


「そうでございましたか。大変失礼致しました」


 楓花は依然として草陰から出ようとしない。

 3人から見れば、楓花は草陰から顔だけひょっこりと出した状態だ。


「ふ、楓花様、あまりお時間がございませんので……。お車の方に」


 楓花は参龍の言葉を無視するよう、草むらの背後にある木に登ろうとしている。


「見て見て。参龍さん。私、こんな事もできるようになったよ」


 楓花はそう言うと、4、5メートルはある木の枝に1回のジャンプで飛び乗った。


 その様子を見た参龍、肆龍、伍龍は瞬時に胸ポケットに手を入れる。

 参龍が胸ポケットに手を入れたまま、楓花に話かける。


「楓花様……。いや、楓花様ではないな? 何者だ?」


「え? 私、楓花だよ?」


 確かに容姿は完全に楓花だ。しかし、楓花にしては行動に疑問符が残る。

 参龍は再度、楓花に頭を下げ車に乗るよう楓花に促す。


「ふ、楓花様。稜王吏様がお呼びです。すぐに木の枝からお降り下さい」


「嫌だ。そのお父様が、知らない人に付いていってはいけないって言ってたもん」


「楓花様。ですから私共は稜王吏様の……」


 楓花の瞳の色がアメジストのようなに輝きを放ち出す。


「はぁ。もうええわ。このやり取りにも飽きたわ。おい、参龍。の紹介がまだやろ? エライもん連れとるんやな。の父親の護衛は」


 困惑する3人を余所に、楓花の周りにはが舞っている。


 やがて車の中から1人の男が姿を現す。

 

 紺色の髪色をした、短い前髪を上げウルフカットにした、どう見ても他の3人とは雰囲気がまったく違う若い男だ。恰好も他3人がスーツなのに対して、白のTシャツにカーキ色のカーゴパンツとラフな格好だ。


 その男は車から降りるなり、3人に対して叱責する。


「おい! どういう事だよ!? 楓花くらい、すぐにさらえるんじゃなかったのかよ!?」


 その男に深々と頭を下げる3人。

 楓花だけはその男を、木の枝の上から見下した態度をとっている。


「エキドナ……」


 楓花の一言に3人の男は困惑する。楓花にエキドナと呼ばれた男だけ、大袈裟に大声で笑う。


「はははっ!! 参龍!! コイツ、楓花って奴じゃねーぞ!!」


「ええ? エキドナさん? 私、楓花だよ? ぷぷっ」


「いや、違うね。どういう技か知らねえけど、お前は例の3将軍の内の1人だ」


 楓花はエキドナのその言葉を聞き、ニヤリと口角を上げながら下を向く。


 そして何か術を解いたように楓花の体から急に紅色と黄色のもみじの葉が出現し、美しく体を覆うように舞う。徐々に楓花の体つきが大きくなっていき、銀色の髪を覗かせる。その姿を見てエキドナはギリギリと歯ぎしりをしている。



「お前はソフィア・レオンハート……」


「なるほどなー。異世界の者には私らのこの技は通用せんと思っとったけど……。どうやら通用せんのはみたいやな。この三下さんしたがぁ」


「あん? 俺が上級魔族だってことを知らねえのか?」


「悪いが眼中にないな。にすらなれんかった雑魚にはな。用があるんは、お前んとこのやったんやけどな……。こっちも忙しいねん。さっさと悪魔になれた長男、連れてこいや。このボケがぁ」


「てめぇ……。おい! コイツは厄介だ! 最初はなからで行くぞ!」



 エキドナの言葉に3人の体が徐々に変化していく。

 エキドナは勝ったと思い不敵な笑みを浮かべているが、ソフィアはエキドナを無視して3人に対して哀れみの目を向ける。




「あーあ。可哀想に。何があったか知らんけど、一生人間には戻れへんでぇ。一瞬で得られる力ってのは、それだけはかなく散るもんやって昔から決まっとるんや。ソフィア語録やけど……」







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