6-7 大喧嘩勃発

「……。外に出てきますわ」


「ちょい、待ちぃ……」


 ソフィアの制止の言葉を無視して出ていこうとするクロエの腕を、ソフィアは強く握った。外へ出ようと力を入れているようだが、力ではソフィアには敵わない。静かに俯くクロエ。


「待て、言うてんねん」


「なんですの?」


「あんたに本当の事、教えたるわ。私がここにおる


 ソフィアの言葉に反応するクロエ。青色の瞳でソフィアを睨みつける。


「ソフィア……。楓花が大事だから、ここにいるって言ってたよな?」


 クロエの耳元でソフィアが小さく囁く。


「そんなんに決まっとるやん。裏切り裏切られの世界の出身って、あんたもおったのに忘れたんか?」


「ソフィア……貴様!!」


 ソフィアは自分の口元に人差し指を置く。


「ここじゃ筒抜けや。付いてこいや」


 ソフィアに連れて来られたのは、かつてエマ、リュカと戦ったことのある道場だった。ソフィアは腰に差しているエクスカリバーを丁寧に道場の壁にかける。


「あんたも置きいや。こんな道場、私らが真剣でやりあったら一撃ともたんわ」


 クロエも背中に差していた、エクスカリバーminiを道場の壁側に丁寧に置く。その間、ソフィアは道場にあった木刀2本を取り出し1本をクロエの方に向けて投げる。


「で、ソフィア。本当の理由とは何ですの?」


「楓花の情報……」


「は?」


「実はなー、あんたが倒した栗栖くりす?だっけか。すぐにその情報は、上の方にバレてん。それでな、使いもんにならんくなった栗栖の代わりが私って訳。私なら楓花から学園の情報を聞き出すんは、簡単やからな……。ッ!!」


 クロエはソフィアが話している間に、瞬息で間合いを詰め木刀をソフィアに振り下ろした。ソフィアはそれを木刀でガードした。


「ほんま、相変わらず礼儀ないやっちゃなー。まだ私が話しとるがな」


 ソフィアはクロエを木刀ごと自慢の怪力で押し返した。

 続けざまにクロエに今度はソフィアが木刀を振り下ろした。


 ソフィアには力では敵わない。それも栗栖の時のようにガードをして何とかなる相手ではない。クロエは自慢の素早さで何とかソフィアの攻撃をかわした。


 躱すと同時にソフィアの顔面に向けて突きのモーションに入る。


第3の暗殺サードアサシン剣技、聖騎士突きセイント・トゥシュ!!」


 ソフィアの顔面は完全にノーガードのはずだったが、壁のようなものに攻撃は阻まれる。ソフィアの顔面には水の層が何層も重なって、花びらのようなモノが咲いている。


 クロエの連撃はすべて花びらのように咲く水の層に阻まれる。


「無駄やで。私の玖の舞きゅうのまい睡蓮すいれんの前にはな」


 腕相撲対決の時、クロエの声だけを聞こえなくするために使っていたソフィアの技、玖の舞きゅうのまい睡蓮すいれん。本来は水の層を即座に作り出し、相手の攻撃をガードする技だった。その水の層が幾重にも重なってできる形が、まるで花びらのようだったので睡蓮すいれんという名前が付いた。


第5の暗殺フィフスアサシン潜伏ステルス


 姿が消えるクロエ。それを見てソフィアはため息をつく。

 木刀で剣舞を披露するように体を何回転かさせる。


捌の舞はちのまい透明花さんかよう


 透明の花びらがソフィアの周りを舞っていく。花びら1枚1枚にクロエの姿が


「見えてるで、クロエよ」


「関係あるか! 剣技、潜伏切り裂きステルス・リッパー!」


 まるでソフィアの首を真横に裂くように、木刀を光速で横降りするクロエ。


「だからな……無駄やて」


 その攻撃もソフィアの技、睡蓮すいれんの花びらに阻まれた。


「言い忘れてたわ……。てか、あんた知っとるやろ? 睡蓮華すいれんげ



 !!



 突如、ソフィアの睡蓮すいれんの花びらが1枚1枚、鋭利な刃物になってクロエに襲い掛かる。何枚かクロエの体を貫いて、クロエの体からボタボタと血が流れる。ソフィアのアメジストのような輝きを放つ、紫色の瞳の輝きが増す。


「あんたこのままじゃ、に私には勝てんで?」


 もう一度、クロエは潜伏ステルスを使う。

 ソフィアはため息をつきながら、クロエの姿を自身の体を覆うように舞っている花びらで確認する。


「終わりや……」


 クロエの潜伏切り裂きステルス・リッパーよりも先に、ソフィアの睡蓮華すいれんげにより鋭利な刃物となった花びらがクロエの体を貫く。


第3の暗殺サードアサシン剣技奥義、連撃聖騎士突きアサルト・セイント・トゥシュ!!」


「はぁ?」


 貫いたはずのクロエの体は蜃気楼のようにぼやけており、背後の死角からクロエはソフィアに対して神速の突きの連撃を繰り出す。


「しゃあないな。裏睡蓮うらすいれん


 ソフィアの前側に無数に飛び散っていた睡蓮すいれんの花びらから突如棘が出現し、棘はソフィアの体の後ろ側に向けて神速に伸び、クロエの神速の突きの連撃を相殺していく。


「1日1回の技、影火オブルフまで使うてもうて、だいぶ追い込まれてんなクロエ」


 ソフィアはそう言い終えると、後方にいるクロエを回し蹴りで吹き飛ばした。


 道場の壁にもたれかかるクロエ。全身は数カ所睡蓮華すいれんげで貫かれており、血まみれの状態だ。ソフィアは木刀をクロエの肩の上に置くと、クロエに対して話し出した。


「私があまり技を出さんのは、単なる出し惜しみや。敵にあまり情報を与えんためにな。あんたが技を出し惜しみしとんのは、私の理由とは。あんたが実は心の底では自分の技、暗殺アサシンを嫌っとるからやろ? だから、そんなに人を傷つけない技を使っとるんや。でも、それならさっさと出さんと負けるで? よ!」


『ちっ。うるさいんですわ。本性やら豊穣の女神やら、何言っていますの? このバカは……』


 下を向いたまま動かないクロエに、ソフィアはため息交じりに話を続ける。


「まぁ、もうええわ。楓花の生活も今日で終わりや。私が上に報告するからな」


『楓花……楓花の生活が終わる……。私が意味のない意地を張っていたから。コイツにすべてを任せてしまったから……。これまで誰も信じてこなかった私が、楓花を大事に思いつつあるのが怖くなって……。それだけの理由で私が楓花を避けたから……。私が、私が楓花を……』



 ”私が楓花を守りますわ”



「本当にもう終わりかいな? つまら……ん?」



メゾフォルテ微強エネルジコ熱演撃



「あ、あかん! 玖の舞きゅうのまい奥義、睡蓮華すいれんげきょく


 クロエ、ソフィア、両者ほぼゼロ距離であった。


 壁にもたれかかっていたクロエが、急に右手の木刀でソフィアの目でも追えない速さの突きを繰り出してきた。


 速さよりも突きの威力を危惧したソフィアは、咄嗟に玖の舞きゅうのまいの奥義、睡蓮華すいれんげきょくを繰り出した。たったに、数万枚の鋭利な刃物のようになってクロエに襲い掛かる花びらが次々に打ち落されていく。


 何とかでクロエの恐ろしい威力の突きは止まり、ソフィアの体を捉えることは無かったが、ソフィアは少しと後悔した。


「やはり、あなたには”メゾフォルテやや強い”くらいではダメなようですね。次は強いのを試しましょうか」


 クロエの瞳は微かな明かりでも鮮やかに輝くペリドットのようなに輝き、その輝きは留まることを知らない。


「これ以上はやけど、私が悪いな……」


 ソフィアもソフィアで覚悟を決めて目を閉じ、一気に目を開く。

 アメジストのような紫色の瞳の輝きがクロエに負けじと増していく。



乱舞らんぶ桜流しさくらながし



 ソフィアはその場で剣舞を舞う。


 その舞いは美しく道場全体に桜色の花びらが舞う。

 やがて空中に巻き上げられた桜色の花びらが、滝のようになってクロエに向かって降り注ぐ。


 クロエは上を向き、その桜色の花びらに向けて剣を横向きに構える。


「これはのようにはいきませんね」



ピアニッシシモトランクィッロ静穏



 おびただしい数の桜色の花びらは滝のようになって、クロエに降り注いだ。


「はぁはぁ。木刀ならこれでも上々やろ……。本来の技の威力とは桁違いに弱いけどな……。別に殺し合いやないし……。……もう! 流石にウソやろ!」


 ソフィアの背後に人の気配、のクロエがソフィアの肩に木刀を置く。


「さぁ、どうしますか? まだ続けますか? 私は木刀でもあなたを十分、殺せますよ?」


 ソフィアは呆れた様子で木刀を床に置き、力無く声を出す。


「もう、はよー。エマ、リュカ、、はよ助けてーな」


 道場の扉が開き3人の姿が現れる。


 ソフィアの一言でエマとリュカが楓花の手を離す。

 エマとリュカに楓花が、クロエのもとに泣きながら駆け寄ってくる。


「楓花……?」


 楓花が駆け寄る前に木刀を置こうとクロエがしゃがむ。



 パチンッ!



 乾いた音。音から弱々しさは伝わってきたが、クロエにとっては大打撃だった。


 そのビンタをした張本人が、あの楓花だったからだ。

 必死に溢れ出してくる涙を手で拭いながら、楓花がクロエを睨みつける。



「クロエちゃん! 私、本当に悲しかったんだから! どうして私を無視したの! 私の初めての……たったひとりの特別なお友達なのに……うっうっ。クロエちゃんのバカーッ!!」



 その言葉を最後に楓花はこれまでの悲しみを全てぶつけるように、クロエを抱きしめて大声で泣いた。







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