5-10 黒幕は誰だ
「がぁーっ!! クソ野郎が!!」
栗栖は拳の連撃を猛スピードで繰り出すが、すべて剣先だけで軽く弾かれる。
「いつまで続けるおつもりでしょうか? そろそろ
栗栖の目線がすべて、クロエの緑色の瞳の輝きに吸い寄せられる。
もう、絶対にコイツには勝てない……。
どんな攻撃も見透かされる……。
クロエの瞳は対戦相手にそう思わせる、すべてを見透かすような色をしていた。
……それでも俺は諦める訳にはいかない。
「おら!! くたばれやー!!」
先程、見た技。
両手の拳を合わせて、腕を1回転ひねりながらクロエに攻撃を仕掛ける。
「もうそれ見ましたよ?」
「うるせぇ!! また吹き飛べや!!」
「
「仕方ありませんね」
木刀を右手一本で縦に構えるクロエ。
栗栖の拳がクロエの体を捉える。
「
……。
栗栖の技はクロエの体を先程よりも確実に捉えたはずなのに、クロエの体はピクリともしない。その代わりにクロエが軽く出してきた木刀の剣先が、栗栖の眉間をコツンと小突く。
ッ!!
軽く剣先で小突かれたと栗栖は思ったが、物凄い力で後ろ向きに吹き飛ばされる。数十メートル後ろの壁まで吹き飛ばされ壁にもたれかかる栗栖、こちらも不屈の精神ですぐ次の攻撃に移ろうとした瞬間。
「まだ、やりますか?」
栗栖の顎にはクロエの木刀の剣先。いつクロエが自分の至近距離まで寄ってきたのかが分からない。物音ひとつ無かった。ただ、栗栖が気付いた時にはクロエの木刀の剣先が自分の顎をクイッと軽く押していた。
「このまま突けば、あなたはどうなるか分かりますね?」
クロエ自身からは殺意などは感じないが、剣先からは底知れぬ威圧感を感じる。
「ま、参りました……」
栗栖は両腕を高く上げ、クロエに降参した。
クロエは栗栖の様子を見ると、木刀を美しい所作で地面に置いた。
そして栗栖に対して相手に敬意を示すように、小さく一礼をした。
戦いの終わりを見計らい、リュカがクロエのもとに近付く。
「おい! クロエ、大丈夫か?」
クロエは右腕を大きく振りかぶり、近付いて来たリュカの頭をボコッと殴った。
「このポンコツ! 遅いんですわ!」
栗栖は壁にもたれながら自分の目を疑った。
いま自分の目の前で空色の髪色の少年を叱っている少女のすべてをだ。
先程まで戦っていた人物と、とても同一人物には見えなかったからだ。
クロエはリュカに一通り八つ当たりをし、栗栖の方を振り返ると左腕を押えながらズンズンと歩み寄ってきた。クロエの瞳には先程までの神秘的な雰囲気はなく、殺意のみが宿っていた。瞳の色も初めてクロエと出会った時のように、青色の瞳に戻っている。
「おー。痛い、痛いですわー。貴様、この落とし前はどうつけるんだ? ああ?」
口調も乱暴で全然違う。雰囲気が完全に街の怖い人だ。
「お、おい。クロエ、コイツには聞くことあるだろう。そのあとで……」
クロエはそれもそうかと栗栖を睨みながら頷く。
頷きはしたが、両手の指をボキボキと物凄い音で鳴らして栗栖を威圧している。
(あれ? 左腕の骨折は? そして、そのあと……何?)
先程とは、また違った恐怖で腰が抜けかける栗栖。
「おい。栗栖 王子だっけ?」
「いえ。桜に強いで桜強です……」
「ああ? 活字で見なきゃ分からんだろうが! 貴様は今日から王……玉子ですわ!」
「はい……。俺、栗栖
「ところで、楓花の学び舎の情報を外に流していたのはお前で間違いないな? 誰に流していた?」
栗栖……玉子は急に青ざめる。体をガタガタと震わせている。
余程、情報を流していた相手に怯えているのだろう。
その様子を見たクロエは腕を組んだまま、栗栖に話かける。
「大丈夫ですわ。玉子のこともなんとなくで守ってやりますわ」
「は、話したらなんとなくでじゃなくて、きちんと守って……」
ドゴンッ!!
クロエの左ストレートが栗栖の顔面、数ミリ横をかすめる。
「ひぃぃぃーっ!! 教えます!!」
(やっぱり左腕、完治してるーっ!!)
「……と、言いましても確かに俺は楓花様の密告者ですが、あくまでも連絡係。そこまで詳しくは……」
「
しまったといった顔をして、更に顔が青ざめる栗栖。
どうやら栗栖は自身の強さを過信していて、肝心の口の方は軽いようだ。
「貴様、百合園家の者か?」
「い、いえ……。百合園家の者では無いのですが、何と言いますか百合園家の末端の者でして……。俺の家、アームストロング家で幼い頃から神童とされていた俺が、たまたま百合園家の方に気に入られまして……。それで俺が百合園家に仕える代わりに、百合園家の末端にアームストロング家も入れてもらえる事に……」
「ふむ。神童として武の才能もあり、楓花と同い年の玉子が楓花の密告者をする代わりに玉子の家は百合園家の傘下に入ったと……」
「そ、そうです。もし俺がこの仕事をしくじれば、アームストロング家の者、全員が路頭に迷います。お願いです、お願いします! このことはどうか内密に……っ!」
「貴様……、都合がいいなぁ。貴様のせいで楓花と仲良くなった者はどうなった? それにより楓花はどうなった? お前、小さい頃から楓花と同じクラスだったんだよな? だったら、楓花がこれまでどんな思いで過ごしてきたのか分かるだろうが!!」
いまにも栗栖に殴りかかろうとするクロエを必死にリュカが止めた。
「クロエ……。気持ちは分かるが、コイツの気持ちも何となくでいい。分かってやれ。僕もエマちゃんもコイツと同罪だ。誰もクロエが現れるまで、楓花様を本当の意味で守ってやれなかったんだ……。すまん」
「けっ! 分かりましたわ! もう今日は玉子と口を利きたくありませんわ! リュカ、あとはよろしくですわ!」
栗栖の尋問はリュカがクロエの代わりを務めた。
「クリストファー……いや、栗栖。楓花様の情報をどう外部に流していた? やはり電話か?」
「はい。百合園家から預かっていたこのスマホで……」
リュカは栗栖からスマホを受け取った。スマホには1件だけ連絡先が登録されていた。どこに繋がる電話番号かは分からなかったが、この特殊に加工されたスマホには見覚えがあった。素人……プロでも絶対に不可能な加工が施されている。世界でも持っている者は僅かで、百合園家でも一部の者しか持っていないスマホ。
「クロエ……」
「分かりましたの?」
「いや、電話先は掛けてみないと分からない」
「ならすぐ掛けますの」
「いまは、やめた方がいい」
「は? なんで?」
「
「は? なぜ楓花が?」
「これは稜王吏様……。もしくは、その側近の者しか持っていないモノだ」
「いおり?」
「楓花様のお父様、百合園家の王だ」
「な?!」
2人の間に沈黙が走る。リュカが言おうとした事……楓花もヤバい。
栗栖はもちろん、クロエ達、いまの楓花の状況を知っている者達は全員、いつ消されてもおかしくない状況ではあるが、相手がそのレベルの権力者になってくると、楓花の現在のささやかな幸せでさえ奪われかねない。
クロエは夕陽が沈む、今日はやけに赤い夕焼けの空を見上げた。
赤く染まる夕焼けの空に負けないような、殺気に満ち溢れた眼差しで。
『私の考えが甘かったですわ。私を屋敷に住まわせたのは、外界の者ではないと判断したためで、ただの布石。あくまでも
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