第1話 エリート女騎士降臨!

1-1 百合園 楓花

———これはある女子高生の夢が叶うまでの軌跡を描いた素敵な物語



 私は百合園 楓花ゆりぞの ふうか、高校1年生。


 高校生になって、もうすぐ1カ月半が経とうとしている。


 クラスのみんなにはそれぞれグループが出来ていて、各々が毎日楽しそうに学園生活を送っている。


 今日もみんな楽しそうにしている。昨晩のテレビ番組の話、人気俳優の話、人気アイドルグループの推しの話、アニメや漫画の話。各々、自分の所属するグループで和気あいあいと話をしている。


 私の席は窓際の最後列。

 窓の外から教室内に流れてくる外の空気を全身で感じている。

 まだ春の陽気があり、心地の良い風が気持ち良い。


 今日も私は心地の良い風に癒されながら、1人読書に励んでいる。

 私から話かけるお友達も、私に話かけてくれる子もいない。



 そう、私は……ひとりぼっち。



 入学時、私に話かけてくれた子がいた。


 クラス分けが終わり私は自分の席に着いて落ち着けずにオドオドしていた。

 急に私の前の席の椅子を私の方に向けて誰かが座った。


「ねぇねぇ。あなた可愛いね。名前なんて言うのー?」


 私に話かけてくれたのは、綺麗な金髪の女の子だった。

 入学して間もないのに数名の男女でグループを作っていて、既にグループの中心的人物だった。こんな綺麗で社交的な子が私に話かけてくれた。


 私は嬉しかった。すぐ返事しないと、そう思った。


「あ、あの、ゆり……」


「えぇ? なんてー?」


 その子はわざとらしく耳に手を当てて私を馬鹿にした態度をとってきた。多分、少しだけ性格の悪い子だ。


 それでも私はお友達が欲しかった。どうしてもお友達が欲しかった。これまでお友達と呼べる子は1人もできなかったから。


 私が悪いんだ。私が人見知りで、優柔不断で、いつもオドオドしていて、きちんと人と話せないから……


 スカートを皺ができるくらい強く握りしめた。

 そして私は勇気を振り絞り、その子の顔を見てきちんと自己紹介をした。


「ご、ごめんね。ゆ、百合園 楓花です」


「ああ、楓花ちゃんねー」


「あ、う、うん。よろしくね……」


 金髪の女の子は赤面する私の顔を見て、手を叩いて笑っていた。

 

 少しだけ私を馬鹿にした態度が気になるけど、それでもお友達ができた。


 あっ、名前。相手の名前、聞かなきゃ。


「あ、あの、名前、名前は……」


 えっ?


 グループの数名が金髪の女の子に何か耳打ちをしている。そして驚いた顔をしている。


「えぇ? 百合園って、あの百合園グループの? 学園ここの理事長じゃん?」


 金髪の女の子はすぐ席を立ち、「ごめんね。さっきの忘れてー」と言い残し私の前から去って行った。


「早く言ってよ! 下手したら即退学じゃん!」


「はははっ、バカ。お前がきちんと確認せずに話かけるからだろ?」


 その子たちの笑い声と共に私に重たくのしかかる百合園の姓。


 人見知りで優柔不断、いつもオドオドしていても、これまで一度もイジメられた事がないのはこの百合園という姓のおかげだ。そしてお友達ができないのも……


 私は世界に名だたる大企業社長の令嬢。

 みんなが私の名前に恐怖し、誰も近付いて来ない。せっかく仲良くなった子も次の日には離れていく。


 この1件以降、今日まで私はクラスメイトの誰からも話かけられていない。先生たちも私に気を遣い、私に話かける際には敬語を使う。



 百合園なんて名前いらない……なんて言ったら駄目だよね。

 でもお友達……欲しいな。ないものねだりなのかな……。



 学校が終わるといつも校門には迎えの車が待っている。私は車窓から寄り道している子たちや、楽しくグループで下校している同世代の子たちを羨ましそうに眺めている。


 家に戻ると執事バトラーさんやお手伝いサーヴァントさん達に迎えられる。


「お嬢様、お帰りなさいませ」


「うん……。ただいま」


 業務的な会話を終えると私は自分の部屋に向かい、宿題があるときは宿題を、ないときは読書に励む。その後、執事バトラーさん、お手伝いサーヴァントさんに見守られながら1人夕食をとる。


 私には親戚がたくさんいるけれど、私の家族はお父様だけ。

 お父様はとても優しくて大好きだけど、仕事が忙しく会えるのは月に数回だけ。その数回だけが私の一番の楽しみでもある。


 お風呂を済ませ自分の部屋に戻ると私には眠る前、毎日欠かさず行っていることがある。窓の外からベランダに出て、膝をつき目を閉じてお祈りの姿勢をとり星空に向かってお祈りをする。


「お星さま、お願いがあります。私にお友達をください。逃げていかないお友達を。ずっと一緒にいられるお友達を……」


 数分お星さまにお願いをしたあと、部屋に戻ってベッドに入り寂しく眠る。


 今日もお星さまにお願いをした。

 いつか叶うとを信じて、部屋に戻ろうとした。


 そのとき……。


「え? ええーっ!?」


 私のお願いに呼応するかのように星々が眩い光を放っている。

 そして眩い光の中から一筋の光の道が現れ、光の道のさす先は私の家の中庭だ。

 一筋の光の道を通って天から人がゆっくりと舞い降りてくるのが遠目に見える。


 私は部屋を飛び出し、階段を駆け下り光の道のさす中庭へと猛スピードで向かった。



 はぁはぁ……。間に合った。



 お月様の色のような金色に輝くロングヘアに西洋人のような端麗な容姿、煌びやかな白銀色のプレートアーマーを着た女性が、お祈りの姿勢のまま目で認識できる位置まで舞い降りてきている。


 やがてその女性が中庭に着地すると共に、光の道は消えた。

 女性は目を閉じて、お祈りの姿勢をしたまま動かない。中庭で膝をついて黙ってお祈りをしている。



 えっ……? なに……?

 天から人が舞い降りてくるなんて……。

 天使様? 天使様なの?



 きっとお星さまが私のお願いを叶えてくれたんだ。

 私に天使様のお友達をくれたんだ。


 やがてその女性は目を開ける。月明りの下でも分かる、鮮やかな青色の瞳をしている。


 金色に輝く髪色、サファイアのような青色の瞳、白銀色のプレートアーマーに負けない程の白い肌、端麗な容姿、同じ人間とは思えない神秘的な雰囲気、間違いなく天使様だ。


 私は恐る恐る話かけることにした。


「あ、あの、天使……様?」


 天使様は私の言葉を無視して周りをグルグルと見回している。

 やがて頭を抱え、何度も自分で地面に穴を開ける勢いで頭突きを繰り返し、また周りをグルグルと見回している。天使様の顔からは先程までの神秘的なオーラは消え失せ、半泣き状態で明らかに動揺の色を隠せないでいる。


「あ、あの……」


 頭を抱えていた天使様は力なく立ち上がり、俯きながらゆらゆらと肩を揺らしつつ私の方に向かってくる。その姿は天使様というよりもゾンビのようだった。

 

 私の側まで寄ると急に私の両肩を鷲掴みにし、大粒の涙を流しながら訴えてきた。その様子は私の知る天使様のイメージとはかけ離れていて、まるで駄々をこねる子供のようだった。力が強い分、子供の方がまだマシだとも思った。


「おい! 子供! これはどういうことですの!?」


 乱暴なのか上品なのか分からない口調……子供のように泣きじゃくり暴れまわる姿を目の当たりにした私は……何かを察した。


 天使様(仮)に両肩を鷲掴みにされ体を乱暴にブンブンと振られながら、私は星空に視線を向け心の中でお星さまに問いかけた。



 お星さま、私は確かにお友達が欲しいと願いました。

 お星さまは私のお願いを叶えてくれました。

 お星さまはお友達のいない私に天使様のお友達をくれました。

 お星さま、ひとつだけ質問してもよろしいでしょうか?



 これは、いったいどういうことでしょうか……?







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