神様は蠢く丘の上で暗清色の空を眺めますか?
竜世界
Mission1
第1話 トランサー
豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ。
実際にやるなら音速で豆腐を相手にぶつけるか、相手から音速で豆腐に向かって来てもらう必要があるみたい。
じゃあ豆腐屋さんのトラックが横転して、その際のコンテナに頭をぶつけて死んだ私は……あれがもし角部分だったら豆腐の角で死んだ事になるのかなぁ。
コンテナは豆腐のように白く塗装されてたから……ダメ?
それにしても異世界転生かぁ……実感が湧かないままこんな荒野に放り出されたけど……確かにさっき説明された通りの外見になってるっぽい。
性別だけじゃなく年齢も元のまま同然だから女子高校生継続だね。
どんな異世界かの情報も無しで飛ばされたから、今私が何処にいるかも判らないけど……これから何が起きるかなら、分かる。
目の前にある草木の見当たらない剥き出しの岩盤の上で亀裂と音が走ってる……地面突き破って何かが出て来るパターンだけど……亀裂の規模が大きい。
かなりの大物が出て来るって身構えてるし、ここで何が出て来るかでここがどんな異世界かが判る……地中からドラゴンが出て来る何て展開、無いよね?
そんな事考えてたら地面が盛大に捲れ上がって異世界最初のモンスターと御対面……単眼ワームに装甲を纏わせたような感じだった。
小屋くらいの太さがある蚯蚓のお化けだけど……体の表面がやたらとツヤツヤしてるのが気になるかな……さてどうしよう。
武器は持ってる。でも一撃で倒せる雑魚モンスターにしては大型過ぎる。
下手すりゃボスモンスターの色違いでフィールド版何て事も有り得るけど……そもそもこのRPGな異世界想定が合ってるのかどうか……。
とりあえずバッチリ目が合ってて、大きな口を開けて何かして来る……これは炎のブレスが来るね、猛毒ブレスだったら更にヤバイ。
この辺りに来るだろうと思って後ろに跳んだけど……次の瞬間、私がいた地面の辺りに何かの跡が付くけど……口の中の所々で何か点滅してたから。
銃、撃……?
これでRPGな異世界って線は無くなった……そもそも私が手にしてる武器を見ればここが剣と魔法の世界じゃないって可能性が高かった。
私は持っていた武器――
これで気前よくワームの頭部が円形に抉れる展開だったらよかったんだけど……上手い具合に物音がしない中、銃弾が弾かれる音が聞こえた。
伝説の勇者は気持ち程度の剣とお金を寄越されて送り出されるもの。初期装備に期待するのが間違いだった。
そう思いながら、その場から退散すべく振り返ろうとしてたら――
「あぶない!」
女の子の声が聞こえて来て、ワームの頭部に銃弾が大量に浴びせられた……この音はマシンガンか何かかな?
銃撃のビジュアルは派手だったけど、ワームの腹部以外を覆う装甲は見た目通りの硬さで今は一度に銃弾を大量をたたき込んだ事で動きを止めた感じ。
それにしてもこのお腹……全然柔らかそうじゃない。何だかこのワームって全体的に光の反射具合が金属全開で、金属の玩具でも見てる気分になる。
今度こそ振り返ったら私の視界にサーフボードっぽいものに乗ったピンクっぽい髪の女の子がライフルっぽいもの抱えて、こっちに向かってる。
遠目でも解る、あの子絶対可愛い。
あと女の子の隣に誰も乗って無いボードがもう一枚あるから……案の定、
「乗って!」
と傍まで来たら叫んで来たので勢いのままに乗る。
運動神経イマイチで体育とかでトップになれた試しが無い私だけど……何とか乗り続けられた。
さて、あのワームの形をした何かは銃撃して来るわけで、こんな風に直線状に逃げてたら――
「あたしから離れないで! 大丈夫」
隣のボードの可愛い女の子が持つ銃のボディは白くて所々に水色の線とかが走ってる……ゲームだったらサブマシンガンやアサルトライフルって名前が付きそうなデザイン。
そんな銃を女の子がやけに強く握り締めたかと思うと、
「展開!」
そう叫ぶ共に私と女の子を余裕で包めるサイズの半透明の青いドーム状のものが広がり、程なく来たワームからの銃撃が弾かれる。
バリアとしか思えない光景だけど、女の子を中心に発生してるからかな、展開したまま移動出来るみたい。
「すごいね。魔法?」
「マ、ホウ……? トランサーの事?」
魔法という言葉が一般的じゃないって反応と共に重要そうなワードが聞こえたから私は絵に描いたようなオウム返しをする。
「トランサー?」
「正式には
火器をトランス――変化。能力……まさか!
そこまで考えた私は手元の拳銃を手にし、強く念じるみたいな事をしてみた。
いかにも拳銃ですってフォルムで何かしらの色味はありそうだけど、大体黒いだけの何の変哲も無さそうな拳銃。
それに対し、変わってと念じ続けて見ようと思ったんだけど……そういう意志を持って手にした時点で拳銃は発行した。
ストロベリーカラーの光が拳銃全体を覆い、光が収まった頃には相変わらず全体が同じ色の拳銃だけど……それが燃え盛るようなオレンジ色の金属になっていた。しかもさっきより一回り大きくなって全体のフォルムが全然違う。
そういう事か。
「わっ。レーザー来た」
バリアが防いだけど、このレーザーを撃って来たのはさっきのワームじゃない。見た感じワイバーンって言いたくなる外見の有翼の姿。周囲には球状のオプションというかビットというか……小型の飛行物体がぱっと見で八機。
「逃げ切れたかなと思ったら新手……うぅ」
女の子の嘆きを他所に。私の心は戦闘する気で満ちていた。
「もう少し進んだらバリアを解除して。撃退出来るかも」
そんな事を言った私だけど、武器がパワーアップしたと思って気が大きくなってるのとはまた違う。
拳銃が変身すると同時に、この拳銃で何が出来るかの情報が頭に流れ込んで来た……私が気付いたら、こうなるように仕込まれてたって事だね。
「おっけ。危ないと思ったら、また張るね」
「お願い」
さっき見えたあの場所の傍まで行けば、私の『トランサー』もきっと活かせる。 銃を構えながらワイバーンの方を見れば、ワームと同じようにやたらと金属的な光沢を放ってる……何だかバイオ兵器とは違うのかも。
そう言えばお互い、自己紹介がまだだった……今の内にしておこうかな。
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