第二話「何が不敗騎士だ、連戦連敗じゃないか!」

   

「何が不敗騎士だ、連戦連敗じゃないか!」

 騒々しい足音に紛れるようにして、不満の声が聞こえてくる。

 同じ部隊に配属された新人騎士の言葉だった。

 口には出さないが、僕も同じ気持ちだ。初めての戦場で、僕たちは撤退を繰り返していたのだから。


 国境付近における、ケムラス連邦との紛争。しょせん小競り合いであり、両軍とも、派遣されたのは一部隊のみだった。

 ケムラス軍の指揮官は『慎重将軍』の異名で知られるガイデ将軍。噂通りの慎重な指揮官であり、最初はこちらの出方を窺うだけで、本格的に攻め込んではこなかった。

 これでは膠着状態に陥り、長期戦になるのではないか。僕はそう予想したし、歴戦の強者つわものであるゼダン隊長も、同じように考えたらしい。

「長期戦に備えて、部隊を三つに分ける!」

 と言い出したのだ。しっかりと休めるよう、交代制にするのだという。

 ただし三交代制ではなく、実質的には二交代制だ。僕が割り振られたアルファ隊と、もうひとつのベータ隊だけで、全体の八割くらい。これが交互に出撃する形であり、残りの二割からなるガンマ隊は、予備兵力として、常に陣に残る形だった。


「大丈夫なのか? ただでさえ少ない人数を、さらに減らして……」

 新人騎士の中には、そんな不安を口にする者もおり、その心配は的中した。

 戦力の均衡が崩れたと判断したらしく、ガイデ将軍が、様子見から攻勢に転じたのだ!

 以降、僕たちは、急に忙しくなった。ひっきりなしに戦闘だ。

 ベータ隊は少ない人数でもそれなりに持ちこたえていたようだが、僕のいるアルファ隊は、そうもいかなかった。出陣のたびに多数の負傷者を出して、負けて帰ってくる。

「これじゃ勝てないぜ……」

 若い騎士たちの、不満の声も蔓延する。

 偶然なのか意図的なのか、アルファ隊には新人騎士の割合が多かったのだ。それが苦戦する理由の一つだと思うけれど、それだけではないだろう。

 僕に言わせれば、最大の問題点は、魔法を使える騎士が少ないこと。例えばエミリーのように、魔法使いとしても優秀な騎士だって、ゼダン部隊には大勢おおぜいいる。だが彼女たちは皆、ガンマ隊に入れられていた。

 アルファ隊には攻撃魔法を使える者がほとんどいないから、遠距離攻撃の手段は、原始的な弓矢なのだ。敵は炎魔法や氷魔法をバンバン撃ってくるわけだし、これではまともな戦いにならないのも当然だった。

   

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