ハンメイのグルメ探求記

ジョルジュ モリソン

第1話中華料理人少女‼ ハンメイ登場‼

AD300年 魔獣の村コニウム 酒場

 「にしてもコニウムにやってくるのもかなり久しぶりになるな。」 

「まさか魔獣族がこんな空に春巻きをびっしり張っ付けたような状態の島で集落作ってただなんてねぇ。」

皆さんご存じのアルドと一緒にコニウムにやってきた少女、名をハンメイという丸めた髪束6つを冠のように乗せた料理人である。

 「確かハンメイはこれから現地の食材を取りに行くんだよな?」

「そう!イゴマの奥地にあるらしいジャバタケをとりにねぇ。」

「今ジャバタケって言った⁉」

ジャバタケという言葉に反応したのか女性は別の席から振り向き聞く。

 「今それを取りに行くところですよぉ。」

「それだったら一つ用事を頼まれてくれない?わたしの旦那もジャバタケを取りに行って以来ずっと帰ってきてないから私が家で彼の好きなもの作って待ってるから帰って来いって。」

「よし!私がついでに探してくるから安心しなよぉ。救出祝いってことでなんなら宴会もじゅんびしとくからねぇぇぇぇ」

善は急げということなのかハンメイはドアを開けて出て行った。

「それじゃあ俺も行ってくるよ。」

アルドもハンメイの後を追ってイゴマへ向かった。



AD300年 蛇首イゴマ 奥地

 「ここだねぇジャバタケが取れるっていうところは。」

「ああ、確かジャバタケは木の幹に直接かさが生えてる筈...」

もはや首をふるまでも無かった。

「ん?おい見ろ!あれがジャバタケじゃないか⁈」

「嘘でしょ⁈いや嘘じゃない!」

驚くのも無理はない、二人が目を向ける先に人の背丈ほどある小ぶりな木の根元をみっしりと埋め尽くしている茸、ジャバタケの姿があった。

目的地に到着するや否や大分幸先のいいスタートを決めたアルドとハンメイだったがさらに幸運なことが起こる。なんと捜索対象の魔獣の青年らしき人物が目の前にやってきたではないか。これ以上幸運なことはない、もちろんその青年が酷く禍々しいオーラを纏い名状しがたきうめき声を上げてなければの話だが。

「旦那さん…?旦那さん‼旦那さん早く嫁さんの所に戻ろう‼」

 「オ˝オ˝ォ˝ア˝ァ˝ァ˝」

「ハンメイ‼この人の闇の力がどんどん強くなってるぞ‼」

「スマナイ、ニゲロ、オレサエイナケレヴァァァ」

抵抗もむなしく青年は煙状のオーラとオレンジの閃光に包まれる。そして煙と光が引いたそこには青年はもういない、サイの頭とカマキリの鎌、背中から生えたタコの触手に魔獣の下半身を持つ見るも冒涜的な化け物がそこにはいた。

「ブモォォォォォ‼‼ウフォォォォ‼‼‼」

「どうなってるんだよ...どうなってるんだ‼」

息つく間もなくタコの触手がアルドに向かって跳び彼の身の自由を徐々に奪ってゆく。

「グッ…ゴハッ…あぁ」

「フォー‼‼フォー‼‼」

もうアルドに逃げ場はない。化け物は確実に生きの根を止めてやるとでも言わんばかりに腕の鎌を振りかざす。

「ホワッハーー」

誰もが絶望するこの状況でこの声を上げたのはハンメイだった。彼女の力を纏った背後からの正拳突きにより化け物は体制を崩しその場にうづくまる。

「逃げないと命を奪われる‼走って‼」

死に物狂いで二人は走った。あの化け物は何だったのかという疑問も何故あの青年は何故化け物と化したのかという疑問も呼吸の仕方も全てを心の金庫の中に放り込んでただ生きることのみを目指して村へ向かう、こんな状況ではただそれしかできなかった。



ÅD300年 魔獣の村コニウム 宿屋

 アルドにとっては数少ない自力での起床は悪夢のような逃走から意識を戻すことによって成された。

「ハッ、ハンメイは⁈」

「大丈夫ここにいるぅ」

ハンメイは床の上の敷布団でぐったりしている

「いったい何があったんだ?」

宿屋の女将がふたりが起きたのを確認し語る。

「森の入り口あたりで人の走る音が聞こえたかと思ったらあなたたち二人が倒れていたの。そういうわけでお二人が目を覚ますまでここに寝かせておいたというわけよ。」

「ありがとう、おかげで平常心を取り戻せたよ」

「私も活力を取り戻せたよぉ生きてる心地がしてるよぉ」

二人は女将に感謝の意を伝えて宿を去った。だがまだ解決していない問題は依然として残っている。

「大分困ったことになったぞ。まさか行方不明の魔獣が明らかに戦闘形態とは別の形で化け物になるだなんて。」

「それなんだけどアルドォ…もしかしたら私あれが何なのかもう検討ついてるかもしれん。」

「なんだって!それは本当か!」

呼吸を整えるハンメイ

「明らかにあれは私の料理流派『華形広東流』の術を別の何かによって改造したものだったよぉ。」

「つまりあれを解除する手立てもなにかこころあたりがあるのか?」

「もちろん、その為に彼の思い出から本来の意識を引き出してそこに私がかけられた術を無効化するために対抗術の突きを打つ。これが概要になるよぉ。」

「んー頭が痛くなってきたぞ。なんで料理術の力で人を元に戻したり改造して人を化け物にしたりできるんだ?」

アルドの言ってることは何も知らない外部の人間からすればごもっともであると思いつつハンメイは解説する。

「確かにそう思うのも無理はないよぉ。『華形広東流』には大分特殊な成り立ちがあって気の遠くなるほど長い…もしくは流派としてはあまりにも短い歴史があるんだよぉ。」

「ん⁉さらに分からなくなってきた…。」

「まぁ手短に言うと大体3000年前に作られた混沌の存在を料理にしたり生ものの鮮度を蘇らせたりする術を料理に転用した流派それが『華形広東流』それさえ覚えてくれればいいよぉ。」

「わかった!でも思い出から本来の意識を引き出すだなんて一体どうすればいいんだ?」

ハンメイはいい質問ですねとでも言いたげに片方の眉を上げて両手の人差し指をアルドに向けた。

「それはもうばっちりだよぉ。読みが正しければ今日も酒場にいる筈だからねぇ。」

「え?いるっ⁉それって誰なんだ?」



ÅD300年 魔獣の村コニウム 酒場

「嫁さぁん‼あなたに聞きたいことがあるよぉ。」

「心当たりってあの青年の嫁さんのことだったのか」

「質問って?まさかついに目途が立った⁉」

「そのまさかだよぉその為にも嫁さんの家にお邪魔させてもらう必要がある。」

「もちろん。それが何よりなら」

彼女には分かっていたのだろう、いや見ていたのだ二人が倒れていたのを、そして感じたのだ宿までおぶった二人が何らかの事情で命からがら逃げかえり今は状況打開のための手段を自分に求めていることを



ÅD300年 魔獣の村コニウム 二人の新居

扉を開けると食欲そそる挽き肉の匂いが飛び込んでくる。ボロネーゼだ。

「よし!準備万端!」

「でもこれをどうすればいいんだ?まさか直接持っていくわけにもいかないし…。」

「そこで私の出番って訳だよぉ」

ハンメイは腕を広げ、回しながら体の前に突き出したかと思うと橙色の光を放ちながらボロネーゼの匂いを吸い取ってゆく。

「一体何が起こってるんだ!」

集積が終わり再び部屋の中にボロネーゼの匂いが充満してゆく。

「これで匂いの転写が終わったからいよいよ旦那さんを助けに行けるよぉ。」

ハンメイはドアを開けてその場を立ち去っていった。

「一つ…聞いてもいいですか…」

「ん?」

「あなたたちは…何者なんですか?」

「さぁな。俺にもわからない。

だけどこれだけは言えると思う、あいつには絶対的な自身があるって。」



ÅD300年 蛇首イゴマ 奥地

「また会ったねぇ。」

そこにはあの時と同じ化け物がいた。だが、決定的に前とは違う点がある。それは二人に『必勝法』があるということだ。

「あなたに伝えたいことがあるんだよぉ、あなたの嫁さん名義でねぇ。」

ハンメイはそう言ってあのボロネーゼの香りを放出する。

「聞こえてますかぁ、あなたにはあなたを待ってくれる人がいる!嫁さんの、そしてあなた自身のために!自分を取り戻してくださぁい!」

「ア˝ア˝ァ˝ソウダ、オレハモドラナイト…!」

一筋の光が見えた化け物は錯乱する。理性を失った獣としての化け物は悪あがきにアルドに前と同じく触手を跳ばすがそんなものはもう効かない。

「残念だったな!お前の攻撃はもう見切った‼」

これだけ盤石な体制なのだもう二人に負ける要素はない。

「オオオ、光ガ観エルオレガ戻ッテクル。」

「アルドォ、邪気があいつの触手に溜まっていくッ‼」

「任せろッ‼」

化け物の触手は削ぎ落とされ闇の力が勢いよく抜けてゆく。

「ウオオおぉぉぉぉぉぉ。」

「ホワッ‼ハー‼」

ハンメイの力を持った正拳突きが化け物の腹に止めを刺す。邪気が払われたのだ。そしてそこに化け物はもういない、悪夢から解放された一人の青年が倒れていた。

「おあぁぁ。」

「大丈夫か⁈」

「何か…悪い夢を見ていた気分だ…。」

「良かった。」

「ん?でも何か重要なことを忘れてないか?」

すると二人の視界に人の背丈ほどある小ぶりな木の根元をみっしり埋め尽くしている茸があった。

「そうだよぉ元々ジャバタケを取りにここまで来たんじゃないかぁ。」

ハンメイは元々の目的を思い出しやっとの思いでジャバタケを摘んだ。

「良かった!これで一件落着だな。」

これにて蛇骨島でのアルドとハンメイの冒険は幕を閉じるのだった。

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