第4章-8
翌日、早朝から再び有馬に戻って来た僕達は、昨日の続きを始めた。ある程度時間が経つと通勤、通学時間となる。にわかに騒がしくなるも、その時間帯が過ぎると住宅街は一気に静かになった。輝耶が助けを求める声でも聞こえないかと耳を澄ますが、聞こえるのは車の音。そして、時々通る電車の音ぐらいなものだった。
なんの成果もないままお昼を向かえ、コンビニで食料を買う。平日の昼間なものだから店員に少し怪訝な顔をされるが耐え忍ぶ。なんでもないですよ、という雰囲気を出しつつ、内心ではドキドキしつつ、買い物を終え煌耶ちゃんと一緒に公園のベンチで食べた。財布の中はまだ余裕があるが……それでも中学生のお小遣いレベルだ。明日にはスッカラカンになっていると思う。
「ふぅ……」
サンドイッチを食べ終わった煌耶ちゃんがため息を吐いた。表情には出さないけれど、煌耶ちゃんの体力も限界が近いと思う。昨日に続いて今日も歩きっぱなしだ。しかも気配を消しつつというスキル使用状態。体力もそうだが、精神力も疲弊しているかもしれない。
「大丈夫かい、煌耶ちゃん」
「うむ、どうという事はない。昔の飛脚は東卿と大坂を三日間で走りきったそうじゃだからな。過去の人間に出来て現代の私に出来ない理由はない」
いやいや、その理論はおかしい。けど、指摘はしない。煌耶ちゃんの強がりぐらい、受け止めてあげよう。ここで彼女を否定したところで何のメリットも生まれないし、不毛なだけだ。
疲労を覆い隠す様に食事を終えた後、再び捜索を始める。もう足の裏が痛かった。歩いているだけなのに、足の皮がめくれたかの様な感覚。それは煌耶ちゃんも同じらしく、僕達の歩くスピードは半分ぐらいになってしまっている。だけど、止める訳にはいかない。止めていいのは、僕達以外の誰かが輝耶を無事に助けた時だ。
少しでも怪しいと感じたり変だと思った家などを見ていく。時には中に住人が居たりして、こっそりと脱出したりと間違いを繰り返した。疲弊のため息が二人同時に零れだした頃に、工場らしき建物に辿り着いた。
住宅街に並ぶ様に有った工場は高い建物ではなく、むしろ低いぐらいの造りをしていた。門は閉じられており、中はシンと静まり返っている。名前は『三幸食品』というらしいが、すでに潰れた後だろう。門には閉鎖を示す文章の看板が貼り付けられていた。
「いかにも、じゃな」
「うん」
僕は門の上によじ登り、煌耶ちゃんを引っ張り上げた。門といっても僕の身長よりも低いので侵入を阻む様な物じゃない。もちろん、立ち入り禁止の看板はあるけれど。
食品会社というぐらいだから、何かここで料理を作っていたんだと思うけど……今はその面影も残っていない。こっそりと隠れながら、事務所らしき建物、倉庫らしき建物と順番に見ていったが輝耶は見つからなかった。そもそも床には埃が溜まっており、誰かが歩いた形跡もない。ただただ静かなだけの空間が広がっているのみだった。
「ここもハズレかのぅ」
「まだ他にも建物はあるよ。なんというか、ここって監禁しておくのにピッタリな感じだし」
少々騒いでも、敷地面積のお陰でご近所まで声が聞こえない。そう考えれば犯罪の温床となっていてもおかしくはない気がする。だけど、不良達が使っている形跡はない。派手なラクガキがないから、という単純な理由だけどね。だからこそ、人を監禁しておくには良い場所なんじゃないだろうか。
でも、逆に考えるとこんな明らかな場所はすでに警察が調べてるかもしれない……
「次、行こうか」
また無駄になるのか、という考えを振り払い倉庫から出たところで人の気配を感じた。煌耶ちゃんも同じく動きを止め、耳をそばだてる。ざ、ざ、ざ、という足音。誰かが歩いているのは明白だ。息を殺し、最大限に気配を消して周囲をうかがった。
見つけたのは男の後ろ姿だった。赤い携帯電話を持ちながら工場の奥へと向かって歩いていく。短い髪にヒョロヒョロとしたイメージ。上下ともに黒い服装で、彼もまた気配を消している様子だった。
「……」
「……うん」
煌耶ちゃんが僕を見て、無言で訴えた。それに僕は頷いて答える。追いかけよう。無言の言葉に煌耶ちゃんは肯定した。
男は敷地内にある一番大きな建物へと入っていった。大きなシャッターが閉まっているが、その横に取り付けられたドアが開いているらしい。男が入っていった後、しばらく時間を置いて注意深く扉を開けた。中は暗く、窓から漏れてくる明かりしかない。床を見れば埃はなく、頻繁に通っている様子が見て取れた。
足音は建物の奥から聞こえてくる。慎重に慎重を重ねる様にして僕達は男の後を追った。搬入口か搬出口だったのか、大きな部屋から急にこじんまりとした廊下になる。廊下の真ん中には溝が設置されており水が流れる様になっているらしかった。
廊下の先で、キイィと扉を開く音がした。恐らく男が部屋に入った音。見失わない様に少しだけ足早に廊下を進み角を曲がると、ちょうど扉が自然と閉まるのが見えた。
男が使っているらしい部屋が確定した。もう一度慎重に足音や息を殺しながら扉へと近づく。そこは窓が全てくもりガラスで中が見えなかった。
古典的だけど扉に耳を当ててみる。煌耶ちゃんも同じ様に耳を当てた。中から男の声が聞こえた。少し甲高い感じの声。上手く聞き取れないが誰かと話しているらしい。
ポンポンと肩を叩かれる。振り向くと煌耶ちゃんがドアノブを示していた。開けろ、という事か。
しゃがんだ姿勢のままでドアノブを両手で持った。一秒間に一ミリという感覚でドアノブを回していく。ようやく最後まで回しきると、今度は一秒間に一センチ程の感覚で扉を開けた。必至に音が鳴らない様に祈りながら、なんとか通れる程に扉が開くと一気に男の声が聞き取れる様になった。それは鼻をすする音交じりで、パシパシという拍手の様な音も聞こえた。
「お前らは楽をして生きてるんだ。俺は苦労してんだ。分かるか、分かれよ。いいか、何で俺がこんな目にあってるのか分かってんのか」
言葉を切る毎に鼻をすすり、ペチンという音。疑問に思いながらも部屋の中の様子を伺った。まず机などが乱雑に置かれており、男の姿は見えない。それを良い事に煌耶ちゃんが中へと侵入した。制止する暇もなく、ドンドンと中へと進んでいく。仕方ないとばかりに僕も四つん這いで中へと入った。
噎せ返りそうになるほどの臭い。急に匂ってきたのは生活臭だ。色々な物が混ざり合った臭いがした。それを我慢しながら進むと、煌耶ちゃんに追いついた。机の端から部屋を見ていた。僕もそれに習う。
…………見つけた。
輝耶が、そこに居た。
顔の左半分が大きく腫れていて、黒く変色している。ペチンとはパチンと聞こえていたのは輝耶が殴られている音だった。椅子に雁字搦めにされており、下半身には何も身につけていなかった。意識はあるらしく、男を睨みつけている。
煌耶ちゃんが僕の袖を掴んだ。それで我に帰る。僕は拳を握り締めて立ちあがろうとしていた。落ち着いて、と煌耶ちゃんの目が訴えてきたので、僕は頷いた。今飛び出して行ったら輝耶自身が危ない事になるかもしれない。
だけど、このまま見学している訳にもいかなかった。犯人がまた部屋から出て行く可能性がある。僕は煌耶ちゃんに向かって電話のジェスチャーを送る。警察に電話して連絡して欲しいという意味。ちゃんと理解してくれた煌耶ちゃんは頷いて部屋から出て行った。
「おるぁ! 何とか言えよクソアマが!」
煌耶ちゃんが出て行くタイミングと重なって男の激昂する声が響く。相当に興奮している様で、僕は慌てて向き直った。
「――――!?」
思わず声が出そうになる。
男は銃を持っていた。右手に構えて輝耶の頭に押し付けている。本物かどうかは分からない。けど、ニセモノという証拠もない。どこでどうやって手に入れたのかは分からないが……ただのハッタリでニセモノの可能性もあるけれど……
僕の右足が痺れ始めた。ジリジリと焦げる様に右足の感覚が無くなってきた。
「撃ちなさいよ」
小さな声で、輝耶がそう言った。
「撃ちなさいよ。こんな侮辱、屈辱、汚らしい格好、不潔な部屋、不潔な身体、生まれて初めてだわ」
「おうおう、そうだろうよ」
「お父さんやお母さんにも迷惑になっていると思うわ」
迷惑なもんか。みんな必至で探している。だから、それ以上に犯人は挑発するな。もうすぐ警察が来てくれるから。我慢してくれ輝耶!
「もういい、もう疲れた。最後に言ってやる。最後に言ってやるよ!」
「立場を考えろクソアマが!」
ひたすら大きく拳を振りかぶって、男は輝耶を殴りつけた。椅子と一緒に輝耶はひっくりかえり、派手な音が響く。そのまま男は輝耶の身体に蹴りを入れた。椅子ごと輝耶の身体が動いているのが分かる。
「ぐっ、うぅ……全然痛くない! へっぴり腰が! 人の殺し方もしらないくせに! みやびの方が何万倍も強いわ!」
やめろ輝耶! やめてくれ!
「そんなに死にたいのか、このアバズレがぁ!」
男は輝耶の頭を踏みつけ、銃を構えた。
ダメだ、ダメだダメだダメだ、ヤバイぞ、ヤバイヤバイ、ヤバイ。輝耶が危ない。どうする、どうやって助ける、どうすればいい、何か方法はないのか、何か、何にも無い、どうしよう、誰か、誰か早く来てくれ、まだなのか、警察は、煌耶ちゃんはまだ電話してないのか、おい、どうする、どうしればいいんだ、何が出来る、何か、方法は、何かあるよな、あるだろ、あるはずだろ、だってさ、目の前で輝耶が殺されそうになってるんだぞ、あるだろ、何でもいいだ、輝耶を救う方法だよ、単純な話だ、たった一人の女の子を助けれるだけでいいんだ、何も世界を救うって話じゃない、ただただ単純に、ひとりの人間を助けるだけなんだ、それでいい、それだけでいい、それが出来るなら、それが出来るんだったら、あとは何でもいい、そう、そうだ、どうなってもいい、なぜなら、僕は、僕の一族はその為にあって、それだけの為に存在するのが、僕達の一族だから、そう、そうなんだ、今、僕が、僕の、僕の出番だ、そうだ、僕だけが、彼女を、輝耶を助けられる、助けられるのは僕だけ、だったら、だったらやるしかないだろ、やってやる、やってやるさ、だから、だからだから、だからだからだからだから!
動け右足!
この役立たずかぁ!
「っやめろ!」
部屋の中に、大きく声が響く。
その声は、立ち上がった僕だった。驚いた顔で、男が僕を見ている。左半分だけの無事な方で、輝耶が驚いた表情を浮かべ僕を見ている。
人の視線は嫌いだ。
誰かに見られているなんて冗談じゃない。
だけど、今は違った。男が僕を見ている。この間は、輝耶が大丈夫だ。男が僕を見ている間、輝耶の命が延びる。延命される。
「なんだてめぇ! どっから入ってきやがった!」
入口からに決まってるだろ、という軽口を思いついたが……僕の口からは出てこなかった。なにせ、銃口が僕を向いたから。本物かニセモノか分からない。ただただ無機質な塊には、はっきりと殺意があった。この男は、この銃で人を殺せると思っている。それをはっきりと感じだ。
「動くなよ。お前は、どこのどいつだ」
男が銃口を向けながら僕に聞いてくる。相変わらず鼻をすすりながらの喋り方。ときおり鼻を袖でこするのか、袖口はテカテカになっていた。
「……影守雅。輝耶の幼馴染だ」
僕は大きく深呼吸をして精神状況を整えた。男に対して半身になる。銃に対して、身体の面積を出来るだけ狭くした。
「動くと撃つからな。そこに居ろよ」
男が言うが、僕はこの解釈を別物として捉える。つまり、動かなければ撃たない。動かない以上、男は手出しをしてこない。
これ以上ない程に好都合だ。まだまだ修行不足な僕に必要な物は、時間だ。
再び大きく息を吸い、吐いた。ひたすらに心を落ち着けていく。状況を全て忘れてしまう程に、無心になる様にと集中していった。
身体は自然体に。呼吸は正常に。精神は静かに。ただひたすらに、ベストコンディションへと全ての要素を持っていく。
次第に世界から音が消えていった。集中する僕の世界に音という要素が排除される。無音の世界で男が何かを言っている。だが、知った事ではない。今の僕はそれどころじゃないんだ。無音の世界を維持するのはとても大変だ。だから、耳を傾けている場合じゃない。
影守流奥義ノ壱。この無音の世界をご先祖様は単純にそう名付けた。音という要素を排除し、ひたすらに相手の行動を読みきる奥義。これは影守家だけに伝えられている技であり、歴史上で他者に伝授された事実はない。もちろん、影守流の歴史の中で実戦で使用されたのは、今が始めてだ。
男が尚も何かを喚くが僕には聞こえない。だけどジェスチャーで何となく分かった。男は床に這いつくばれ、と言っているらしい。だが、それに従う訳にはいかない。
更に集中を高めていく。奥義は壱だけじゃ終わらない。無音の世界から更に集中を増し、ひたすらに練り上げていくと、今度は世界から色が消える。白と黒だけになった世界の中で、時間はゆっくりに感じられた。
これが影守流奥義ノ弐。聴覚と視覚の不必要な部分を全てカットしたモノクロの世界。まるでスローモーションの様に相手を見る事ができ、相手の技を容易に受け流し反撃する事が出来る奥義だ。
僕はこの二つの奥義を毎日必ず一人で練習させられていた。新入生歓迎のデモンストレーションで父さんがBB弾を避けたのも実はこの技を使用していたりする。この壱と弐という単純な名前が付けられた技こそ影守流の『後の後』を活かす為の最大の技だ。いや、影守流で唯一『後の先』を突く事が出来る技となる。
なにせ相手の動きを見切る事が出来るのだから。
「――――!」
男が何かを喚いているが、聞こえない。一緒に輝耶も何かを言っているが、聞こえない。だけど安心してくれ。すぐに終わらせてやる。すぐにあいつを倒して、助けてやるからな、輝耶。
いつでも動ける様に、踵を浮かせた。それに合わせて、男が両手で銃を持つ。ブルブルと震えているのがはっきりと見て取れた。きっと、銃が重いんだ。片手で支えきれてないんだ。こんなおっさんが銃の扱いになれているはずがない。だから、僕を狙うんだったら、きっと頭ではなく、身体を狙ってくるはずだ。
尚も叫ぶ男。きっと僕が無視している様に感じるんだろう。激昂し、怒鳴り散らしていた。次の瞬間、男の肩が動く。連動する様に指が動くのが分かった。
死に物狂いで身体を動かす。
銃口が光った。本物の銃だ。BB弾は見えたけど、銃弾は目で追えなかった。
右足に力をこめる。大丈夫、震えは無い。しっかりと床に足を付き、蹴った。
二発目。
避けれた。
外れたのか避ける事が出来たのか、分からない。
二歩、三歩と地面を蹴り、男に肉薄する。
影守流奥義『猪突猛進』。
命名したご先祖様のネーミングセンスを嘆いたぐらいの分かりやすい技。奥義ノ壱と弐を使った状態でダッシュし、相手を思い切りぶん殴るという技。『後の先』をとる技だけど、さすがに銃相手には『後の後』となるしかなかった。
でも、一撃必中の必殺技だ。
男が慌てて僕に照準を合わせようとするが遅い。そんな動きじゃ、輝耶だって捕まえられない。
僕は、全力全開で、全身全霊で、拳を握り締めた。
腕全体を引き、そして遠慮もなく無慈悲に、ただただ真っ直ぐ拳を突き出した!
「おらあああああああぁぁぁぁ!」
叫び、殴ったと同時に奥義が切れた。世界に色と音が戻ると同時に僕の声が聞こえる。いきなりの情報量に頭の中がパンクしそうになったけど、今は気絶している場合じゃない。僕の拳をお腹に喰らった男は吹っ飛び、そのまま机を巻き込んで倒れた。
ざまぁみろ!
「はぁはぁ……ぜぇぜぇ」
喘ぐ様に息を吸う。苦しいけど、まだ休む訳にはいかない。
殴られたショックで男は銃を落としたらしい。床に転がったそれを拾う。恐いくらいに重くて、暴力的だった。
それを構えて、男に向けた。手は震えている。うまく照準を合わせられない。でも、これで、もう安全なはず。
しばらく様子を見ていたが、男は気絶しているのか立ち上がってはこない。倒れているだけだ。でも、安心はできない。油断はしない。
「か、輝耶。大丈夫か、輝耶。生きてるよな、なぁ、なんとか言ってくれ」
男から目を離せず、僕は輝耶を呼ぶ。
でも、返事が無い。
まさか……弾が当たっていたとか……?
「おい、輝耶。まだ怒っているのか? 謝るから、全部謝るから。生徒会長の件は、悪かったよ。僕が勝手に二人がいい感じだと思っていたんだ。だから言うに言えなくてさ。結局、あんな事になってしまったけど。人を一人、人生を狂わせたっていう意味では、僕に罪があると思う。だから、ごめんなさい。謝るよ」
輝耶から、言葉はない。
不安で押し潰されそうになる。
「な、なぁ、輝耶。護衛の件も謝るから。僕が輝耶を守るっていう役目を、ぜんぜん守れなかった。それも謝るから。次からは、いや、次なんて起こさせやしない。ちゃんと、ちゃんと守るから。だから、だから許してくれよ。品行方正を守るから。ちゃんとした人間になるから。なぁ、輝耶。本当に。だから、ねぇ、返事してよ。生きてるよな、生きてるんだよな!」
「…………うん」
聞こえた。
小さいけれど、輝耶の声が聞こえた!
「輝耶!」
思わず、輝耶を見た。
その顔は酷く腫れていて、すっかりと可愛さや美しさから離れてしまっているけれど、無事な左側はいつものままで、そのいつものままの輝耶が涙でぐちゃぐちゃになりながらも、笑っていた。
「生きてるよな! 無事なんだよな!」
「うん」
「帰るぞ。帰って、TRPGしようぜ。ほら、まだランダムダンジョンの途中だっただろ」
「うん」
「輝耶の好きなお菓子買ってくるよ。小遣いも全部つかってやる。だから、許してくれ。僕を……許して」
「うん。許す。ありがとう」
輝耶が笑った。泣きながら、笑った。
「……良かった。ありがとう」
涙が出てきた。
まだ、泣いて油断する訳にもいかないけれど、もう涙が止まらなかった。でも、僕も泣きながら笑った。もう鼻水が出ようとそんなの関係ない。どうでもいい。どうでもいいよ。
輝耶もボッコボコにされた顔で笑っていた。きっと、腫れているだけだから、治るよな。女の子だもんな。神様は、そんなに残酷じゃないもんな。
そうしている内にバタバタと大人達が入ってきた。
僕達の無事を確認した瞬間、安心してやっと銃をおろした。重たい無骨な暴力の塊を、静かに床に下ろす。
そして、僕は倒れた。
それでも実感していた。
輝耶が無事だっていう事を。
僕は、彼女を助ける事が出来たっていう事を。
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