第67話 ヨウスコウカワイルカ 🐬



 

 中国の揚子江を南下する1艘の船のデッキで、日本人旅行客が話しています。


「さすがに大陸の河だなあ。まるで海みたいで、日本とは比較にもならないよ」

「怖いほどの川幅だね。ところで、本当にいるのかな、ヨウスコウカワイルカ」


「なんだい、それ?」

「淡水に棲むイルカで、絶滅したとかしないとかって、ラジオで言っていたよ」


 

                  🌊


 

 水の中で会話を聞いていた子どものイルカが、とうさんのイルカに訊ねました。


「ねえパパ。絶滅ってなあに?……ぼくたち、棲んでいないことになってるの?」

「そう書いてある図鑑もあるし、そうでない図鑑もあるって、おかしな話だねえ」


 子どものイルカは不満げに口を尖らせました。


「ヘンなの! いったいどっちなんだ、はっきりしろって思うよねえ、ふつう」

「一定期間に一定場所で発見されなかったら、絶滅と見なすのかもしれないけど、そんなの無理だよなあ。なにしろ、わが揚子江ときたら、この広さだからねえ」


 ピュッと得意そうにしっぽを跳ね上げながら、子どものイルカが言いました。


「だよね、だよね。ぼくら、こんなに元気だよって学者さんに知ってほしいよね」

「だな。だけど、日本でも同じことが起こっているらしいよ。とっくに絶滅したとされている二ホンオオカミが見つかったという報道が堪えないみたいだし……」



                 🐺



 子どものイルカは、ふたたび得意げに、しっぽをピュッと跳ね上げました。


「わあい、絶滅危惧種のぼくたちって、学者さんの研究の上を行っているんだね」

「そういうことになるな。せいぜい大切に守らなきゃな、生態系連鎖ってやつを」

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