こもれびヘヴンリー
月野
第1話
真夏の昼間に、帽子をかぶらないで遊びに出たのは失敗だった。
炎天下の中、視界がぐらりと揺れ、つむぎはその場にしゃがみこんだ。焼けるようなアスファルトに両手をつく。頭がぐらぐらして立ち上がれない。力もうまく入らなかった。
どうしよう、倒れちゃいそう……。
そう思ったとき、ふいにスッとつむぎの目の前に影が滑り込んできて、
「大丈夫かい?」
低い声がした。視界が霞んで顔はよく見えなかったけれど、多分男の人だった。
「具合悪いの?」
つむぎはこくんと頷いた。舌が喉に張りついて、声は出せなかった。
「ちょっとあっちで休もうか」
そう言って、男の人はつむぎを背負い、大きな木の下へ連れて行った。木陰にそっとつむぎを下ろし、
「水飲みな」
と鞄からペットボトルを取り出した。水は冷たくて、つむぎは口の中がひんやりと潤っていくのを感じた。
「しばらくここで休むといいよ。水、ちゃんと飲んでね。休んだらもうおうちに帰りな」
穏やかな声で男の人はそう言うと、つむぎに背を向けて行ってしまった。
つむぎは言われた通り、男の人にもらった水を飲み、木の下に座って彼の背中が遠くなっていくのを見ていた。
やさしい人だったなと、男の人の背中の感触を思い返していると、目にチカチカッと何かが飛び込んできて、上を向いた。すると、まるで透明な水槽の中を泳ぐ魚の尾びれのようなキラキラとした光が、葉と葉の間から顔を覗かせていた。
「うわあ、きれい……」
つむぎは木漏れ日に手を伸ばした。手の隙間から、宝石のようにきらめく光が視界に溢れるのを、つむぎはいつまでも眺めていた。
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