蒼穹の翼
猫まっしぐら
第1話 プロローグ
(エルフの隠れ里)
「エリスよ、そなたは出てはならん。人に見られてはならぬ」
「でも! みんなが戦うのに私だけが残るなんて」
「そなたはこの里の宝なのじゃよ。わかっておくれ。何かあったら長老の木に……」
長老と呼ばれた老人は少しだけ、考えを巡らせた。
「長老の木はそなたにはなにも語らぬのじゃった……なにゆえかはわからぬが」
「里長、トレントが来る!!」
「よいな、エリス、出てはならんぞ」
エリスを残して里を出た里長が里を振り返り願う。
「長老の木よ。エリスを守りたまえ……」
(夜の森)
若長のワオルがトレントに土の精霊魔法を使いながら叫ぶ。
「里長!2人やられた!俺達だけでトレント5体は無理だ!」
「無理はわかっておる。だがわれらはこの地を守らねばならんのだ!」
イシアが風を使って攻撃をかわしながら里長に尋ねる。
「人間はたすけてくれないの?」
「助けてはくれるはずじゃ、だが町からここまでは遠い。皆、何としてでも持ちこたえよ!」
魔法の音と悲鳴が森にこだまし、その音は徐々に少なくなっていった……
「くっ、イシア、ワオル、みんな力尽きたか、ぐふっ……エリ、ス……」
天を見上げた里長は苦悶の表情をしたが、それも長くは続かなかった……
夜の森には暴走したトレントの動く音が続いていた。
(明け方の森)
少し血の混じった汗をぬぐいながら町の守衛が剣士ラキアスに問いかける。
「そっちのトレントは?」
倒れ伏したエルフの顔を確認しながらラキアスが答える。
「こっちはかたづいた。そっちは?」
「こっちも終わった……しかし……」
ラキアスの苦悶の表情を見た守衛も同じ表情をして
「森のエルフは、全滅……か?」
「ああ、みんな見覚えがある。人数も確かめたが、森のエルフ全員だろう」
「くっ……間に合わなかったのか……他に生き残りはいないのか?」
「この森のエルフの里の場所は聞いていないし、そもそも人間は入れんしな。確かめようがない。それに……」
「里長もやられた、まだ年はも行かぬエルフまで……」
それほど愛想が良かったわけではなく、深い親交があったわけでもないが、やはり人間として見知った顔がもう見れなくなった事実に、ラキアスは人生何度目かのやり場のない憤りと悲しみを感じていた。
「弔って、町に戻ろう」
「ああ……」
ラキアスは山沿いに弔うため剣で土を掘り出した。守衛の何人かもそれに倣い土を掘り出し始めた。
……
(夕刻の森)
山沿いの木の十字架を背にして
「この森もさみしくなるな……」
(エルフの隠れ里)
エルフの里の入口で皆の帰りを待ちながら、エリスは涙を流していた。
「長老、みんな……どうして帰ってこないの?みんな……どうなったの?……」
そして、50年の時が流れ……
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