見せつけろ!!

夜が豚を食う。

第1話

夕陽がビルの向こう側に落ちていく。部屋に差し込む日光はもうどこにもなくて昼間友達を遊んだことが煙みたくなくなっていくみたい。

そんなある日サイトで見かけた小説。

「うまく書けない」「人気が出ない」「ただの自慰小説」「親の脛をかじりながら生きている」と嘆いていた彼、もしかしたら彼女かもしれないけれど。どちらでもいい。あの人に私は言いたいことがある。

なんだてめえの暗い小説は! それこそオナってるってもんだ。うじうじ部屋に引き篭もってりゃかけるもんもかけねえだろよ。あんたが何に対して苦しんでるのかこっちはさっぱりなんだ。


いやわかるぜ。自分にはかつて憧れた童話の主人公のように、お菓子の家に迷い込んだ経験もしゃべる猫を相続した経験も、灰をかぶるまで親にこき使われた経験も何もありゃしないよ。それに悩むに値しない事ばかりで悩んじゃうのも経験があるから、同じような人がいるのだとも知っている。何もかもが空っぽなんだ。わかるよ。


でもわかるだけさ。納得はしてない。物語の中の能力で一番強い、「なにこれ最強じゃん」って能力を知ってるか? 他人の能力をコピーする能力だよ。つまりさ空っぽなら何か埋めりゃいいじゃんってはなし! なんで自分には何もないんだって、もう終わりなんだって線を引いちゃうんだよ。馬鹿かあんた。人の色んなとこ吸収したやつが一番強いに決まってるだろ。


そんなに難しい話じゃないやろ。誰かと話すとき知り合いの話し方を真似しませんか? したことないんだったらやってみるといい。意外と楽しいから。


それにコメント!貴様らにも言う。「わかりますー」「私を見ているみたいで辛い」「共感しますー」

てめえらも便乗してオナるんじゃねえ。集団自慰は流石に不快だ。それは共感じゃなくて同情なんですー。 だってみんな主語が一人称なんだもん。共感って主語が二人称とか三人称なんじゃないの?

共感したいなら「あなたは辛いんですね」って言うべきなんじゃないの?あまり「べき」って言葉は使いたくないんだけどさ。


文句を連ねている画面の遠くを見るといつも眼鏡をかけて気だるそうなブスがいる。でもそれがいい。こことは離れた場所で話が繰り広げられているってことだから。


とにかくあなたが空っぽでそれと同じようにして内容も空っぽなのもわかった。だからいい加減あなたの空白という苦しみがどうやって圧倒的な圧迫感から解放されて発射したのか教えて欲しい。あなたの射○する様を我々に見せつけて欲しい。


何も持ってないなんて嘘をつかないでくれ。自分より文章書くの上手いんだから。それに自分は空っぽっていう自覚も持ってるじゃないか。


気持ちの悪い顔でキーボードを叩く自分はどこまでも醜い。部屋の片隅には開かれぬまま埃を被った小説や新書がたくさん積んである。彼らはいつになったら読まれるのだろうか。いや、いつになっても読まれないのだろう。

何を書いてもPVは増えないし売れる自信もない。あの人の言葉を少し借りるなら「そんな可能性は精子の一匹ほども残されていない」

そんな自分をナイフで殺すように嘘をつく。それが小説を書くってことでしょう。「ああ、空っぽだからダメだ」「自分には才能なんてなかった」と自分を何回も何回も傷つけて、痛い思いをして時には他人も傷つけた経験を書くものでしょう。小説ってものは。


売れるっていう問題じゃない。自分の喘ぎを、叫びを、掠れを、断末魔を聞かせてそれを今まで馬鹿にして来た人たちへの復讐にするってものでしょう。

てめえの憤慨を見せつけろ。

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