第7話 甘いイタズラ。苦いコーヒー

 予告映像や注意映像が流れている間、ずっと俺は桃姫さんにイタズラをされ続けていた。


「えいっ!」

「冷たっ!」

 近くに水なんかないのに何故か冷たく濡れている手を背中に入れられたり。


「よしよ〜し♪」

「…………」


 そのまま頭を撫でられたり。


「はむっ!」

「おわっ!」


 首にキスもされた。

 イタズラは更にエスカレートしていく。


「さ、流石にそろそろやめてくだ──ふぐっ……んむっ!?」

「ねぇ……舐めて?」


 そう言って俺の口の中に指を入れてきた。さすがにコレはあんまりだと思って後ろを振り向こうとすると、もう片方の手で俺の目の前にスマホを出してくる。その画面に写っていたのは俺のアカウントとリプをスクショしたもの。

 そして、クラスのグループチャット画面。


「コレ、な〜んだ?」

「っ!?」

「しょうがないから教えてあげる。私ね? キミと同じクラスなの。だからいつも見てるんだよ? だから……わかるよね?」


 同じクラスだということに驚愕しながらも、逆らえない事を理解した俺は、口に入れられた桃姫さんの指に舌を這わせた。


「んっ……! ふふ、嬉しい♪ っと、そろそろ怪しまれちゃうから行くね。バイバイ♪」


 怪しまれるってなんだ? って思った時には既に背後から桃姫さんの気配は無くなっていた。


「どういうことなんだ?」

「何がよ」


 誰に言うでもなく呟いた言葉に返事がきた。優乃だ。手にはドリンク二つとチュロスが二本。ちょうど長い宣伝映像が終わって本編が始まるタイミングだった。


「あ、いや、なんでもない」

「とうとう見えない友達でも作ったの? 寂しい人ね」


 酷い言われようだ。かといって桃姫さんの事を話す訳にもいかないしな……。まぁいいか。俺は優乃に嫌われてるから、どうせ何を言っても無駄だろう。


「はいコレ。コーヒーで良かったわよね。家で飲んでる時みたいに砂糖とミルクは二個ずつ入れておいたから」


 有難いけど、家で飲む時のグラスの倍の大きさのカップなんだよな……。だけどお礼は言っておかないと。こんなことは滅多に無いし。


「……さんきゅ」

「ちなみにチュロスはどっちも私のよ」

「だろうな」

「だ、だけど……どうしても食べたいなら私が食べた後になら一口あげてもいいわ」

「いやいいよ。自分が食べたあとに俺なんかに口をつけて欲しくないだろうし」

「……べ、別に……」

「ほら、始まったぞ」


 そして、スクリーンに映画のタイトルが映し出された。

 俺は優乃から受け取ったコーヒーを手に取り、ストローを口に付けて一口。



 ん……苦い。

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