第一話 7

蓮は咄嗟に左手の袖からトンファーを取り出して自分に向けられた鞘を弾く。

反撃で右手のトンファーを鞘がきた方向に振るが…途中で止めた。



「なんの真似じゃ…〝優(ゆう)〟。」



呆れる蓮の視線の先には、優と呼ばれた優男がいた。

やや長めの黒髪、戦では見かけない洋服を着ている。


腰には2本の剣、手には牙のような形状をした長めの剣と鞘を握っていた。

三刀流の剣士で蓮と歳は近いのだが…童顔に穏やかな表情も相まって10歳位若く見える。




優も驚いた様子で握っていた剣を鞘に収めると腰に戻した。




「蓮こそ、こんな所からなんで出てきたの?


僕達は、いかにも怪しい人物を見かけたから二手に分かれていた所さ。

村の散策は、〝剛(つよし)〟と〝椿(つばき)〟。


怪しい人物の追跡を僕と護でやってた所だよ。」



優がそういうと後ろから、1人の男が出てきた。

彼が蓮達の主人である護だ。


立派な髷と青と白の立派な着物、腰には刀と脇差と侍のお手本のような男だった。

鼻の下に髭を蓄え、優しそうな顔をしている。


穏やかな落ち着いた声で護は、蓮に話しかけた。



「蓮の事だ、無事だとは思っていたが…こんな所にいるとは。

優の保険が功を奏したのだな。


逸れた蓮の説教は一旦保留にして、先に蓮が手に入れた情報を教えてくれ。」



蓮はトンファーを袖に戻して、今までの経緯を話しした。

自分が見た感じの東や大介、そして自分が撃退した賊について。


護は視線を下に向けて顎を掴む、少し悩むように小さく唸る。

そして考えがまとまったのか視線を蓮と優に向けて、顎から手を離した。




「なるほど…そしたら、私は蓮が通った道を使い東殿と合流しよう。


また賊に入られても困る…優はこの入り口の防衛。


蓮は〝朱雀(すざく)〟を使い東野全体の遊撃を頼む。」





護の指示に二人が頷くと護は、蓮が使った通路使い砦内部に向かって走って行く。

蓮と優は、自分の視界から護がいなくなるまでその場に留まり見守った。




「…ようは、いつも通りってことだね。」



優はそう軽くそぼやくと左手に手を守るような形状の剣、右手に頭身が厚めな剣を握る。

慣れた様子で、優は護が入っていった通路の入り口の前に移動して立ち塞ぐ。


そんな優に蓮は深くため息をついた。



「簡単に言いよる…。

手助けはいらんか?」



右手を顔の高さまで上げて呆れた様子の蓮に対して、優は楽しそうにクスクスと笑う。


そして右手の剣が変形を始め銃のような形状になり、銃口を先端を蓮がいる方向に向けた。

そしてすかさず、一発だけ発砲する。


放たれた弾は、蓮の横を通り過ぎて茂みの中に入って行った。

茂みから小さく悲鳴が響くと満足そうな笑みと浮かべ、剣銃を肩にかける。



「流石に分かっているさ。

心配はいらない。」



蓮はそれを聞くと、そのままの位置で高く跳躍する。

ロケットのようにグングンと上昇していき、優が人形に見えるくらいの高さまで上昇するとそこで少しだけ止まり、砦の屋上で弓兵の指揮を執る東を見かける。



「一足先に東様に現状を聞いてみるとするかのう。

確か見張り台で指揮を取られておるのか。」



どんなに方向音痴でも屋敷の見張り台の位置くらいはわかる。

仮にいなくても、誰か他の兵士も知っているだろう。


蓮は、そのまま地面を蹴るように空中を移動して見張り台まで向かって行く。




その頃、蓮の跳躍を見守っていた優の所には蓮の跳躍に驚いたのか敵が姿を表していた。

数は10人。


武器はそれぞれ短刀や手斧、短弓など小型な武器を持っていて格好は全員お揃いの黒ずくめ。


仲良しなのかな?


そんな呑気な事を考えながら、優は向かってくる敵の相手をしていった。




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