第一話 2
東野の屋敷の前には、強固な門と城壁と2人の屈強な戦士がいた。
短めのモヒカンのした顔にある大きな傷の目立つ20代後半位の男と長い黒髪をポニーテールに縛った20代前半位の伊達男の門番は、険しい表情で彼を見る。
モヒカンの男が上の人間らしく、伊達男はどうしたらいいのか困った顔で様子を伺っている。
「ワシは怪しいものではありませんぞ。
ワシは〝蓮(れん)〟、〝護(まもる)〟様の速さの守護者である。
主人から、ここの領土である〝東(ひがし)〟殿に訪問の便りが届いているはず。
通して貰えぬか?」
どう見ても怪しさMAXな風貌な男にそう言われても…。
モヒカンの男は顔を更に険しくして頭を抱える。
問答無用で追い出さない様子を見ると、顔つきに似つかわしいほど真面目で心の優しい男なのだろう。
困り果てたモヒカンの男の後ろから声がした。
「どうかしたのか2人共?」
声のする方を見ると、頭を丸めた屈強な男がそこにいた。
歳は20代後半くらいでピシッと着こなした着物、腰には刀が挿してあり右手には鉄で作られた棍棒が握られていた。
客人の前で安堵した表情を隠さなかった伊達男をモヒカンの男は軽く小突くと坊主の男に耳打ちをして事情を話した。
ふむと、顎に手を当てると無精髭の男〝蓮〟に近づいていく。
「貴殿が蓮殿か、噂は聞いておる。
隣の領地〝和国(わこく)〟の守護者の一人…だったかな。
着崩しているが…ここは夜は大変冷える。
風邪には充分気をつけてくだされ。
申し遅れたら、私は〝大介(だいすけ)〟。
領主である東様の力の守護者。
同じ守護者同士、よろしくお願い申す。」
大介は、胸を張り堂々とした様子で右手を蓮に差し出して握手を求めた。
ダラシない格好と指摘せず、蓮の体調を心配するところから彼の人柄が窺える。
「主から、護様のご来訪か聞いている。
安全確保に単身で来られたかな?
どうぞ、こちらに。」
恥ずかしそうに握手をした蓮は、大介に連れられて砦に入っていく。
丁寧に案内されてしまったせいで、はぐれたなどと口が裂けても言えなくなってしまった。
恥ずかしい気持ちを誤魔化すように首を左右に振って案内された屋敷の内部を眺める
堅牢な外壁とは違い、屋敷の内部は普通の屋敷のようで鉄ではなく木や畳みの香りがあたりに広がっていた。
「我が主人は、木の香りが好きでな。
部屋や家具…武具までも鉄と木を組み合わせて作ったものを愛用されている。
貴殿の主人は何か好きなものはあるか?」
「護様は、そうなぁ…花が好きじゃのう。
奥様も花が好きで共に花壇いじりを良くなさっておる。」
そんな他愛もない話をしていると、蓮は大きめの客間に案内される。
そこまで大きな屋敷ではないため客間につくまで時間はかからなかった。
「他の方が到着するまで、この客間で待って頂きたい。
茶は緑茶でよろしかったかな?
楽にして過ごしてください。」
大介は、そういうと蓮を客間に残して襖を穏やかに閉めて去っていった。
守護者という幹部とも重鎮ともいえる立場の人間が旅館の女将顔負けの気配りを見せたことに感謝をしながら蓮は客間の畳に腰をかけて休んだ。
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