初めてだらけ。
夜桜
1話-
トラジノ
珍しく任務も書類整理も落ち着き
丸一日予定が無く、虎丸は非番になった。
虎『〜🎶〜〜🎶』
長期任務だった為、休暇が無く神経も心もすり減っていた虎丸だったが『休暇』が決まった途端に"真紅の鬼神"とも恐れられる『タロス』の前から走り去ったのである。
そして今日は任務のため久しく行けていなかった下層街区に住まう過去の自分と同じ境遇の子供たちと戯れに行こうとしているのだ。
この日のために任務帰りに買い溜めした大量の菓子や食料、飲み物や衣服を詰め込みながら、鼻歌交じりにあれやこれや右往左往しながら忙しく準備する。
虎『〜🎶〜〜🎶……あ』
何かを思い出したように忙しく動いていた手を止めどこかに連絡をしようと端末を取り出した。
ピッ プルルル プルルル…
2コールで受話器をとる音が聞こえた。
虎『もちもち〜!!あ、ねぇ今日時間ある?』
電話越しに聞こえる気だるく話す男の声。
その後ろから茶々を入れるように陽気な機械音声も入ってくる。
虎『って事でさぁ〜力持ちが必要なの!
あとで迎えに行くからよろしくね〜🎶じゃっ』
?『ちょっ、虎丸!まて…』
ブツッ
一通り今日成し遂げたいことの事情を話し、相手の拒否も虚しく一方的に通話を切ってしまった。
虎『さぁ力持ちも無事確保したし、準備も終わったからバード商会まで迎えに行こっ……よっと』
大きな袋を持ち、肩に担ぎ上げると自室の扉を開けて鍵をかけ目的の人物を迎えにバード商会に歩き出した。
空『どこ行くんだ?』
滝『とら〜なにしてんの〜?』
スサノヲ拠点の門前で兄と言っても過言ではない二人と出くわした。
虎『これからバード商会までジノちん迎えに行って下層街区に行くの〜』
口に含んだ飴玉をカラカラ転がしながらニコッと2人に向かって微笑む
空『おま…ジノちんってあのバード商会のDinosebの事か?』
虎『うんーそうそう』
滝『いつもの"あれ"に連れていくの?
最近お前ら仲良いよなぁ』
Dinosebいう名前を聞き目を丸くする空丸を横目に滝丸は落ち着きなよ、と肩を叩く
空『Dinosebって、シオンvsヒューズ試合後にお前の腕切り裂いた奴だろ…!?』
虎『そうだけど…なんかダメなの?』
空『ダメではないが…また怪我したらって』
滝『まぁまぁ、そらは過保護だから。』
虎『ていうかアレは喧嘩じゃなくて手合わせ!
心配しすぎだよ、そら。』
慌てふためく空丸をなだめるように
空いた口に飴玉をほおり投げた。
カラン
虎『男に会いにいく、って言うよりマシでしょ』
極めつけの一言。
空『……と、らまる…?』
滝『ひゅ〜🎶やるぅ』
小さな虎から発せられた言葉に目と口を見開いたまま空丸は停止。
滝丸はその反応を見て腹を抱えながら地面で転げ回っていたのだった。
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バード商会門前
コンコン
虎『特務機関スサノヲ 九番隊所属 副官 百目鬼虎丸です。Dinosebに用があります。開門を要請します。』
ギシギシと音を立て物々しい扉が開かれて行く。
辺りを見渡すと、ハルファスは浮遊しているがDinosebの姿はない。
虎『あれれ…ジノちんどこいった…?』
中へ入りながらキョロキョロとDinosebを探すと
カウンターに見覚えのある人物が座っているのが見えた。
虎『すみませんDinosebってどこに行きました?
ちょっと今日一緒に出かける予定がありまして…』
『おや、百目鬼くんじゃないですか。
Dinosebならあそこに。』
荷が積み上げられた物陰に隠れるように座っていたDinosebを指差す。
D『ちょっと。めんどくさい事に巻き込まれたくないからと見つからないように隠れていたのにそれは酷いですよ。』
眉を顰めて小さく舌打ちをするDinoseb
はぁ…と溜息をつきながら虎丸の前に立つ。
『仲良い事はいい事です。その絆を大事にして下さいね。』
虎『はぁーい!』
D『別に仲良いわけでは…』
虎『えージノちんがいじめるー』
うわぁーんと泣き真似をして中年の男に駆け寄る虎丸を見て、反射的に右腕を掴み引き寄せてしまった。
D『…軽々しく人に近付くものではありませんよ』
虎『ぐあ。びっくりした!力強いよお』
ぷらぷらと生身の腕を揺らし大袈裟にアピールする虎丸。
『Dinoseb、女性には優しくしなければ行けませんよ』
咥えていたタバコの灰を落としながら右手で口元を隠しながらくすくすと笑っていた。
D『虎丸は女性ではないです。獣で言うならメスですね。』
『…貴方が敬称を外すのは珍しいので少し驚きました』
『虎丸』、と呼んだことにより目を丸くしてしまった。
虎『ジノ、早く行こう。子供たちが待ってる』
D『私は行かないとあれほど…』
マ『ご主人、行かねえと虎の姐さんが泣き出すぜ』
ハルファスを介してマルファスがDinosebに話し掛ける。
虎『やぁマルファス!そうだよ、僕泣いちゃうよ〜』
D『これでは拉致ですよ』
虎『まぁいいや!Dinoseb借りて行きますね』
カウンターに座る男に要件を伝え、手を振りながら嫌がるDinosebを連れ出して行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
D『はぁ…面倒臭い…』
大きく溜息をつきながら
虎丸の後ろをハルファスを浮遊させながら着いて行く。
虎『面倒臭いっていいながらも着いてきてくれるジノちんは優しいねー』
D『まぁ、あそこ(バード商会)に居ても今日は依頼ありませんし。暇してましたからいいんですけど…』
淡々と会話を続けながら下層街区に向かっていた。
虎『訓練校を卒業して、スサノヲに所属してから結構頻繁に来てるんだ、下層街区。』
いつもの笑顔を曇らせながら、端末を覗く。
マ『虎の姐さん、下層街区ってどんな所なんだ?』
D『人が沢山死ぬ所ですよ』
虎『そう。たくさん、毎日人が殺されたり、病気とかき飢餓でう死ぬの所、そして僕の住んでた場所』
へへ。と蚊の鳴くような声で無理に笑う。
マ『虎の姐さんはそこで産まれたのか?』
D『マルファス、それ以上はやめておけ』
虎『いいのいいの!
産まれたところは普通の家庭だったし
裕福ではなかったけど兄と父に育てられたよ。母さんは僕を産んで直ぐに死んじゃったみたいだけど。
兄と父もオリンピア爆発事件で死んじゃって幼い僕は孤児になったってだけよ』
マ『虎の姐さんも苦労してたんだな』
虎『何年かさまよって死にかけてた所に視察で来てたツクヨミの文官に拾われて、訓練校ぶち込まれたんだけどね笑』
D『拾われるのは、運が良かったからです』
虎『……あ。そんな話してたら着いたよ!』
酷く汚れた服に見ただけで分かる下層街区の現状。
腕の無い者、脚のない者。
茶色く変色した水を溜めて洗顔をする者。
子供から老人まで様々だった。
D『……ッ』
現状を見たDinosebは何かを思い出したかのように眉を顰めた。
虎『ジノちん、きつい?』
D『いえ、平気です』
虎『キツかったら直ぐに教えて?
あと荷物、そこに置いてくれないかな』
D『分かりました。マルファス、それも下ろしてくれ』
マ『あいよ〜』
Dinosebだけではなく、荷物持ちはハルファスも同じ。
来る途中にも買い足したであろう荷物はハルファスのワイヤーで吊るしながら持ってきた。
虎『これでよし…今回もたくさん笑顔見られるかな』
D『笑顔…?』
虎『みんなー!!!とらだよーーー!おいでー!!』
大きな声を出すと、子供たちが物陰からチラチラ覗いていたのをやめ、ゆっくりと近付いてくる。
虎『ほら!今日はいつもより多いよ!任務でなかなか来れなくてごめんね』
D『これ、全て虎丸が用意したものなんですか?』
虎『そう。僕個人のお金でね!僕と同じ子供を増やしたくないからできる限り支援したいんだ』
D『お人好しですね』
虎『勝手に言ってろぃ笑』
『とらさんだー!!』
『おねえちゃんに会えなくて寂しかった〜』
『副官様、こんな私たちにいつもありがとうございます』
虎『ほらほら!お姉さんのとこ子供多いんだからもっと持っていきな!!!』
様々な声が聞こえてくる。
感謝や、小さく聞こえるが『毒入りじゃないのか…?』などの疑うような声も。
少し遠目から虎丸が支援しているのをハルファスと共に眺め、地面に座り込んでいた。
D『人がすごい…』
マ『沢山の人間が流れ着くんだろうなー』
虎『にししっ笑
うわー!お前それ僕が来る時食べてたやつ!』
『早い者勝ち〜!笑』
虎『このやろー捕まえてやる笑』
『きゃー!あははは!!』
笑顔で子供と遊ぶ虎丸は
スサノヲの副官とは思えないほど無邪気だった。
マ『ご主人も虎の姐さんみたいに笑えるといいな』
D『馬鹿言うな。私にはもうそんな感情なんてとうの昔に失った』
ふと視線を見ていた所に戻すと虎丸の姿がない。
D『…虎丸…ッ!?』
ばっと立ち上がり辺りを見渡しても虎丸の姿は見当たらなかった。
D『クソっ目を離した隙に…!ハルファ…!?』
ハルファスに周囲を見て来いと指示を飛ばそうとしたそのその時
虎『捕まえたーーーーー!!!!!』
『お兄ちゃんつかまえたあ!』
背後からそっと近付いて来た虎丸と子供数名にのしかかられてしまった。
D『マルファス…っお前分かってて…!』
マ『いや〜ちょっと面白そうだったから黙ってた』
ハルファスからは見えていたがマルファスは面白がって止めなかったのだ。
虎『ジノちんつっかまーえたー🎶』
『きゃはは!お兄ちゃんよわーい!』
D『重たい…』
虎丸の腕が首に回され、子供には腕を押さえつけられている。
のしかかられたまま意気消沈していた。
虎『よいしょ…!』
Dinosebの上から体制を整え立ち上がった虎丸はDinosebに手を差し伸べこう言った。
虎『ジノちんも遊ぼうよ!たまにはいいでしょ?』
D『遊ぶも何も…私、そういうの知りませんし』
マ『ご主人、たまにはこういうのも悪くないと思うぜ』
ハルファスからワイヤーを垂れ、子供を乗せブランコのように遊ばせているマルファスを見て頭を抱えるDinoseb。
D『ハルファスは戦闘用で娯楽用ではないんだが…』
虎『まぁいいじゃん!マルファスもあー言ってるし!ね!』
眩しいほどの笑顔を向けながら子供たちの輪にDinosebの手を引いて行く虎丸に負け、『分かりました、どのように遊ぶかは知りませんので御教授してくださいね。』と諦め輪に入っていった。
虐げられながらも生き、大嫌いだった下層街区。
そこにこのような形で戻ってくるなんて思ってもいなかった。
辛かった日々を思い出し、最初は近づくのも嫌だった。
なんで彼女は自ら下層街区に戻ったのかは謎だが
あそこで生きた者たちは下層街区から脱した後
近づきたくも無いと思うのは普通だと思っていたのに
彼女は笑顔で下層街区を子供と共に走り回っている。
お人好しなのか…。
遠目から見てるだけで良かったんだ。
土足でガツガツと私の心にも踏み込んでくる彼女。
初めての感覚にどう対処していいかもわからず
適当にあしらうと余計に付き纏い、踏み込んでこようとする彼女に頭を抱えた日々だった。
群れることは嫌いだけれど、虎丸となら特別嫌な気も起きない。
胸の奥底から湧き上がる謎の感情にDinosebが眠ることも出来ず頭を抱え、マルファスに笑われる日が来るのはまた別の話。
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