第2話 ククク、恋のお手伝いポジで好感度を上げてやるぜ

「士道! 士道!」


 俺の名前を呼びながら誰かが体をゆすっている。体が揺れて意識がドンドン戻って行く感覚の中でその声は聞こえた。



 眼が暗闇に慣れていたからだろう眩しい。ゆっくり目を開けると見慣れた顔がそこにあった。だが、いつもの笑顔とは違い目に涙を浮かべて顔は歪んでいた。寝鳥愛華、俺の母上だ。



「母さん……」

「良かったわ……士道」


母さんの近くにはお医者様が居て俺を再び観察する。


「ふむ、どうやら無事に目を覚ましたようだな。雷に打たれてほぼ無傷……信じられないが……」

「士道? 私が分かる?」

「ああ、うん……母さんだよね?」

「そうよ……良かったっ……」



その後、医者と母さんは話すことがあるらしく、一旦部屋の外に出て行った。その間俺はベットの上で待機しながら外の景色を見る。


 この病院は五階建て。空がいつもより近く見えて住宅街が小さく見える。先ほどまでの豪雨はすっかり止んで日が町に差し込んでいる。


 そして、ガラス越しに映る自分も目に入った……黒髪黒目ではなく、銀髪オッドアイ、右目が赤で左が青……



「なッ!?」



 そうか、やっぱり神様との邂逅は夢ではなかったのか。だとするなら今の俺にはNTR特性が宿っているはず……どうしよう。彼女欲しいけど、でも、そんなの本当に使っていいのだろうか?



 俺はラブコメ漫画とか好きだけど、純愛じゃないと体が受け付けないんだ。と言うかこんな見た目で大丈夫だろうか? 変な奴に思われないだろうか? あ、でも俺のクラス頭髪カラフルだがら大丈夫か……



 落ち着け、一旦現状を整理して……今後どうするのか改めて……


「士道、帰るわよ」

「え!?」


考えようとしたら母親が病室に入ってきて、帰宅をすると言う事を告げたので思考を中断せざるを得なくなる。



お医者さんにお礼を言って車の助手席に乗る。母さんがエンジンをかけ、エンジンを踏み家に帰る。


運転をしながら母親が俺に言った


「それにしても、士道、いつからイメチェンなんかしたの? 銀髪にオッドアイなんて」

「ああ、これは……まぁ……今日した」

「へぇ、美容院いってイメチェンした帰りに雷打たれたってこと?」

「……ああ、うんそんな感じ……」




神様に銀髪オッドアイにされたって言われても信じるわけない。適当に誤魔化すに限るだろう。




「雷に打たれて死なないなんて幸運ね。本当に良かったわ」

「打たれること自体が不幸な気もするけど」

「生きてるだけで幸運なのよ」



 母さんは俺に言っていると同時に自分自身にも言っているように思えた。その後、ため息をつく。



「はぁ、お見舞いに私しか来ないなんて……彼女でもお見舞いに来て欲しいものね」

「うっ……」



確かに。俺が雷に打たれてことが知らないと言う事はあるだろうが、例え知っていたとしても誰も来なかっただろう。



「士道が良い人を見つけてくれないと私は死にきれないわ」

「……」

「私は……天国にはお父さんが居るからいつ死んでも良いと思ってるし、死ぬなんて怖くない。ただ、士道が結婚する位までは見届けたい……」

「……」

「だから、はやく彼女を作ってね。そして、結婚して」

「ああ、うん……」

「まぁ、そう簡単にできるわけないと思うけど……未来にお正月で一人で袢纏を着てコタツで一人でみかんを食べるとかはやめてね。見たくないから」

「あ、はい」




俺は車の助手席で肩身を狭くして只管に下を向いて過ごした。その日は母さんはいつもより豪華な夕食を作ってくれた。退院祝いとしてなのだろう。ハンバーグの中にチーズをインしてくれた。


食べながら母さんを早く安心させるような彼女が欲しいなと言う気持ちが強くなってるのが分かった。



◆◆



「士道、学校遅れるわよ」


母さんにそう言われて俺は起きた。二階の一室から出て洗面所で顔を洗う。銀髪でオッドアイ……なぜこうした?


 髪を整えて、歯磨きをして制服を着る。昨日は雷が自身の落ちたと言うのにいつもと変わらない日常が再び始まる。荷物を纏めて母親に行ってきますと言い家を出る。



通学路を歩いていると周りがガヤガヤといつもより騒がしい。その理由は直ぐに分かる。俺の見た目だ。


「あ、士道君…‥? おはよう?」

「っ!」


後ろから可愛らしい声がするので振り返るとショートヘアーのピンクの髪。麗しい碧眼。鴛鳥天音が居た。


「お、おはよう」

「やっぱり士道君なんだ。雰囲気変わったね?」

「あ……」



 天音の雰囲気とは銀髪オッドアイの事を言っているのだろう。あのクソ神め……。内心ではあの神に毒を吐くしかない。なんで変える必要があったんだ。いきなり普段黒髪黒目の奴が銀髪オッドアイは周りは絶対引くのに……



「ふふ、ちょっと可愛い」

「え? 可愛い?」

「うん、私の妹もオッドアイとか大好きだから」

「あー、そうなんだ」




どんな妹さんなのだろう……気になるな。でも、それより天音がどうしてここまで可愛いのかが気になるな。声も仕草も全部可愛い。いや、きゃわいい。



「そうなの。この前もカラコンして眼が充血しちゃって……病院行きなって言っても言うこと聞かなくてさ、困っちゃうよ。でも、そこが可愛いんだけどね」

「あー、確かにね」



あー、を言葉を発する前に挟んでしまう謎のルーティーンが出来上がってしまう。これはしょうがない、そんな直ぐに返答できるわけがないから、あー、の間に考えているのだ。



話している間、俺は目を合わせないようにしつつ上履きに履き替える。彼女も履き替えてサンダルを慣らすために地面につま先をトントンと二回ほど当てる。


世界一、足トントンが可愛い。これ一時間耐久でも見れるぞ……流石にキモいからこれ以上考えるのは止めよう。



「じゃ、また一組でね?」


一緒に行こうとは流石に言われない。まぁ、変に勘違いされたりとかすれば恋する彼女的にはアウトだろうしな……

あーあ、こんな子に好かれている鈍麻が羨ましい。こんな子が彼女なら、彼女であったならどれだけ良いか。




『悪い奴になれ』か……



 ナデポをすれば彼女の心がバーニングキャッチできるのだろうか。でも、ある程度の好感度が無いと意味がないって神は言ってたな。



 今後どうするべきか、分からずに俺は教室に到着していつもの席につく。


「ど、鈍麻君、おはよう」

「おっす、天音」

「鈍麻君、今日もカッコいい」

「何か言ったか?」

「いやッ、何も言ってないでござる!」

「急にどうした?」




 前で例の如くイチャイチャする二人。何で天音の声が聞こえないんだ? そもそも、ある程度の好感度が無いとニコポもナデポも意味ないなら俺にはどうしようもない。鈍麻のように俺もイケメンだったら……毎日のようにそう考える。イケメンだったらイージーモードの人生で彼女も……


……違うな。俺に彼女が出来ないのは俺が何もしないからだ。何もしてこなかったからだ。だから、俺には何もない。


前のような光景に手を伸ばさずただ見ているだけ。


 俺だって、恋愛とかラブコメがしたい。母さんも安心させたい。欲望があるなら手を伸ばして変わらないと……だから……俺は悪い奴になろう……今、踏ん切りがついた。

 


◆◆




 さて、悪い奴になる決心がついたがどうするべきなのだろうか?


 そもそも悪い奴になるにはどうしたらいいのか?


 ――クククク、俺は悪い奴だ! 夜にお菓子を食べてるぜぇ? 悪い奴だろう? 暗い部屋でゲームやってるぜ? 悪い奴だろう?



 ……こういう事ではないことは流石に分かる。うーん……前でイチャイチャしている天音を寝取るとか……いやいや……俺には高嶺の花すぎる……でも、今フリーだよね?


 実際フリーだよね? じゃ、アピールしてもいいんじゃね? 特性を最大限使って好感度を上げて彼女にしてもいいんじゃね?


 好感度を上げるにはどうすればよいか? 何か俺から行動を起こさないといけないことは明白。ただ待つだけではだめだ。


 ……あ、恋愛に協力してその間に好感度を上げればいいんじゃないか? 鈍麻との恋を応援すると言って彼女に近づく。


 協力をして行動するうちに好感度は上がるはず。よし、やろう。


 クククク、俺が悪い奴になって最初の行動だ。



◆◆



 休み時間、俺は勇気を出して天音に話しかける。



「あ、あの、天音さん?」

「ん? どうしたの? 士道君?」

「えっと、僕天音さんに話したいことがあって」

「あれ? 士道君一人称僕だったっけ?」

「うん、そうだよ」

「そっかぁ……」



嘘である。俺は何となく、一人称は俺より僕の方が悪い奴な感じがするから僕に変えたのである。



「えっと、それで天音さんって鈍麻君の事好きだよね?」

「ええ!? ど、どうしてそれを!?」

「後ろの席だから良く見えるんだ」

「そ、そうかぁ……秘密にしてほしいな?」


首をかしげる天音、こちらのペースが乱されそうになるがそれを何とか抑える。



「勿論。それでね、天音さんの恋を応援したいんだ」

「ええ!? どうして!?」

「うん、まぁ、何となく」

「そ、そうなんだ……嬉しいけど、士道君に悪いよ。私の問題なのに」

「いやいや、俺がやりたいって言ってるから…‥」

「……うーん、じゃあ、お願いしてもいいかな?」

「勿論だよ」



何だか、騙してる気がして若干心がざわつくがそれは気にしないことにしよう。



「じゃあ、早速で悪いんだけど、士道君に質問してもいいかな?」

「うん」

「私みたいな芋女に魅力ってあるかな? 鈍麻君、私を見向きもしないし……女としての自信が無くなるときがあるって言うか……」

「あー……」



これは、何と答えればいいのだろう。悪い奴になって最初の難関だ。ここで彼女の自信を取り戻してあげつつ好感度を上げる返信をしないといけない。彼女は今、自分の評価を下げている。


なら、それを褒めて上げて彼女自身の評価を上げる。だが、これだけでは足りない、ここにさらに俺自身の評価を下げる。そうすることで自身の凄さが明白になる。


ククク、悪い奴が板についてきたな。これなら彼女の好感度も上がるだろう。


「天音さんが芋女なら、俺はミドリムシみたいなものだよ」

「ええ!? そんな自分を卑下しないでよ!?」

「大丈夫、本当の事だから」

「いやいや、そんなことないよ!」

「俺には魅力ないけど、天音さんは魅力あるから自信をもって!」

「いや、士道君にも魅力あるよ!」



なんか、彼女が元気になってる気がする。



「もう、冗談でもそんなこと言っちゃダメだよ? でも、私を元気付ける為に言ってくれたんだよね? ありがとう、士道君っ」


 そう言いながら彼女はニッコリと笑った。これは確実に好感度が上がっている!!


 悪い奴の成果が早速現れてる……クククク、ここからドンドン好感度を上げてやる。


 心の底で俺は笑う。心の外である顔は彼女の笑顔が可愛くて頬が赤くなってしまった。



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