警視庁公安部特殊事案調査課 特殊事案ファイル

凡ボヤジ

プロローグ

警視庁公安部特殊事案調査課、通称“特事課”は秘匿された存在である。

警視庁外はもちろんのこと、警視庁内部にもその存在を知る者は数少ない。

特事課の主たる業務は、現代科学では理解の及ばない怪異、超常現象の類が

関与していると推定される“おかしな事件”を解明、及び社会から秘匿することである。


特事課の面々について、簡単に紹介しておこう。

まずは特事課の長たる万代万代(ばんだいましろ)課長、四十二歳、男性。

長身痩躯に青ざめた血色の悪い顔、目の下のクマがトレードマークだ。

三度の飯より珈琲を愛している。というか食事を摂っているところを

見たことがない。ついでに眠りもしないのではないかとの噂あり。

特事課以前の経歴は不明。謎多き人物である。


警備部警護課出身の塩津駿(しおづしゅん)、三十四歳、男性。

格闘家を思わせる筋骨隆々の体躯に眼光鋭い強面、頬に深い傷跡がある。

警護課時代に国賓警護を担当した際に、あろうことか顔面で銃弾を

受け止めたとの噂だ。

剣道四段、柔道五段、日本拳法総合選手権大会にて優勝実績あり、他にも

空手、ボクシング、シラット、テコンドー…とにかく枚挙に暇のない程

様々な格闘技を収めている化け物だ。


三人目は科捜研出身の久良岐央子(くらきおうこ)、年齢不詳、女性。

常に白衣姿で電子タバコを咥えている。チェーン付きの眼鏡をネックレスのように

首から下げているが、実際に眼鏡を掛けているところは見たことがない。

本人曰く、白衣を含め博士然とした風貌は意図的なファッションであるとのこと。

およそダイエットやエクササイズ、美容といったものには興味がないにも関わらず、

容姿は優れており、その大きな瞳に見つめられると、誰しも心を奪われてしまう。

その美貌と毒気のある物言いで塩津をからかうことが趣味であると公言している。


四人目は元霊媒師の浴野霊慈(あびのれいじ)、二十四歳、男性。

つまりは僕だ。

「万代課長、報告書三件、まとめ終わりました 」

「ありがとう、塩津巡査。お昼はもう食べたのかい? 」

僕はキーボードを適当に叩きながら二人の会話を盗み聞いた。

「いえ、課長とご一緒しようかと 」

「いやぁ、私は昼ご飯食べないんだ。知ってるよね?浴野くんと行っておいで 」

ぎょっとして課長と塩津さんを見た。

塩津さんが片眉を上げ、なんとも嫌そうな目で僕を見ていた。

「自分と浴野、二人きりで飯を食うのでありますか 」

そんなに嫌がるもんじゃないよと万代課長は手をひらひらさせて塩津さんを追い払った。

塩津さんは一つ溜息をつくと、僕のデスクに近づいてくる。

努めて気づかぬ振りをしようとパソコンのモニターに全視神経を集中させたが…

「おい、聞こえてただろ。てか見てただろ。行くぞ、飯 」

塩津さんのドスのきいた声が頭上から聞こえ、僕は観念した。


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